この記事では、国債・地方債・社債などの債券を取得したときにどのような会計処理が必要になるかについて見ていきます。債券は、株式のように1株単位で取引されるのではなく、一定の額面金額ごとにまとめた取引単位(口《くち》)ごとに取引されることから、その購入代価の計算が少々複雑になります。債券を取得したときの処理は、この債券の購入代価を正しく計算できるかどうかがポイントになります。
- 債券を取得したときの処理 この記事
- 債券を売却したときの処理
債券とは
債券とは、国、地方公共団体、企業などが一時的な資金の借り入れのために発行する有価証券です。債券の保有者は、事前に定められた将来の一定の期日(満期日、償還日)に、その債券と引き換えに券面に記載された金額(額面金額)を受け取ることができます。
債券は、他の人に対して自由に譲渡することができます。下の図のように、もともと債券の発行を受けたA社がこれをB社に譲渡し、後に、そのB社がC社に譲渡した状態で償還日をむかえた場合、債券の発行主体から額面金額を受け取ることができるのは、最後にその債券を保有しているC社になります。

保有目的に応じた勘定科目の選択
現行の会計基準では、債券について、売買目的有価証券、満期保有目的債券、および、その他有価証券の3つに分けて会計処理を分けています。このため、簿記上は、そのそれぞれに異なる勘定科目をつけて記録を行っておくことが一般的です。
売買目的有価証券
売買目的有価証券とは、時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券のことをいいます(「金融商品に関する会計基準」第15項)。証券取引所で取引されている債券については、日々、その価格が変動しています。この価格の変動を利用して、購入時の価格よりも高い価格のときに債券を売却すれば、企業は利益を得ることができます(このような取得時と売却時の価格の差によって得られる利益のことをキャピタル・ゲインといいます)。
債券は株式よりも価格の変動が大きくありませんので、売買目的で保有されることは必ずしも多くないのですが、為替変動を利用して利益を得るなどの目的で外貨建ての債券が取得される場合もあります(FXよりもリスクは小さい)。
満期保有目的債券
満期保有目的債券とは、債券をその額面金額と引き換えてもらえる日(満期日、償還期日)まで保有し続ける目的で取得された債券のことをいいます(「金融商品に関する会計基準」第16項)。債券の保有者に対しては、金融機関に預金をしているときと同じように、一定期間ごとにその保有量に応じた利息が支払われます。満期保有目的債券は、この利息の受け取りを目的として保有される債券といいかえることもできます(このような投資の見返りとして得られる利息等の報酬のことをインカム・ゲインといいます)。
債券の購入は、余剰資金を安定的、かつ、定期預金に預け入れるよりも高い利回りで運用するために行われることが多いため、多くの債券は満期保有目的債券に分類されることになります。
その他有価証券
売買目的有価証券にも、満期保有目的債券にも該当しない株式は、その他有価証券とされます。その他有価証券に該当する債券には、他の企業と関係をもつことによって相互に協力関係を築きたいといった状況のときに保有される債券などが該当します。
株式を取得したときの仕訳
仕訳を行うタイミング
証券会社を通じて債券を購入する場合、取引が成立してから(約定日)、代金の支払いが行われるまで数日かかることが一般的です。このような場合は、取引が成立したタイミング(約定日)で仕訳を行わなければなりません(「金融商品に関する会計基準」第7項)。
約定日の仕訳
債券を購入するための取引が成立したとき(約定日)には、債券の増加を認識するとともに、将来に支払わなければならない金額を未払金勘定に計上します。
債券の勘定(売買目的有価証券、満期保有目的債券、その他有価証券)には、その債券の取得原価をもって記録を行います。債券の取得原価とは、債券自体の購入金額に、その購入のために証券会社等に支払った手数料等を加えた金額になります。
なお、債券の購入価額は、額面金額100円を1口として、「額面金額100円あたり99円」であったり、「1口あたり99円」といったように表示されます。このため、債券の購入金額は次のように計算することになります。
債券の購入金額=購入する債券の額面金額×額面金額100円(1口)あたりの金額÷100円
それでは、次の取引例を使って、債券の取得価額を実際に計算したうえで、仕訳をしてみましょう。
【取引】満期まで保有する目的で、X社社債(額面金額1,000,000円)を額面金額100円あたり99円で購入した。代金は、手数料1,000円とともに後日支払うことにした。
まず、購入した債券の購入金額について、問題文にある額面金額と額面金額100円あたりの金額を使って、次のように計算します。
- 額面金額1,000,000円×99円÷100円=990,000円
これに手数料1,000円を加えた991,000円がこの社債の取得原価となります。
今回、X社社債は満期まで保有する目的で取得したのですから、この社債は満期保有目的債券勘定を使って記録します。債券を保有していると将来の一定の期日に一定の金額を受け取ることができるのですから、この債券が記録される満期保有目的債券勘定は資産の勘定になります。資産の勘定ですから、その記録は借方に行います。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
満期保有目的債券 | 991,000 | 未払金 | 991,000 |
なお、債券をその発行主体(国、地方自治体、企業等)から直接取得する場合以外のケースでは、以前の保有者に対して、債券の購入金額に加えて端数利息というものを支払う必要があります。この端数利息の支払いについては、別の記事にまとめておきましたので、興味のある人はそちらも参照してください。
- 参考 端数利息の計算
受渡日の仕訳
後日、代金を支払ったときは、約定日に計上した未払金勘定の金額を取り崩します。未払金勘定は負債の勘定ですから、その金額を取り崩すときは、借方に記録を行います。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
未払金 | 5,001,000 | 普通預金 | 5,001,000 |
なお、かつては、受渡日に紙形態の債券が交付されていましたが、現在では債券の電子化が行われているため、従来のように紙形態の債券が交付されることはありません。
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