省令「医療法人会計基準」第4条では、第3条において貸借対照表・損益計算書の次に記載することが求められる会計方針を変更したした場合の取り扱いについて規定しています。
第4条 会計方針を変更した場合には、その旨、変更の理由及び当該変更が貸借対照表等に与えている影響の内容を前条の規定による記載の次に記載しなければならない。
変更の旨を記載する必要性
重要な会計方針に係る説明のなかでも触れたように、会計方針が変更された場合、たとえ前年度とまったく同じ活動をしていたとしても、貸借対照表や損益計算書に記載される金額や、これらに記載される項目の名称や分類が変わってしまいます。このような変更が何の説明もなしに行われてしまうと、前年度との違いが、医療法人の財産の状況や経営状況自体が変化したことによるものなのか、単に、会計方針が変更されたことによるものなのかを、その医療法人の貸借対照表等を利用する人が理解できず、その医療法人の状況を正しく把握することができなくなってしまいます。そこで、会計方針が変更された場合には、その旨を明示し、変更が行われたことを貸借対照表等の利用者が把握できるようにしなければなりません。
このように、会計方針の変更が記載される趣旨は、貸借対照表等の利用者が医療法人の状況を正しく把握できるようにすることにありますから、利用者が医療法人の状況を判断するにあたって重要視しないものについては、重要でない会計方針の記載を省略できる(第3条)のと同様、その記載を省略することができます。
また、そうそうは起こらない事例ですが、医療法人の会計を行うにあたって採用できる会計方針について、会計基準や法令が改定され、それまで採用していた会計方針を使えなくなった場合(医療法人自身の都合によらない会計方針の変更の場合)も、会計方針が変更された旨の記載が必要となります。貸借対照表等の利用者にとっては、貸借対照表等の作成方法が変わったこと自体が重要で、これが会計基準や法令の改定によるものか、医療法人自身の都合によるものかは関係のないことだからです。
記載すべき内容
会計方針を変更した旨
会計方針を変更した場合は、次のように、具体的に、何について、どのような変更を行ったかを記載しなければなりません。
当期より、医療材料に係る払出単価の計算方法を先入先出法から総平均法に変更している。
会計方針の変更がある場合は、貸借対照表や損益計算書の項目に注番号をつけて、会計方針の変更に係る記載に意識を向けさせることが大切です。このようにすることで、貸借対照表や損益計算書だけを見て状況把握を終わらせてしまう利用者に対して、「何かあるかも」と思わせる(注意喚起をする)ことができます。
会計方針を変更した理由
会計方針の変更は、これが利益操作(会計不正)に利用されることを防ぐため、合理的な理由がないかぎり変更することが認められていません(第2条第3号)。会計方針を変更した理由の記載を義務づけることで、「第三者に対して説明できる理由」がない会計方針の変更を抑制することができ、また、貸借対照表等の利用者もその妥当性を評価することが可能になります。
また、「医療法」第51条第2項適用対象法人に対しては、貸借対照表等の作成とあわせて公認会計士監査を受けることも義務づけられていますから、ここで開示される変更の理由は、公認会計士監査における公認会計士の意見形成にあたっての評価材料としても利用されます。
最近、外国為替相場が短期的に大きく上下していますが、このような経済環境は、棚卸資産の払出単価の計算方法を変更するにあたっての合理的な理由のひとつとなりうるかもしれません。
会計方針の変更が貸借対照表等に与えている影響の内容
会計方針を変更した場合、原則として、その変更前から変更後の新しい会計方針で会計処理を行っていたと考えて、その影響額を計算します(企業会計基準委員会「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第6項)。
したがって、会計方針の変更による影響額は、第一義的には、資産、負債、純資産の期首残高(前期から繰り越されてきた金額)に表れることとなります。しかし、資産、負債、純資産の期首残高は、通常、当期の損益計算にも影響を及ぼしますから、その影響額に係る記載は、貸借対照表に記載される金額だけでなく、損益計算書に記載される金額(当期純利益の額など)についても必要となります。
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