省令「医療法人会計基準」逐条解説|第17条 損益計算書の表示

医療法人会計
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省令「医療法人会計基準」第17条では、損益計算書の表示に関する基本原則について規定されています。

第17条 損益計算書は、当該会計年度に属する全ての収益及び費用の内容を明瞭に表示しなければならない。
2 損益計算書は、様式第二号により記載するものとする。

損益計算書が表示するもの(第1項)

損益計算書の構成要素

損益計算書には、収益および費用の内容が表示されます。企業会計では、この収益および費用の内容のことを一般に経営成績といいます。これは、企業が利益(収益から費用を差し引いた残額)を獲得するために活動するところに由来する言葉です。しかし、医療法人においては、非営利で営まれるという前提があるため、この収益および費用の内容に対して経営成績という言葉が使われることはあまりありません。

収益や費用は、(1)会計期間中に純資産を増減させた原因・理由となった事項のうち、(2)資本取引(出資者からの資金拠出《基金の拠出を含む》、出資者への法人財産の分配・返還)以外のもので、かつ、(3)医療法人の営業活動に起因するものをいいます。(3)については、第16条に規定されるその他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ以外のものといった方が分かりやすいかもしれません。

会計期間中の増減額

貸借対照表に記載される資産や負債は、期末における残高金額(その時点の状況)を意味しますが、収益や費用は、会計期間中の変動額を意味します。したがって、収益や費用として損益計算書に記載される金額は、会計期間中に生じた増減額を合計したものとなります。また、ある会計期間に計上された収益や費用の額は、資産や負債のように次の会計期間に繰り越されることはなく、会計期間ごとにリセットされます(収益や費用の額を繰り越してしまうと、その収益や費用が当期に発生したものと、前期以前に発生したものが混在してしまい、収益や費用の定義を満たさなくなってしまいます)。

なお、会計期間が変更された場合は、収益や費用の額に影響が出ます。たとえば、12月決算であった医療法人が3月決算に移行することになったとしましょう。この場合、切り替え直後の会計期間は、1月から3月までの3か月間となります。損益計算書に記載される収益や費用の額も3か月分となりますから、そのままの形では、他の会計期間について作成された損益計算書上の数値と比較することはできません。このため、損益計算書を利用するにあたっては、損益計算書上の金額だけでなく、会計期間(の長さ)についても意識をする必要があります。

明瞭な表示

会計期間中の収益や費用の内容は、損益計算書上、明瞭に表示されなければなりません。省令「医療法人会計基準」では、この「明瞭な表示」について、次の第2項において様式が与えられているため、基本的にはこの様式にしたがっていれば問題ありません。

損益計算書の様式(第2項)

医療法人の損益計算書は、様式第二号によって作成される必要があります。

脚注1には、「利益がマイナスとなる場合には、『利益』を『損失』と表示すること」とあります。会計では、収益の方が費用よりも大きい場合は両者の差額のことを利益といい、収益の方が費用よりも小さい場合は両者の差額のことを損失といって、言葉を使い分けています。たとえば、収益が合計500万円、費用が合計700万円のときは、「利益がマイナス200万円」であるとは言わずに、「損失が200万円」であるといいます。

このような状態で「マイナス」という表現を使ってしまうと、利益が負の値となるのか、前期等と比較して利益が200万円減った(利益自体は正の値)のかを判別することができません。利益の額がマイナスになる場合に「損失」という別の言葉を使うのは、このような混乱を生じさせないためです。

医療法人のなかには、都道府県から提供されたフォーマット(エクセルなどで作成され、金額だけを入力すればよいようになっている)をそのまま利用して計算書類を作成しているところが少なくないようです。このような医療法人では、項目部分には一切手を加えず、金額欄にマイナスを意味する△をつけるところも散見されます。これは、様式第二号の正しい使い方ではありません。

また、利益を損失に置き換えたら、金額には△をつけてはいけません。△がマイナスを意味しますから、損失という名前を付したうえで△をつけて金額表記をしてしまうと、マイナスの損失=利益と誤読されてしまうかのうせいもあります。

脚注2では、損益計算書に表示する項目(収益、費用の内訳)の削除や追加が認められています。医療法人が実際に作成している財務諸表のなかには、該当する金額がない項目について、金額0で表示が行われているものも見られますが、このような項目については、金額を0にするのではなく、項目自体を削ってしまった方が、余計な情報がないので損益計算書の利用者にとって「明瞭な」表示となります。

会計期間ごとに項目を削ったり、戻したりすると、毎年項目を見直すことになったり、記載すべき項目(前期は金額0であったが、当期は金額0でない項目)を戻し忘れたりということがあるため、作業の手間・確認の手間を余計にかけないために、金額0表示をするという考え方もあるのかなとは思います。

しかし、省令「医療法人会計基準」が比較的大規模の医療法人を適用対象としていること、もともとこの基準が保険診療等を通じて比較的多額の公費を受けて事業が行われている法人について、その経営実態を広く認知・理解してもらうことを目的として起草されたことと鑑みれば、「手間」といった内部的都合ではなく、利用者にとっての明瞭性を意識することが大切です。

様式第二号に規定されていない項目を追加する場合は、それがどのような金額を表すものなのか、医療法人について一般的な知見をもつ人であれば誰でも理解できるような項目名をつける必要があります。項目名だけで理解を得ることが難しそうであれば、その項目に注記をつけて、損益計算書の枠外でその内容を説明することも必要になるかもしれません。

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