省令「医療法人会計基準」第14条では、貸借対照表の純資産の部に記載される基金の額について規定されています。
第14条 基金には、医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第30条の37の規定に基づく基金(同令第30条の38の規定に基づき返還された金額を除く。)の金額を計上するものとする。
純資産
純資産とは、資産の部に記載した金額の合計額から負債の部に記載した金額の合計額を差し引いた残額をいいます。資産は法人が将来の営業活動に使える財産(金銭、物、権利等)を、負債は法人が将来の営業活動のなかで何らかの形で弁済すべき金額を意味するため、その差額として計算される純資産は将来の営業活動に使える正味の財産を意味します。
なお、純資産は、負債をすべて弁済した後、法人に残る金額と説明されることもありますが、これは誤りです。負債を弁済するためには、金銭以外の資産を換金する必要がありますが、この換金によって得られる金額はその時点における資産の価額(時価)となります。しかし、貸借対照表上、資産や負債は、原則として取得価額(原初入帳価額)をもって評価されており(「医療法人会計基準」第9条)、貸借対照表からその時価を読み取ることはできません。
基金が表示される医療法人の類型
貸借対照表に基金の額が示されるのは、社団である医療法人(経過措置型医療法人、社会医療法人、特定医療法人を除く)のうち、その定款等において基金に関する定めを設けているものとなります(「医療法施行規則」第30条の37)。
基金とは、医療法人に対して拠出された金銭その他の財産のうち、一定の条件でその拠出者に返還される予定のものをいいます。医療法人は、第5次「医療法」改正によって、原則として医療法人の財産に対する社員の持分請求権・残余財産分配請求権に関する定めを設けることができなくなりました。基金は、この代わりとして、金銭等の拠出者に対して金銭その他の財産の返還を受ける権利を認めたものとなります。
社員の持分請求・残余財産請求と基金との違いは、金銭等の拠出者が返還を受けられる金額にあります。持分請求・残余財産請求の場合は、医療法人の財産に対して一定の割合となります。出資した金額よりも法人の財産が増加しているときはその増加分が加算された金額となりますし、出資した金額よりも法人の財産が減少しているときはその減少分が控除された残額となります。これに対して、基金の場合は出資した金額が基本となり、利息を加算することもできません(「医療法施行規則」第30条の37第2項)。
基金も負債ではなく純資産とされる
基金は、将来に金銭等の拠出者に対して返還すべき金額を意味します。将来の返還義務というと、通常、負債を意味するとイメージする人も多いかと思われますが、あくまでも基金は純資産として表示されます。これには、次のような理由があります。
- 医療法人に対して金銭等を拠出する者は、通常、医療法人の(所有者兼)運営者であるため、医療法人がこれらの者に対して有する債務は、第三者に対して弁済すべき債務とは性質が異なる。
- 基金の返還は、定時社員総会の承認によって行わなければならないため(「医療法施行規則」第30条の38第1項)、その返還のタイミングや条件は、医療法人側の意思でコントロールできる。
- 基金を返還した場合、その返還額に相当する金額を代替基金(第15条に定める積立金の一種)として留保しなければならないこととされており(「医療法施行規則」第30条の38第3項)、基金相当額は返還前も返還後も法人に留保される。
なお、税務上、基金は、資本金または出資金としての取り扱いを受けません。基金制度が採用されている法人は、資本または出資のない法人として取り扱われることになります。
参考 国税庁文書回答事例「基金拠出型の社団医療法人における基金に関する法人税及び消費税の取扱いについて」
貸借対照表に記載される基金の額
貸借対照表に記載される基金の額は、医療法事が基金として受け入れた金額から、それまでに一定の手続きのもとで返還された金額を差し引いた残額となります。したがって、貸借対照表に記載される金額は、今後、返還請求を受ける可能性のある金額を意味することになります。
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