省令「医療法人会計基準」第16条では、貸借対照表の純資産の部に記載される評価・換算差額等について規定されています。
第16条 評価・換算差額等は、次に掲げる項目の区分に従い、当該項目を示す名称を付した科目をもって掲記しなければならない。
一 その他有価証券評価差額金(純資産の部に計上されるその他有価証券の評価差額をいう。)
二 繰延ヘッジ損益(ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べられるヘッジ手段に係る損益又は時価評価差額をいう。)
評価・換算差額等とは
評価・換算差額等とは、純資産のうち、出資者から出資された金額(出資金、基金、設立等積立金)、活動を通じて蓄積された利益の額(代替基金、税法上の積立金、任意積立金、その他の積立金)以外のものをいいます。具体的には、資産と負債の差額のうち、損益計算書上、損益として取り扱われることのない(純資産に直入される)その他有価証券評価差額金および繰延ヘッジ損益がこれに該当します。
その他有価証券評価差額金
企業会計上、法人が保有する有価証券は、売買目的有価証券、満期保有目的債券、子会社株式・関係会社株式、その他有価証券の4つに区分されます。医療法人では、非営利性の観点から他の会社を支配することを目的として株式を保有することは認められませんから、医療法人でいうところの「その他有価証券」とは、売買目的有価証券、満期保有目的債券のどちらにも該当しない有価証券ということになります。
具体的にどのようなものがその他有価証券に該当するかについて、省令「医療法人会計基準」や、その前提となった四病院団体協議会版「医療法人会計基準」では説明されていませんが、「病院会計準則」に次のような説明があります。
その他有価証券とは、売買目的有価証券、満期保有目的の債券以外の有価証券であり、長期的な時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券や、政策的な目的から保有する有価証券が含まれることになる。
「病院会計準則」(平成16年8月19日付厚生労働省医政局長発通知医政発第0819001号)注18、1
その他有価証券を保有している場合、決算にあたって次のような仕訳が行われます。もし、その他有価証券の取得価額よりも期末の時価の方が低い場合、仕訳上、その他有価証券評価差額金勘定への記録は借方に行われますが、貸借対照表上では、貸方にマイナス表記(金額に△をつけて表記)することになります。
取得価額<時価の場合
取得価額30,000円、時価40,000円、実効税率25%の場合
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
その他有価証券 | 10,000 | その他有価証券評価差額金 | 7,500 |
繰延税金負債 | 2,500 |
取得価額>時価の場合
取得価額40,000円、時価30,000円、実効税率25%の場合
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
その他有価証券評価差額金 | 7,500 | その他有価証券 | 10,000 |
繰延税金資産 | 2,500 |
繰延ヘッジ損益
繰延ヘッジ損益とは、為替相場の変動に起因して将来に生じる可能性がある資産や負債(ヘッジ対象)に係る損失の額を減殺するために行われた為替予約等(ヘッジ手段)について、ヘッジ対象に係る損失の額が確定するまでの間、各期の利益(または損失)として認識されなかった部分の金額をいいます。
ヘッジ手段は、ヘッジ対象の損失を減殺するために講じられているのですから、ヘッジ対象の損失の額が確定する前に利益計上してしまうと、後にヘッジ対象について損失が生じたときにこれをカバーすることができなくなってしまいます。ヘッジ手段の損益が各期の利益(または損失)として認識されないのはこのためです。
医療法人においては、繰延ヘッジ損益が、外国から医療機器や医療材料を購入する場合などで生じる可能性があります。ヘッジ損益ですので、ただこれらを購入するだけでなく、将来の為替変動リスクに備えてヘッジを行うことも要件となります。
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