省令「医療法人会計基準」逐条解説|第3条 重要な会計方針の記載

医療法人会計
《広告》

省令「医療法人会計基準」第3条では、計算書類とあわせて開示すべき重要な会計方針について規定しています。

第3条 貸借対照表等を作成するために採用している会計処理の原則及び手続並びに表示方法その他貸借対照表等を作成するための基本となる事項(次条において「会計方針」という。)で次に掲げる事項は、損益計算書の次に記載しなければならない。ただし、重要性の乏しいものについては、記載を省略することができる。
一 資産の評価基準及び評価方法
二 固定資産の減価償却の方法
三 引当金の計上基準
四 消費税及び地方消費税の会計処理の方法
五 その他貸借対照表等作成のための基本となる重要な事項

重要な会計方針を開示する意義

会計は、法人が外部の利害関係者に対して、資金調達等の目的のために、自らの財産の状況を伝達・説明する手段として行われてきました。このため、会計情報を作成するための記録や集計、表示の方法については、それぞれの法人が、慣習的に認められている方法(一般に公正妥当と認められる会計の慣行(「医療法」第50条))のなかから、自らの活動実態を会計情報に適切に反映できると考えられるものを、自らの意思で選択することが認められています。

会計処理方法が異なると、仮にまったく同じように活動をしていたとしても、貸借対照表や損益計算書に計上される金額が大きく変わってしまうことがあります。このため、法人が選択した会計方針が適切に開示されていなければ、当期の貸借対照表や損益計算書に計上されている金額がどのような根拠によって計算されたものなのか、翌期以降の損益計算にどのような影響を及ぼすかを評価できなくなり、法人の財産の状況を適切に把握することができなくなります。

なお、「重要な」とは、貸借対照表や損益計算書を目にする人々が、法人の財産の状況を誤解しないために必要不可欠であることを意味します。法人にとって重要かどうかではなく、計算書類の利用者にとって重要かどうかを考える必要があります。

重要な会計方針の例

資産の評価基準・評価方法

貸借対照表に計上する資産について、複数の異なる評価基準・評価方法が認められているものについては、それらの評価基準・評価方法のうち、どのような基準・方法を使ったかについて開示します。具体的には、次のような資産について、その評価基準や評価方法を開示する必要があります。

  • 棚卸資産の評価方法(払出単価の算定方法、低価法の適用有無)
  • 固定資産の使用価値による評価を行っている場合はその旨
  • 有価証券の評価方法(払出単価の算定方法)
  • 外貨建資産の換算方法

なお、評価基準とは、取得原価、時価、使用価値といった「どの時点の金額を使用するか」を意味し、評価方法とは、個別法、移動平均法、先入先出法といった「どのような仮定のもとで資産とする金額と費用とする金額を区分するか」を意味します。

固定資産の減価償却の方法

建物や備品などの有形固定資産、特許権やのれんなどの無形固定資産については、それらが使用されている会計期間中の期間損益計算を適切に行うため、減価償却(有形固定資産)、償却(無形固定資産)が行われます。

期間損益計算を適切に行うためには、各期の収益を得るために使用した部分に相当する金額だけを費用として計上する必要がありますが、固定資産については、どれだけ使用したかを客観的に測定することができません。このため、減価償却を行うにあたっては、各期に割り当てられる費用の額を算定するために、さまざまな前提をおいて、見積もりを行う必要があります。

重要な会計方針では、一般に、次のような情報が開示されます。

  • 耐用年数(重要な資産ごと)
  • 減価償却費の計算方法(定額法、定率法など)

引当金の計上基準

引当金は、将来に発生することが予想される費用または損失について、前倒しで費用を認識した場合に計上される貸方項目です。前倒しで費用を認識することで、将来、実際に費用・損失が生じたときの会計上の費用・損失額を抑えることができ、また、将来に一定の経済的リスクがあることを計算書類の利用者に開示することができます。

引当金の計上は、まだ事実として発生していない、将来の予測に基づいて行われるものですから、法人がどのような予想の下にそれらの金額を計上したのかが分からなければ、計算書類の利用者はその妥当性を判断することができません。そこで、将来のどのような事項に対して、どのように予測を行い、引当金を計上するに至ったかを重要な会計方針として開示する必要があります。

なお、税務上は、一定の貸倒引当金以外を除いて、引当金として繰り入れた金額を損金算入することを認めていませんので、この引当金の計上は、税法上の定めとは無関係に、計算書類の利用者に対する情報提供の観点から行われるものになります。

消費税・地方消費税の処理方法

消費税・地方消費税の処理については、税抜方式・税込方式の2つが認められています。物品を購入したり、サービスの提供を受けたときに、支払った消費税の額を除いた税抜金額で資産や費用の勘定に記録する方法が税抜方式、支払った消費税の額を含めた税込金額で資産や費用の勘定に記録する方法が税込方式です。物品を販売したり、サービスを提供したときに受け取った消費税についても同様です(ただし、保険診療の対象となる医療行為等については消費税は非課税とされます)。

どちらの方法によるかによって、貸借対照表や損益計算書に計上される金額が10%(標準税率の場合)変わってしまいますから、消費税の会計処理方法の開示は重要なものと判断されます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました