費用の繰延べ(前払費用の認識)

簿記収益・費用決算整理
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費用の繰り延べとは、会計期間中に支出した費用の額のなかに、次期以降の期間に対応する部分が含まれているときに、その次期以降の期間に対応する部分の金額を当期の費用から取り除く手続のことをいいます。費用の繰り延べは、当期中の営業活動により稼いだ金額を正しく計算する(期間損益計算)ために必要となる手続のひとつです。

この記事の内容を理解するために知っておいてほしいこと

費用の支払いに係る期中の仕訳

費用の繰り延べについて理解するためには、まず、会計期間中にどのような仕訳が行われているかを正確に理解する必要があります。会計期間中は、企業の財産や債権・債務の状況に変化が生じたとき(簿記上の取引があったとき)に、原則として、その増減額を使って仕訳が行われます。かりにこの金額のなかに、当期以外の期間に対応する金額が含まれていたとしても、仕訳はそのまま行われています。

【設例1】7月1日に向こう1年分の火災保険料として現金240,000円を支払った。なお、会計期間は、毎期4月1日から翌3月31日までの1年間である(以下、同じ)。

この取引では、向こう(7月1日から)1年分の保険料が支払われています。この金額のなかには、当期分(7月~翌3月の9ヶ月分)と次期分(翌4月~翌6月の3ヶ月分)が含まれていますが、会計期間中は、両者を区別せずに、支払額をそのまま仕訳してしまいます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
保険料240,000現金240,000

費用の繰延べの処理

繰延べの仕訳

しかし、このままでは、当期の利益の額を正しく計算することができません。当期の利益の額は、当期の収益の額から当期の費用の額を差し引いて計算しなければなりません。費用の額に翌期分の金額が混じっていると、費用の額が実際よりも大きくなってしまい、利益の額も過少に計算されてしまいます。

そこで、費用の勘定(保険料勘定)に計上されている金額から翌期以降の期間に対応する金額を取り除く繰延べの仕訳が必要になります。

なお、ここで繰り延べた金額は、前払費用勘定(前払保険料)に計上します。当期中に支払いが終わっているので、翌期には保険料を支払う必要はありません。一切の支払いなくサービス(保険)を受けられるという意味で、この前払費用には経済的な価値があります。このため、前払費用勘定は、資産の勘定として取り扱われます。

【設例2】【設例1】の保険料について、翌期分の金額を繰り延べる。

【設例1】で支払った保険料のうち、翌期分(翌4月~翌6月)の金額は60,000円(=240,000円÷12×3ヶ月)です。したがって、この金額を保険料勘定から取り除きます。保険料勘定は費用の勘定ですので、金額を減らすときは貸方に記録を行います。

相手勘定は、前払保険料勘定とします。この金額は、翌期分の金額を翌期になる前に支払った金額(前払い)の金額を表します。前払保険料勘定は資産の勘定ですから、その記録は借方に行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
前払保険料60,000保険料60,000

当期の費用の額

繰り延べの仕訳を行うことによって、費用の勘定(保険料)に計上されていた金額240,000円から、翌期(以降)分の金額60,000円が取り除かれますから、残りの金額は180,000円となります。この金額は、当期中に保険に加入していた9ヶ月間(7月~翌3月)に対応する金額180,000円(=240,000円÷12×9ヶ月)と等しくなります。

翌期首に行う処理――再振替仕訳

決算にあたり、費用の繰り延べを行った場合、その翌期首には、再振替仕訳とよばれる処理を行う必要があります。再振替仕訳とは、繰り延べの仕訳を貸借反対に行って、繰り延べの仕訳を実質的になかった状態に戻すことをいいます。繰り延べは、期間損益計算を正しく行うために行われる処理ですから、期間損益計算が終わったら、もう残しておく必要はないのです。

【設例3】【設例2】の繰り延べの仕訳について、翌期首付けで行われる再振替仕訳を示しなさい。
借方科目借方金額貸方科目貸方金額
保険料60,000前払保険料60,000

 

この仕訳を行ったことにより、

  • 新しい会計期間に対応する保険料60,000円が費用の勘定に戻ってくるとともに、
  • 前期末に計上した前払保険料60,000円が取り崩されます

前払保険料は、新しい会計期間が始まる前に支払った保険料の額を記録する勘定です。新しい会計期間が始まったら、もう「前払」ではありませんから、記録を残しておくことはできないのです。

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費用の繰り延べは、費用の見越し(当期分の未計上額を追加計上する手続)とセットで理解する必要があります。どちらも期間損益計算を正しく行うための処理ですが、前者は前払いの場合、後者は後払いの場合に行われる会計処理です。前払いも後払いも同じように起こりうる取引ですので、会計処理も同じようにできるなる必要があります。

費用の見越しと繰延べ

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