医療法人における対関係事業者取引の事業報告書を通じた実態把握の限界
掲載誌 | 和光経済(和光大学社会経済研究所) |
巻・号 | 第56巻第1号 |
開始・終了頁 | 1-13頁 |
発行日 | 2023年8月10日 |
論文掲載サイト | https://wako.repo.nii.ac.jp/records/2000003 |
目次
- はじめに
- 医療法人が関係事業者との間で行う取引の状況に関する情報開示
- 関係事業者との間で行う取引の状況に関する情報を開示する意義
- 「関係取引報告書」の作成が求められる背景
- 開示対象となる取引の範囲
- 関係事業者との取引の額と医療法人の規模との関係
- 調査の内容
- 使用したデータベース
- 調査対象
- 調査結果(1) 関係事業者との間で行われた取引の概況
- 調査結果(2) 調査対象期間中に「関係取引報告書」への記載がなくなった医療法人の状況
- 調査の小括
- 「関係取引報告書」に係る現在のルールの限界
- 医療法人側から「開示外し」を行うことが可能
- 医療法人の役員が受け取る報酬の非開示
- おわりに
要旨
本論文は、東京都に対して事業報告書等の届出を行っている社団医療法人(本来業務事業収益の額が5億円以上のものに限る)を対象として、「関係事業者との取引の状況に関する報告書」が導入されてから4年間における開示内容の変化について調査した結果をまとめたものである。調査の結果、「関係事業者との取引の状況に関する報告書」において開示されている情報は減少傾向にあることが明らかとなった。「関係事業者との取引の状況に関する報告書」に情報を記載しなければならない関係事業者の範囲は具体的な金額によって定められているため、医療法人がその事業規模を操作して「開示外し」を行った可能性についても検討したが、最後に開示が行われた年とその翌年の事業規模を比較したところ、「開示外し」につながるような著しい規模の変化はみられなかった。
参考文献
- 青木研「参入規制としての非分配制約規制とその効果について」『医療と社会』第9巻第1号、1999年。
- 小幡文雄「営利医療の潜在力」『病院』第61巻第1号、2002年。
- 佐々木克典『メディカルサービス法人をめぐる法務と税務―医療法人・関係事業者のための実務ガイド―』清文社、2016年。
- 谷川栄一「医療の非営利性をめぐって・補遺―株式会社参入反対論に対するある疑問―」『社会保険旬報』第2170号、2003年。
- 塚原薫「医療法人の発展と医療法人制度改革の展開―その活性化をめぐって―」『名古屋学院第額論集 社会科学編』第49巻第3号、2013年。
- 新田秀樹「医療の非営利性の要請の根拠」『名古屋大学法政論集』第175巻、1998年。
- 海老原諭「医療法人に係る会計ディスクロージャー制度のねらいとその限界―会計情報に関する『世間からの目』の違いに着目して―」(和光経済経済経営学部編『現代に問う経済のあり方、経営のあり方』創成社、2021年、所収)。
- 海老原諭「医療法人による『関係事業者との取引の状況に関する報告書』における情報開示の現状と課題―第7次改正『医療法』施行初年度の開示状況調査をもとに―」『和光経済』第54巻第2・3号、2022年。