消費税の処理方法には、税抜方式と税込方式の2つがありますが、財務会計においては、このうち税抜方式によることが求められています(「収益認識に関する会計基準」第212項。ただし、中小企業会計指針では、税抜方式が「原則」とされているのみですから、合理的な理由がある場合は税抜方式によらないことも認められる可能性があります(「中小企業の会計に関する指針」第61項))。この記事では、税抜方式による会計処理の基本について見ていきます。
税抜方式とは
税抜方式とは、物品を売買したり、役務(サービス)を提供したり(提供を受けたり)したときに、その対価の額に係る消費税の額を独立した勘定に記録する方法のことをいいます。
企業が支払うまたは受け取る消費税の額は、仮払消費税勘定または仮受消費税勘定に記録します。その金額が永遠に支払ったまま、受け取ったままとなるのか、返還されたり、納税額から差し引かれたりすることがあるのかについては、消費税の確定申告が終わるまで決まらないので、それまでの間は、支払消費税勘定・受取消費税勘定ではなく、仮の勘定に記録しておくことがルールになっています。
物品の売買
物品を購入した場合
【設例1】次の一連の取引を仕訳しなさい。なお、消費税の処理は税抜方式によること。
- 備品600,000円(税抜金額)を購入し、代金は消費税60,000円とあわせて後日支払うことにした。
- 1.の代金が普通預金口座から引き落とされた。
物品の購入時
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
備品 | 600,000 | 未払金 | 660,000 |
仮払消費税 | 60,000 |
税抜方式では、企業が支払うこととなる消費税の額を独立した勘定(仮払消費税勘定)に記録する必要があります。このため、購入した物品の金額は、実際に支払うこととなる税込金額ではなく、税抜金額で記録する必要があります。このようにしないと仕訳の貸借が一致しなくなってしまうからです。
この取引では、消費税の額は、備品の代金とあわせて後払いとなっています。このように、実際にはまだ支払っていない消費税の額(支払いを約束した状態の金額)についても仮払消費税勘定への記録を行います。この点は、実際に支払いが行われたタイミングで記録が行われる仮払金勘定とは違うところです。
- 参考 仮払金の処理
対価の支払時
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
未払金 | 600,000 | 普通預金 | 660,000 |
消費税の記録は備品を購入したときにすでに終わっていますから、実際に支払いが行われたタイミングで改めて記録を行う必要はありません。
物品を売却した場合
【設例2】次の一連の取引を仕訳しなさい。なお、消費税の処理は税抜方式によること。
- 貯蔵品200,000円を50,000円(税抜金額)で売却し、代金は消費税5,000円とあわせて後日受け取ることにした。
- 1.の代金が普通預金口座に振り込まれた。
物品の売却時
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
未収入金 | 55,000 | 貯蔵品 | 200,000 |
貯蔵品売却損 | 150,000 | 仮受消費税 | 5,000 |
税抜方式では、企業が受け取ることとなる消費税の額を独立した勘定(仮受消費税勘定)に記録する必要があります。
物品を売却したときは、上の仕訳のように税抜金額(50,000円)が仕訳上出てこない場合もあります。売却によって企業から失われる物品は、利益の額を正しく計算するため、売却時もその売却価額ではなく、取得原価で記録が行われますから、税抜きの売却価額が出てくる余地がないのです。
対価の受取時
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 55,000 | 未収入金 | 55,000 |
消費税の記録は貯蔵品を売却したときにすでに終わっていますから、実際に対価を受け取ったタイミングで改めて記録を行う必要はありません。
役務(サービス)の提供・被提供
役務(サービス)の提供を受けた場合
【設例3】先月分の電気料金33,000円(うち消費税3,000円)が普通預金口座から引き落とされた。この取引を仕訳しなさい。なお、消費税の処理は税抜方式によること。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
水道光熱費 | 30,000 | 普通預金 | 33,000 |
仮払消費税 | 3,000 |
税抜方式による仕訳は、役務(サービス)のやりとりをした場合も同様です。預金口座からの引き落としは、通常、消費税の額と税抜金額とを分けずに行われますから、請求書等でその内訳を確認して、引き落とされた金額(税込金額)から消費税部分を抜き出す必要があります。
役務(サービス)を提供した場合
【設例4】取引の仲介を行い、その手数料として22,000円(うち消費税2,000円)が普通預金口座に入金された。この取引を仕訳しなさい。なお、消費税の処理は税抜方式によること。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 22,000 | 受取手数料 | 20,000 |
仮受消費税 | 2,000 |
物品を売却した場合とは違い、役務(サービス)を提供したときは、貸方に資産の勘定ではなく、収益の記録が行われます。引き渡した物品の取得原価について考慮する必要がないため、対価の税抜金額に税抜がそのまま収益の勘定に記録されることになります。
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