省令「医療法人会計基準」第5条では、貸借対照表(これを要約した財産目録を含む)および損益計算書において記載される金額について規定しています。
第5条 貸借対照表における資産、負債及び純資産並びに損益計算書における収益及び費用は、原則として総額をもって表示しなければならない。
総額とは何か
貸借対照表や損益計算書に記載すべき金額は、原則として、総額による必要があります。総額とは、関連するプラスとマイナスの金額を相殺しない金額のことをいいます。
総額で表記すべき金額(金額を相殺してはいけないもの)の例としては、次のようなものがあります。
- 事業収益と事業費用
- 経常収益と経常費用
- 特別利益と特別損失
- 売掛金と買掛金
- 未払金と未収入金
- 貸付金と借入金
- 金銭債権と貸倒引当金(注記を条件に相殺も認められる)
- 有形固定資産と減価償却累計額(注記を条件に相殺も認められる)
総額表示が求められる理由
貸借対照表や損益計算書において総額表示が求められる理由は、法人の活動規模をこれらの計算書類において示すことができるようにするためです。プラスの金額とマイナスの金額を相殺してしまうと、貸借対照表や損益計算書には、両者の差額しか残らず、活動規模が分からなくなってしまいます。
たとえば、ある医療法人において、事業収益が2000万円、事業費用が1900万円あったとしましょう。総額表示の場合、損益計算書に計上される金額は、事業収益2000万円、事業費用1900万円となります。また、損益計算書には、これらの金額とあわせて、両者の差額として事業利益100万円も表示されることになります。
これに対して、両者を相殺した場合(純額表示)は、損益計算書上、事業収益と事業費用の額はどちらも表示されず、両者の差額である事業利益100万円のみが表示されることになります。事業収益1億円、事業費用9900万円の状況であっても、事業収益200万円、事業費用100万円の状況であっても、事業利益の額は100万円です。損益計算書に事業収益と事業費用の額がなく、事業利益の額しか表示されていないと、その法人がどれだけの活動を行ったのか特定することができないのです。
また、財務分析に使われる指標は、法人の活動規模が分かることを前提に構築されています。たとえば、法人の収益性を表す指標である事業利益率、経常利益率などは、事業収益があってはじめて計算できます。また、法人の安全性である自己資本比率や流動比率なども、総資本(総資産)の額や流動資産の総額がなければ計算できません。総額表示がされていなければ、これらの有用な財務指標を使って、法人の財政状態や経営状況をチェックすることもできなくなってしまうでしょう。
総額表示の例外
このように、総額表示は、貸借対照表や損益計算書に記載された金額から、法人の財政状態や経営状況を把握、分析できるようにするために要請されています。このため、法人の財政状態や経営状況の分析に直接必要がない、または、重要性が低いと考えられるものについては、プラスの金額とマイナスの金額を相殺した純額表示によることが認められています(参考 第2条第4号「重要性の原則」)。
純額表示の対象となるものには、具体的に、次のようなものがあります。
- 貸倒引当金繰入額と貸倒引当金戻入益の相殺
- 売買目的有価証券に係る有価証券評価益と有価証券評価損の相殺
- 為替差益と為替差損の相殺
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