省令「医療法人会計基準」逐条解説|第13条 出資金

医療法人会計
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省令「医療法人会計基準」第13条では、貸借対照表の純資産の部に記載される出資金の額について規定されています。

第13条 出資金には、持分の定めのある医療法人に社員その他法人の出資者が出資した金額を計上するものとする。

純資産

純資産とは、資産の部に記載した金額の合計額から負債の部に記載した金額の合計額を差し引いた残額をいいます。資産は法人が将来の営業活動に使える財産(金銭、物、権利等)を、負債は法人が将来の営業活動のなかで何らかの形で弁済すべき金額を意味するため、その差額として計算される純資産は将来の営業活動に使える正味の財産を意味します。

なお、純資産は、負債をすべて弁済した後、法人に残る金額と説明されることもありますが、これは誤りです。負債を弁済するためには、金銭以外の資産を換金する必要がありますが、この換金によって得られる金額はその時点における資産の価額(時価)となります。しかし、貸借対照表上、資産や負債は、原則として取得価額(原初入帳価額)をもって評価されており(「医療法人会計基準」第9条)、貸借対照表からその時価を読み取ることはできません。

出資金が表示される医療法人の類型

出資金とは、社団である医療法人のうち、一定の社員に対して、法人に対する払戻請求権や解散時の残余財産請求権を認める定めを定款に設けているもの(経過措置型医療法人)が、その社員から出資を受けた金額をいいます。このため、貸借対照表に出資金の項目が設けられるのは経過措置型医療法人のみとなります。

なお、第5次改正「医療法」の施行以降、社員に対して法人に対する払戻請求権や残余財産請求権を認める法人を新たに設立することは認められていません。経過措置型医療法人はそれ以前に設立された社団医療法人をいいますが、これらの法人についても、これらの権利を認めない法人への転換が求められているところです。

出資金を区分表示する意味

株式会社の場合、純資産の部はその活動の元手となった金額を記載する資本(資本剰余金)と、活動を通じて生み出した元手の増加額を記載する利益(利益剰余金)を分けて表示することが基本となります。両者を分けて表示することで、株式会社がどれだけの成果を生み出したかを一目で分かるようにするためです。株式会社が行う配当は、伝統的に、利益(利益剰余金)のなかから行うものとされてきたことから、両者を分けて表示することには、株式会社が配当できる金額を明らかにできるというメリットもあります。

これに対して、医療法人については、剰余金の配当を行うことは禁じられています(「医療法」第54条)。このため、医療法人については、配当できる金額を明示する必要がはじめからありません。このため、外部への情報提供をいう観点から出資金を区分表示する意味を見出すことは難しいでしょう。

また、法人に対する払戻請求権や残余財産請求権は、元手(出資金)であるか利益(利益剰余金)部分であるかを問わず、法人財産に対する一定割合として計算されることが一般的です。このため、財産の処分という観点から出資金を区分表示する意味を見出すこともできません。

株式会社の貸借対照表とは違い、医療法人の貸借対照表は、純資産の中身が細かく分けて記載されていませんが、その理由としては、医療法人には、株式会社における株主のような有限責任を負う外部主体が存在しないことが大きいといえるしょう。

なお、医療法人において、出資金の額が重要になるのは、主として「法人税」の計算の場面となります。経過措置型医療法人に対しては、原則として、普通法人として法人税が課されます。2023年現在、法人税率は課税標準となる所得の金額に対して23.2%ですが、出資金の額が1億円以下である場合、年間800万円までの所得については税率が15%となります。

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