省令「医療法人会計基準」第12条では、貸借対照表に記載される金銭債権の価額(貸借対照表価額)について規定されています。
第12条 未収金及び貸付金その他の金銭債権については、徴収不能のおそれがある場合には、貸倒引当金として当該徴収不能の見込額を控除するものとする。
2 前項の場合にあっては、取得価額から貸倒引当金を控除した金額を貸借対照表価額とする。
金銭債権の評価の考え方
金銭債権とは、当期以前の契約等に基づいて成立した、将来に金銭を受け取ることができる権利のことをいいます。
将来に受け取ることのできる金額は契約等によって確定しています。契約上の定めによって一定の条件のもとで金額が増減する可能性がありますが、株式などの有価証券のように当事者の意図と関係なく価額が変動することは基本的にありません。
このため、金銭債権の評価は、当初の契約等に定められた将来に受け取ることのできる金額で行うことが基本となります。
貸倒引当金
貸倒引当金とは、債務者の破産等によって、金銭債権を回収できなくなる事態(貸倒れ)に備えて、将来に被ると予想される金額を前倒しで当期の費用として計上したものをいいます。
実際にはまだ起こっていない貸倒れによる損失が計上されることになるため、貸倒引当金の計上により会計帳簿上の記録と現実世界の財務状況とはズレてしまいます。しかし、損失を前倒しで計上することによって、法人に留保される財産が増え、法人経営の安全性が高まることからこのような処理が認められています。
将来にどれだけの貸倒れが生じるかについては、法人が独自に見積もることが原則となります。しかし、その見積もりを行えるだけの余裕がない法人、ノウハウが蓄積されていないような法人については、「法人税法」において認められている繰入限度額をそのまま貸倒引当金とする選択をするのもひとつの方法です。
ただし、四病院団体協議会版「医療法人会計基準」では、(1)前々会計年度末の負債総額が200億円未満の医療法人(社会医療法人を除く)で、(2)この繰入限度額が回収不能見込額を明らかに下回っている(繰入限度額よりも多くの貸倒れが予想される)状況にないことを、「法人税法」上の繰入限度額を使用するための要件としていることに留意が必要です。
貸借対照表上の金銭債権の表示
貸借対照表上、金銭債権は、取得価額(当初契約に基づく金銭債権の額)から貸倒引当金を控除した金額をもって表示しなければなりません。ただし、その表示の方法としては、(1)貸借対照表には貸倒引当金控除後の金額だけを表示し、貸倒引当金の額は注記で示す方法(直接控除法)だけでなく、(2)貸借対照表上に取得価額と貸倒引当金をそれぞれ表示し、貸借対照表上で控除を行う方法(間接控除法)によることも認められます。
診療報酬等のファクタリングを利用している場合
診療報酬等についてファクタリングを使用している場合、法人が実際に受け取ることができる金額はファクタリング会社に対して支払う手数料が差し引かれた残額となります。
ファクタリングを使用し、ファクタリング会社から入金を待っている状況にある金銭債権については、もともとの金銭債権(診療報酬等)の額ではなく、ファクタリング会社から入金される予定の金額をもって貸借対照表に計上します。ファクタリング会社を利用した時点で、新たな契約が発生していますから、もともとの金銭債権の額を使用してはいけません。
なお、もともとの金銭債権の額とファクタリング会社から入金される予定の金額の差額は、金銭債権の売却に係る費用(損失)として処理されます。金銭債権の売却に係る費用(損失)は、借入金に対する支払利息と同様、損益計算書上、事業外費用として表示します。
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