医療法人の定義
医療法人とは、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設または介護医療院を開設しようとする社団または財団が法人格を取得したものをいいます(「医療法」第39条)。
開設される医療提供施設
医療法人は、次の医療提供施設のうち、最低でも1つを開設することを目的としなければなりません。
- 病院(「医療法」第1条の5)
- 医師または歯科医師が常時勤務する診療所(「医療法」第1条の5)
- 医師または歯科医師が常時勤務する介護老人保健施設(「介護保険法」第8条第28項)
- 医師または歯科医師が常時勤務する介護医療院(「介護保険法」第8条第29項)
医療法人は、これらの医療提供施設を開設せずに、たとえば、スポーツジムのような健康増進施設だけを開設・運営するといったことは認められません。一方、これらの医療提供施設が開設されていれば、「医療法」で認められる範囲内において、医療低巨施設の開設・運営以外の業務を行うことも認められます。
「法人格を取得する」とは
法人とは、法律によって権利・義務の帰属主体となることが認められた存在のことをいいます(「民法」第33条)。権利・義務の帰属主体となるとは、法人自身の名をもって行動できる(契約の主体となることができる)ことを意味します。
私たちのような普通の人間(法人と区別するために「自然人」とよばれます)は、生まれたときから独自の権利・義務を有していますから(「民法」第3条)、わざわざ法人になって、権利・義務の帰属主体になる必要はありません。法人となるのは、自然人以外の者です。
この法人になることができる自然人以外の者には、社団と財団の2つがあります。法人の設立にあたっては、どちらを選択しても構いません。社団とは、同じ事業を行おうする複数の人の集まりをいい、財団とは、財団とは、まとまった財産のことをいいます。
法人は、自分の身体をもつ自然人とは違い、自分では動くことができません。このため、すべての法人は、自然人に「操縦」される形で活動していくことになります。
なお、法人に帰属する権利・義務の範囲は、すべて法令によって決められます。法人は、自分の身体をもつ自然人ではありませんから、通常、自然人ができないこともできてしまいます(複数の場所に活動拠点を作って同時に活動する、相続なしに財産を永遠に将来に引き継ぐなど)。権利・義務の範囲が決められているのは、このような法人の特徴を利用して、自然人が本来であれば自分が引き受けるべき法律上の義務を回避してしまう(法人を悪用する)ことを防ぐためです。
社団医療法人と財団医療法人
社団医療法人
社団医療法人とは、社団が「医療法」の定めにしたがって法人格を取得することで医療法人となったものをいいます。
複数の医師が共同で医療提供施設を開業した場合、法人格を取得していないと、どのような行為、どのような契約を行うにあたっても、すべての医師が参加し、その内容に合意する必要があります。しかし、これは非常に煩雑です。そこで、法人格を取得し、代表者(理事長)を定めて、重要な行為や契約がその者が行うようにすれば、このような手間を省くことができます。
なお、日々の診療など、日常的な業務については、各医師が独自の判断で行うこととなりますが、この場合も、これらの行為は、社団の意思で行っているものと推定され、何かあった場合の責任は社団がとることになります(社団医療法人の財産を使って損害賠償を支払うなど)。
社団法人の財産は、通常、社団を構成するメンバー(社員)にそれぞれ帰属するものとみなされ、法人を解散したときは、その財産がそれぞれの社員に分配されます。しかし、社団医療法人においては、原則として、法人の財産を社員に分配することが認められていません(「医療法」第44条第5項)。これは、医療法人のなかに蓄積された財産は、医師個人ではなく、医療サービスを受ける国民のものと考えられているためです。
財団医療法人
財団医療法人とは、財団が「医療法」の定めにしたがって法人格を取得することで医療法人となったものをいいます。
財団法人では、まとまった財産(財団)自体が法人格を取得することになりますが、財団も自然人ではないので、何も行動することができません。そこで、財団においては、財産を管理する人々(評議員)が選出され、その評議員の方針にしたがって運営が行われていくことになります。
個々の従業員の行為が生じた権利や義務が財団に帰属することについては社団の場合と同じです。
財団が解散したときに、法人の財産が当然に評議員に帰属することはありません。評議員はあくまでも管理人であって、財産の持ち主ではないからです。財産の分配を受ける場合は、あらかじめ寄付行為などに残余財産の分配に関する定めを設けておく必要があります。一方、財団医療法人においては、このような寄付行為の定めは禁じられており、社団医療法人の場合と同じように、法人の財産を評議員に分配することはできません(「医療法」第44条第5項)。
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