省令「医療法人会計基準」第6条では、貸借対照表、損益計算書などの計算書類に記載される金額の単位について規定しています。
第6条 貸借対照表等に係る事項の金額は、千円単位をもって表示するものとする。
単位を規定する意味
省令「医療法人会計基準」は、「医療法」第51条第2項適用法人が計算書類を作成するうえで準拠すべき会計基準として起草されています。「医療法」第51条第2項適用法人は、次のように、他の医療法人と比較して規模が大きいため、計算書類に記載される金額も大きくなります(「医療法施行規則」第33条の2)。
- 社会医療法人
- 最終会計年度における貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が20億円以上
- 最終会計年度における損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額が10億円以上
- 社会医療法人以外の医療法人
- 最終会計年度における貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が50億円以上
- 最終会計年度における損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額が70億円以上
一般に、人間が一度で視認できる数字の数が7±2程度であると言われています(マジックナンバー7)。十億の位は一の位から数えて10桁目であるため、十億円という金額は、多くの人にとって一目では分かりにくいものとなります(まとまったひとつの金額というよりも、単なる数字の羅列のように見えてしまうようです)。
省令「医療法人会計基準」は、広く社会一般に公表(公告)される計算書類の作成方法を定めたものであり、作成される計算書類に対しても、医療法人の財政状態や経営状況を理解しやすいものであることが期待されています。そのため、医療法人の財政状態や経営状況を理解するうえであまり重要でない部分については、積極的に省略をすることが認められています(参考 第2条第4号「重要性の原則」)。
貸借対照表や損益計算書に記載される金額を千円単位とすれば、たとえ十億円単位の金額であっても計算書類上は7桁にまで減らすことができます(1,000,000,000円→1,000,000千円)。このようにすることで、貸借対照表や損益計算書に記載された金額は圧倒的に分かりやすくなるのです。
なぜ一万円単位ではなく千円単位なのか
わが国で現在行われている複式簿記は、もともと米国で行われていたものが採り入れられたものだといわれています(福澤諭吉『帳合之法』)。米国では、数字の読み方が3桁ごとに、one(一)、thousand(千)、million(百万)、……と切り替わっていくため、3桁ごとに、1、1,000、1,000,000、……と区切りを入れていく記法が一般的です。千円単位をひとつの区切りとして考えるというのも、この3桁ごとに読み方が変わる米国流の方法によるものです。
企業会計の世界では、広く社会一般に公表(公告)される貸借対照表や損益計算書を作成するにあたって、千円単位または百万円単位で金額を表示することが求められています(「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」第10条の3)。病院などの医療提供施設や医療法人に対して適用される会計基準では、伝統的に企業会計に係る基準が援用されてきました。金額の表示単位についても、企業会計で行われている方法が採り入れられたと考えるのが自然でしょう。
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