有形固定資産については、決算のタイミングでその会計期間に割り当てるべき費用の額を決定するため、減価償却とよばれる手続が行われます。各期に割り当てるべき金額を計算する方法にはいくつかの方法がありますが、ここでは定額法についてとりあげていきます。
定額法とは
定額法とは、企業が取得した有形固定資産について、費用として処理されるべき金額の総額(要償却額)を、それが使用されると見込まれる期間(耐用年数)にわたって、比例的に配分していく方法をいいます。
要償却額とは、有形固定資産の取得に要した費用(取得原価)から、その耐用年数の経過後に、その有形固定資産を売却等することによって得られると見込まれる金額(残存価額)を差し引いた残額をいいます。取得原価は支出額、残存価額は収入額ですから、両者の差額は、有形固定資産を取得することによって減少する正味の純資産の額ということになります。
耐用年数とは、取得した有形固定資産を業務の用に使用できると見込まれる期間のことをいいます。後述するように、各期に割り当てられるべき金額は1年あたりの金額をもとに計算されるため、耐用年数も年単位で求めることになります。
定額法では、各期に割り当てるべき(減価償却費)の額がその使用期間に比例して計算されていきます。1か月使用したら1か月分の金額、2か月使用したら2か月分の金額、……といった具合いです。現在、多くの企業において会計期間の長さは1年間とされていますが、有形固定資産を使用している間、会計期間の長さが変更されないかぎり、各期に割り当てられる金額は一定の金額となります。定額法という言葉は、この毎期一定の金額が割り当てられるところに由来しています。
減価償却費の計算式
定額法では、1年あたりの減価償却費の額が次の計算式によって求められます。会計期間の長さが1年間であり、かつ、有形固定資産が期首から期末までずっと使用されている場合は、この計算式だけでその会計期間の減価償却費の額が求めることができます。
減価償却費(1年分):(取得原価-残存価額)÷耐用年数
これに対して、会計期間の中途で有形固定資産を取得した場合や、会計期間の中途で有形固定資産を廃棄等した場合は、会計期間中の有形固定資産の使用期間が1年よりも短くなります。この場合、上の計算式で求めた1年分の減価償却費の額をもとに、会計期間中の使用期間に対応する部分の金額を求める必要があります。この会計期間中の使用期間に対応する部分の金額の求め方としては、会計期間中の使用月数をもとに1年分の金額を按分する月割計算によることが一般的です。
減価償却費(月割計算):減価償却費(1年分)×会計期間中の使用月数÷12か月
設例による説明
【設例】次の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。なお、減価償却費の計算は定額法で、減価償却の仕訳は間接法で行うこと。会計期間は、毎年4月1日から翌3月31日までの1年間である。
- 20X1年4月1日、オートバイを600,000円で購入し、代金は後日支払うことにした。当社は、このオートバイの残存価額を30,000円、耐用年数を3年であると見積もった。
- 20X2年3月31日、決算にあたり、減価償却を行う。
- 20X3年3月31日、決算にあたり、減価償却を行う。
- 20X4年3月31日、オートバイを売却し、代金30,000円を現金で受け取った。
20X1年度
取得時の処理
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
車両運搬具 | 600,000 | 未払金 | 600,000 |
決算時の処理
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
減価償却費 | 190,000 | 車両運搬具 | 190,000 |
※ 減価償却費(1年分):(600,000-30,000)÷3=190,000
オートバイを取得した4月1日から期末まで1年間使用しているため、1年分の減価償却費の額をそのまま20X1年度の減価償却費とします。
財務諸表に計上される金額
貸借対照表 | 損益計算書 | ||
車両運搬具 | 410,000 | 減価償却費 | 190,000 |
減価償却を直接法で行っているため、車両運搬具勘定の金額は取得原価(600,000円)から減価償却費(190,000円)を差し引いた残額となります。
20X2年度
決算時の処理
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
減価償却費 | 190,000 | 車両運搬具 | 190,000 |
※ 減価償却費(1年分):(600,000-30,000)÷3=190,000
期首から期末まで1年間使用しているため、1年分の減価償却費の額をそのまま20X2年度の減価償却費とします。
財務諸表に計上される金額
貸借対照表 | 損益計算書 | ||
車両運搬具 | 220,000 | 減価償却費 | 190,000 |
減価償却を直接法で行っているため、車両運搬具勘定の金額は期首帳簿価額(410,000円)から減価償却費(190,000円)を差し引いた残額となります。
20X3年度
売却時の処理
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
減価償却費 | 190,000 | 車両運搬具 | 220,000 |
現金 | 30,000 |
※ 減価償却費(1年分):(600,000-30,000)÷3=190,000
まず、期首から売却した3月31日まで1年間使用しているため、20X1年度、20X2年度と同様に、20X3年度についても1年分の減価償却費の額を計上します。
次に、売却によって、車両運搬具が企業からなくなるため、車両運搬具勘定に記録されていた残りの金額(前期末から繰り越されてきた220,000円)も全額消去します。
当初予想した残存価額と売却時に得られた金額が一致し、かつ、当初予想した耐用年数と実際の使用年数が一致していれば、売却による損益は生じません。
財務諸表に計上される金額
貸借対照表 | 損益計算書 | ||
― | ― | 減価償却費 | 190,000 |
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