省令「医療法人会計基準」逐条解説|第11条 有価証券の評価

医療法人会計
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省令「医療法人会計基準」第11条では、貸借対照表に記載される有価証券の価額(貸借対照表価額)について規定されています。

第11条 市場価格のある有価証券(満期まで所有する意図をもって保有する債券(満期まで所有する意図をもって取得したものに限る。)を除く。)については、時価をもって貸借対照表価額とする。

医療法人が保有する有価証券の範囲

有価証券とは

有価証券とは、所有者としての地位や一定の財産を受取る権利を第三者との間で取引(売買)できるようにするために、それらの権利を表象した紙片(ただし、近年では、ペーパーレス化のためデータ上で処理されることが一般的)のことをいいます。具体的には、株式、債券(国債、社債など)、受益権証券などが該当します。

医療法人が株式を保有することは適当でない

有価証券のうち、株式については、(1)他の企業(株式会社)の支配目的や(2)資金運用目的で保有されることが一般的です。しかし、医療法人については、このような目的のために保有されることが多い株式の取得をできるかぎり避けるべきと考えられています。

まず、他の企業の支配についてですが、これは医療の非営利性の観点から否定されます。企業は、そもそも利益を得るために活動する経済実体として規定されている存在です(「会社法」第5条)。「医療法」では、営利目的で医療提供施設を開設しようとする者を排除することを前提としてさまざまなルールが設けられていますから(「医療法」第7条、「医療法の一部を改正する法律の施行に関する件」(昭和25年8月2日厚生事務次官発通達(発医第98号)))、このような営利目的で活動する経済実体を支配下に置くことは認められるものではありません。

次に、運用目的についてですが、これは財産の適正な管理の観点から否定されます。医療法人が保有する財産は、国民に対する医療の提供のために管理されるものであるため、リスク資産への投資は認められないとするものです。この点について、厚生労働省の『医療法人運営管理指導要綱』では、次のようにされています。

5 医療事業の経営上必要な運用財産は、適正に管理され、処分がみだりに行われていないこと。

6 そのため、現金は、銀行、信託会社に預け入れ若しくは信託し、又は国公債若しくは確実な有価証券に換え保管するものとすること(売買利益の獲得を目的とした株式保有は適当でないこと)

厚生労働省『医療法人運営管理指導要領』Ⅲ、2。

債券の評価

医療法人が保有する債券(国債、社債など)の評価は、その債券が満期保有目的債券であるかどうかによって変わります。

満期保有目的債券以外の債券の場合

満期保有目的債券以外の債券の場合は、原則通り、期末の時価によって評価しなければなりません。満期まで保有しないということは、価格が値上がりしたタイミングで売却する可能性があるということなので、貸借対照表には、売却を前提として「もし期末の時点で売却したらどれだけの金額を得られるのか」(回収可能価額)を表示することにしています。

なお、医療法人は、売買益を得るために有価証券を保有することが適切でないとされているため、たとえ債券であっても、売却を前提とした時価評価を行うことの妥当性には疑問がないわけではありません。

ただし、債券の時価は、株式会社の時価とは違って、満期日が近づくにつれて次第に額面金額に収束していきます。債券は、そもそも特定の日(満期日)に特定の金額(額面金額)を受け取る権利が表章された有価証券です。実際に受け取ることができる金額が決まっているので、その金額と大きく離れた金額で取引が行われる(時価が決まる)ことは基本的にありえないのです。わが国では、何十年と低金利が続いている状況でもありますから、たとえ時価評価を行ったとしても、その金額は額面金額と大きく変わることはないでしょう。この意味では、数字だけみれば、時価評価の弊害はそこまで大きいものではないのかもしれません。

満期保有目的債券の場合

満期保有目的債券については、その債券を取得してから満期日までの期間にわたって、債権の取得原価と額面金額との差額のうち利息に相当する部分の金額を一定の方法で配分し、満期保有目的債券の帳簿価額に加算または減算していく償却原価法とよばれる方法で処理していくことが原則となります。

 参考 有価証券の期末評価③(満期保有目的債券の帳簿価額の修正ー償却原価法(定額法)の場合)
 参考 有価証券の期末評価④(満期保有目的債券の帳簿価額の修正―償却原価法(利息法)の場合)

ただし、医療法人の財産の状況、損益の状況を判断するにあたって、毎期加算または減算される金額が重要でない場合(金額自体が少ない、全体の金額に対する割合が低いなど)は、償却原価法によらずに、満期日まで取得原価を維持する(帳簿価額を修正しない)簡便な処理をとることも認められます(四病院団体協議会版「医療法人会計基準」注1、④)。この場合、取得価額と額面金額との差額は、すべてまとめて満期日が属する会計年度の収益または費用として計上されることになります。

その他の有価証券の評価

債券以外の有価証券については、その時価をもって貸借対照表価額とすることになります。なお、株価のような公開市場で形成されている価格が存在しない場合は、利用可能な情報をもとに見積もりを行い、その金額を有価証券の評価額とします(企業会計基準委員会「時価の算定に関する会計基準」第8項~第10項)。

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