省令「医療法人会計基準」第15条では、貸借対照表の純資産の部に記載される積立金の額について規定されています。
第15条 積立金には、当該会計年度以前の損益を積み立てた純資産の金額を計上するものとする。
2 積立金は、設立等積立金、代替基金及び繰越利益積立金その他積立金の性質を示す適当な名称を付した科目をもって計上しなければならない。
積立金とは
積立金とは、医療法人の純資産(資産の総額から負債の総額を差し引いた金額)のうち、出資金(第13条)、基金(第14条)、評価・換算差額(第16条)以外のものをいいます。積立金自体に特別の意味はありません、他の純資産のどれにも該当しないものは自動的に積立金となります。
純資産はあくまでも資産と負債の差額であり、預金や貯金とは違います(どちらも資産)。法人のなかに「積立金」というものがあるのではなく、資産と負債の差額を「積立金」という名前で呼んでいるだけです。
積立金の区分
積立金が単なる差額である以上、積立金自体に特別な「性質」を割り当てることはできません。それでは、第2項において求められている貸借対照表上の名称をつけるための「積立金の性質」とはどのようなものを指すのでしょうか。
この点について、四病院団体協議会版「医療法人会計基準」では、積立金の中身を次の5つに分けて説明しています(「注解」注7)。
- 設立等積立金
- 代替基金
- 税法上の積立金
- 任意の積立金
- その他の積立金
設立等積立金
設立等積立金として処理されるものには、次の2つがあります。
- 医療法人の設立等に係る資産の受贈益の金額
- 持分の定めのある社団医療法人が持分の定めのない社団医療法人へ移行した場合の移行時の出資金の金額と繰越利益積立金等の金額
医療法人が保有する財産のうち、これらの金額に相当する金額については、もともと財産を保有していた人や組織が有していた所有権、持分請求権、残余財産請求権をはじめとする一切の権利が放棄されている状況にあります。したがって、これらの金額に相当する財産については、医療法人が解散するまでの間、拠出者を含む他の誰にも渡す必要のないものとして取り扱われます。
代替基金
代替基金とは、基金制度を採用している医療法人で、基金の拠出者に対して基金の返還をした際に、基金の代わりに計上される金額です。代替基金は、拠出者に対してすでに返還した金額を意味します(「医療法施行規則」第30条の38第3項)。
基金の返還は、医療法人に基金として拠出された金額を上回る額の純資産がなければ行うことができません(「医療法施行規則」第30条の38第2項)。このため、基金を返還し、代替基金が計上されることとなっても、医療法人の純資産の額が、もともと拠出された基金の額を下回ることはありません。このため、代替基金は、設立等積立金と同様に、医療法人が解散するまでの間、拠出者を含む他の誰にも渡す必要のない法人財産の額を表すことになります。
税法上の積立金
税法上の積立金とは、圧縮積立金、特別償却準備金のように、税法上の特典(課税の繰り延べ)を受けるにあたって、直接控除をする代わりに積み立てられた金額をいいます。
税法上の積立金は、原則として、繰り延べられた課税が行われるにつれて取り崩されていきます。したがって、税法上の積立金は、設立等積立金、代替基金とは違い、時の経過につれて減少していく形になります。
任意の積立金
任意の積立金とは、建物の建築、設備の拡充等の法人自身が定めた特定の目的のために積み立てられている金額を意味します。ただし、上で説明したように、積立金はあくまでも差額であり、実在する財産ではありません。したがって、貸借対照表上、積立金の額を明示するだけでは意味がなく、実際に建築、拡充等のために使えるお金を、別途、預貯金の形で積み立てておく必要があります(このような特定の目的のために積み立てられる資産のことを特定資産といいます)。
株式会社の場合は、その金額に相当する額を配当財源としないことを明確できるという点で、純資産の内訳項目として積立金を明示しておくことに意味があります。しかし、医療法人の場合は、剰余金の配当を行うことができませんから、任意の積立金を貸借対照表に明示することにどれだけの意味があるかは分かりかねるところがあります。
持分の定めのある社団医療法人(経過措置型医療法人)では、持分請求権が行使されることを想定しておく必要がありますが、このような法人で持分請求権を有しているのは実質的にその法人の所有者(またはその近親者)であることを考えると、やはり貸借対照表上にその金額を明示する必要性があるかどうかは微妙なところです。
その他の積立金(繰越利益積立金)
その他の積立金の額については、貸借対照表上、すべて繰越利益積立金として表示します。この金額は、特筆すべき計上目的のない本当の意味での「単なる差額」となります。
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