省令「医療法人会計基準」逐条解説|第2条 会計の原則

医療法人会計
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省令「医療法人会計基準」第2条では、この省令の適用対象となる医療法人が会計処理を行ったり、計算書類を作成したりするうえでの一般原則について規定しています。

第2条 医療法人は、次に掲げる原則によって、会計処理を行い、貸借対照表等を作成しなければならない。
一 財政状態及び損益の状況について真実な内容を明瞭に表示すること。
二 全ての取引について、正規の簿記の原則によって、正確な会計帳簿を作成すること。
三 採用する会計処理の原則及び手続並びに貸借対照表等の表示方法については、毎会計年度継続して適用し、みだりにこれを変更しないこと。
四 重要性の乏しいものについては、貸借対照表等を作成するために採用している会計処理の原則及び手続並びに表示方法の適用に際して、本来の厳密な方法によらず、他の簡便な方法によることができること。

先行基準における一般原則との関係

省令「医療法人会計基準」第2条において規定されている4つの一般原則は、2014年に公表された四病院団体協議会会計基準策定小委員会の「医療法人会計基準に関する検討報告書」のなかに示されている「医療法人会計基準」(以下、「四病院基準」といいます)に示された4つの一般原則を踏襲したものになります。

企業において行われていた会計管理の手法をとりいれることを目的に起草された「病院会計準則」では、「企業会計原則」において規定されている7つの一般原則に重要性の原則をあわせた8つが基本原則とされていますが(「病院会計準則」第6ないし第13)、四病院基準や省令「医療法人会計基準」では、このうち資本と利益の区分の原則、保守主義の原則および単一性の原則の3つの原則が除かれており、また、真実性の原則と明瞭性の原則が1つにまとめられています。

 真実性正規の簿記資本利益区分明瞭性継続性保守主義単一性重要性
企業会計原則
病院会計準則
四病院基準   
省令基準   

一般原則をこれら4つにまとめる方法は、伝統的に社会福祉法人会計に係る規定のなかでとられていたものになります(昭和51年1月31日厚生省社会局庶務・施設・児童家庭局企画課長連名通知(社施第25号の2)「社会福祉施設を経営する社会福祉法人の経理規程準則の制定について」第一、「社会福祉法人会計基準」(平成28年厚生労働省令第79号)第2条)。したがって、省令「医療法人会計基準」の一般原則は、病院をはじめとする医療提供施設が、その財産の状況を把握するために伝統的に利用してきた「病院会計準則」の流れを汲んだものとはいえないでしょう。

4つの基本原則

真実な内容の明瞭な表示

医療法人は、その財政状態および損益の状況について、真実な内容を明瞭に表示しなければなりません。

財政状態とは、期末における資産・負債・純資産の状況をいいます。医療法人が期末において保有している財産(金銭、物品等)だけではなく、将来の財産の状況に影響を及ぼす債権(医業未収金等)や債務(借入金等)の状況についても開示する必要があります。これらが開示されることで、都道府県、金融機関をはじめとする計算書類の利用者は、その法人について、将来における事業の継続可能性などを検討することができるようになります。

損益とは、収益と費用の差額として計算される損失または利益のことをいいます。現金収支ではなく、発生主義に基づいて計算された収益と費用が使われることに注意してください。なお、「企業会計原則」等では、「損益の状況」ではなく、「経営成績」という文言が使われますが、医療法人は、一般に営利を目的としない組織とされているため、省令「医療法人会計基準」でも、「成績」という言葉は使用されていません。

「明瞭な表示」については、文字通りに解釈すれば、「企業会計原則」等とは意味が変わっています。「企業会計原則」等では、企業が会計処理を行うにあたって採用した方法(重要な会計方針)や後発事象、注記事項などの財務諸表数値を補完する情報を開示することを指しますが(「企業会計原則注解」注1-2、注1-3、注1-4)、省令「医療法人会計基準」では、財政状態および損益の状況の開示という内容に置き換わっています。

しかし、省令「医療法人会計基準」では、計算書類において開示した数値を補完する情報を開示する必要がないと考えられているのかといえば、そうではありません。重要な会計方針については第3条や第4条、後発事象の開示を含む注記事項については第22条で別途定められているからです。

正規の簿記の原則による会計帳簿の作成

医療法人は、正規の簿記の原則に基づいて会計帳簿への記録を行っていかなければなりません。世紀の簿記の原則に基づいて行われる会計帳簿への記録とは、すべての財産の動きを秩序正しく、網羅的に、かつ、検証可能な形で記録していくことをいい、これは、基本的には複式簿記の方法で記帳を行っていくことによって実現されます。

なお、正規の簿記の原則は、会計帳簿を何を使って作成するかを制限するものではありません。このため、会計帳簿は、表計算ソフト、会計ソフト、経理システムなどを用いて、コンピュータ上で作成することも可能です(電子帳簿)。ただし、この場合は、原則として、会計期間を通じて電子帳簿を使用しなければなりません。手書きの帳簿と電子帳簿を会計期間の途中で切り替えたり、併用したりということは、それぞれの帳簿において記録の網羅性を欠くことになるため認められません。

会計処理の原則・手続、計算書類の表示方法の継続適用

会計処理の原則や手続、計算書類の表示方法は、原則として、毎会計年度継続して適用しなければなりません。

会計帳簿への記録の方法には複数のものが認められており、そのどれを採用するかによって、計算書類上の金額は変わります。このため、会計処理の原則や手続を変更してしまうと、前期以前の計算書類に掲載された金額との比較ができなくなってしまいます。また、これは表示方法についても同様で、ある会計期間の計算書類には記載されていたことが、別の会計期間の計算書類には記載されていないということになると、医療法人の財政状態や損益の状況の変化を適切に把握することができなくなってしまいます。会計処理の原則や手続、計算書類の表示方法の継続適用は、異なる会計期間に作成された計算書類の比較可能性を確保する観点から重要なものとなります。

なお、これは、会計処理の原則や手続、計算書類の方法を変更することが一切認められないという意味ではありません。医療法人の経営状況が変わった結果、他の方法によった方が財政状態や損益の状況を適切に把握できるなどの正当な理由がある場合には、これらを変更することも可能です。その場合は、会計処理の原則や手続、計算書類の表示方法が変わった旨、その理由、加えて、その変更による影響額をあわせて開示する必要があります(省令「医療法人会計基準」第4条)。

重要性の原則

会計処理や計算書類の作成にあたって、重要性の乏しいものについては、簡便な処理方法や表示方法によることができます。

企業会計の場合、重要性の判断は、投資者などの利害関係者が経済的意思決定(株式を売買したり、保有を決断したりすること)を行うにあたって重要視するかどうかという観点から行われます。一方、医療法人の場合は、一般に不特定多数の者から出資を受けることが想定されていませんから、企業会計の考え方をそのまま踏襲することはできません。利害関係者には、法人に対して融資を行う金融機関等も含まれますが、金融機関は融資にあたって独自に審査を行うこともできるため、計算書類を作成するにあたっての一般原則として規定するほどではありません。

省令「医療法人会計基準」では、誰の立場から重要性を判断するかについて明らかにされていませんが、現在、医療法人が作成する計算書類は、監督権限を有する都道府県知事に対して届け出られていますから、第一義的には、都道府県知事が医療法人の財産の状況を理解するうえで重要となるかどうかというのがひとつの判断基準となると考えられるでしょう。

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