この記事では、企業が株式を購入したときの処理について見ていきます。
購入した株式は、その購入目的に応じて、売買目的有価証券、子会社株式・関連会社株式、その他有価証券のいずれかに分類されます。どの区分に該当するかによって、その後の会計処理方法が変わってきますから、この分類にかかる判断は適切に行わなければなりません。
また、勘定への記録は、株式の購入価額に、証券会社等に支払う手数料等を加えた取得原価によって行います。これは、その後にその株式を売却したときに、株式の売却にかかる利益や損失の額を正確に計算できるようにするためです。
保有目的に応じた勘定科目の選択
売買目的有価証券
売買目的有価証券とは、時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券のことをいいます(「金融商品に関する会計基準」第15項)。他の企業に対して影響力を行使することを目的として購入される子会社株式・関連会社株式とは違い、単に、売買を通じて利益(キャピタル・ゲイン)をあげることに主眼が置かれます。
売買目的有価証券は、当面の間、使う予定のない余裕資金を運用する手段として購入されます。
子会社株式・関連会社株式
子会社株式・関連会社株式とは、他の企業に対して影響力を行使することを目的として保有する有価証券のことをいいます。
株式会社では、企業のオーナーとしての権利(企業の重要な決定について意思表明をする権利、利益の配当を受ける権利など)が株式の形で分割されており、それらの株式を購入した保有者に対しては、その保有割合に応じてオーナーとしての権利が認められます。このため、大量に株式を取得すれば、それらの株式を発行した会社の方針に対して、オーナーとして口出ししていくことが可能になります。
子会社株式とは、企業が他の会社の意思決定機関(株主総会・取締役会等)を支配している場合における、その意思決定機関を支配されている方の会社の株式のことをいいます。他の会社を支配しているかどうかは、その会社の発行済株式総数の50%超の株式を保有しているかどうかなどの基準によって判定されます(「連結財務諸表に関する会計基準」第7項)。
関連会社株式とは、企業が他の会社の意思決定機関(株主総会・取締役会等)で行われる意思決定に重要な影響を与えることができる状態にある場合における、その意思決定機関に影響を与えられる方の会社の株式のことをいいます。他の会社の意思決定に重要な影響力を与えることができるかどうかは、その会社の発行済株式総数の20%超の株式を保有しているかどうかなどの基準によって判定されます(「持分法に関する会計基準」第5-2項。子会社である場合を除く)。
その他有価証券
売買目的有価証券にも、子会社株式・関連会社株式にも該当しない株式は、その他有価証券とされます。その他有価証券には、互いに資本関係をもつことによって「外敵」が参入してくることを防いだり、相互に協力関係を築いていきたいといった状況において行われる持ち合い株式などが該当します。
株式を取得したときの仕訳
約定日と受渡日
株式の売買取引は、通常、売買契約が成立してから(この契約成立の日のことを約定日といいます)、代金の支払いが行われるまで(この受渡日といいます)に、数日間を要することが一般的です。株式を購入した場合は、原則として、売買契約が成立したタイミング(約定日)でその株式を認識することになります(「金融商品に関する会計基準」第7項)。
なお、かつては、受渡日に購入した株式が株券の形で実際に受け渡されていましたが、現在では株式の電子化がすすめられているため、上場企業については従来のような株券のやりとりはありません(なお、非上場会社が発行する株券は現在も有効です)。
約定日の仕訳
株式を購入する取引が成立したとき(約定日)には、会計帳簿上、その購入目的に応じた勘定にその株式の取得原価を計上するとともに、受渡日に支払わなければならない金額を未払金勘定に計上します。
【設例】売買目的により、A社株式10,000株を1株あたり500円で購入した。代金は、手数料1,000円とともに後日支払うことにした。
まず、購入したA社株式の取得原価を計算すると、その金額は次のように5,001,000円となります。
$$\text{10,000株}\times\text{500円}+\text{1,000円}=\text{5,001,000円}$$
A社株式は、売買目的により購入したものになりますから、この金額は、次のように売買目的有価証券勘定に記録することになります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
売買目的有価証券 | 5,001,000 | 未払金 | 5,001,000 |
受渡日の仕訳
後日、代金を支払ったときは、約定日に計上した未払金勘定の金額を取り崩します。未払金勘定は負債の勘定ですから、その金額を取り崩すときは、借方に記録を行います。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
未払金 | 5,001,000 | 普通預金 | 5,001,000 |
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