有価証券の期末評価①(売買目的有価証券の時価評価)

簿記有価証券決算整理
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企業が期末時に保有する有価証券のうち,売買目的有価証券に分類されるものについては,決算時の時価をもって貸借対照表に計上しなければなりません(「金融商品に関する会計基準」第15項)。

有価証券の時価の算定方法については,わが国の会計基準においても2019年に国際財務報告基準(IFRS第13号)で採用されている公正価値の算定方法が導入されることとなり(「時価の算定に関する会計基準」第23項ないし第25項),現在,多くの企業は,2021年4月1日以降に開始する事業年度から全面適用されることに備えて準備を進めているところと思われます(日本基準では,国際財務報告基準で使われている「公正価値」ではなく,「時価」という言葉を引き続き使用することとされています(同第25項))。

決算時の仕訳(評価替)

売買目的有価証券とは,時価の変動により利益を得ることを目的として保有する有価証券(「金融商品に関する会計基準」第15項)のことをいいます。売買目的有価証券は,長期的に保有し続けるというよりも,値上がりしたタイミングで売ってしまうといった性格のものであるため,「もし今売ったとしたら,企業にどれだけのお金が入ってくるか」がわかるように,時価へと評価替えをすることとされています。

評価損が生じる場合

決算にあたり,当社が保有する売買目的有価証券(帳簿価額1,000,000円)について,期末時の時価950,000円に評価替えする。

売買目的有価証券の帳簿価額よりも時価の方が低いので,帳簿価額を時価にあわせるために,帳簿価額を減らさなければなりません。この場合の帳簿価額と時価の差額(評価損)は,有価証券評価損益勘定(または有価証券評価損勘定)に記録します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
有価証券評価損益50,000売買目的有価証券50,000

この評価替により,売買目的有価証券の帳簿価額は950,000円(=1,000,000円−50,000円)となり,この金額が貸借対照表に計上されます。

評価益が生じる場合

決算にあたり,当社が保有する売買目的有価証券(帳簿価額1,000,000円)について,期末時の時価1,020,000円に評価替えする。

売買目的有価証券の帳簿価額よりも時価の方が高いので,帳簿価額を時価にあわせるために,帳簿価額を増やさなければなりません。この場合の帳簿価額と時価の差額(評価益)は,有価証券評価損益勘定(または有価証券評価益勘定)に記録します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
売買目的有価証券20,000有価証券評価損益20,000

この評価替えにより,売買目的有価証券の帳簿価額は1,020,000円(=1,000,000円+20,000円)となり,この金額が貸借対照表に計上されます。

洗替法と切捨法

決算にあたり売買目的有価証券の評価替えを行った場合,その翌期首の処理方法には切放法洗替法の2つの方法があります。

切放法

切放法とは,評価替えによって改められた帳簿価額を,その後も引き続きその売買目的有価証券の帳簿価額として使用することをいいます。このため,切放法を選択している場合,翌期首に行う仕訳はありません。

洗替法

洗替法とは,売買目的有価証券の評価替えを財務諸表を作成するためだけに行われるものと考え,翌期首のタイミングで帳簿価額を元の金額(帳簿価額)に戻すことをいいます。このため,洗替法を選択している場合には,売買目的有価証券の帳簿価額を元の金額に戻すため,期首に,前期末に計上した評価損益の額を戻し入れる処理が必要になります。

前期末に評価益20,000円を計上した売買目的有価証券について,洗替法により帳簿価額を再修正する。

前期末に評価益を計上している場合,売買目的有価証券の帳簿価額はそれだけ増えていますから,当期首には,逆に売買目的有価証券の帳簿価額を減らす必要があります。この場合の売買目的有価証券の相手勘定も有価証券評価損益勘定となります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
有価証券評価損益20,000売買目的有価証券20,000

評価損益の注記

売買目的有価証券の評価損益として計上した金額については,財務諸表に注記をすることが必要になりますが(「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」第4項(2)①)),ここで注記される金額は,企業が切放法を選択しているか,洗替法を選択しているかによって変わります。切放法を選択している場合は,当期末の評価替えによって発生した評価損益のみが注記されますが,洗替法を選択している場合は,この金額に,期首に行った前期末の評価損益の戻入額を加減した金額が注記される金額となります。

売買目的有価証券の時価

時価の算定

時価とは,市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合に,その売買目的有価証券の売却によって受け取る価格(「金融商品に関する会計基準」第6項,「時価の算定に関する会計基準」第5項)をいいます。この金額は,①不特定多数の参加者が,②通常の取引条件のもとで行う取引が,③高い頻度で行われているような市場で成立する価格のことをいい,特定の「誰か」の意思によって容易に変えられるものではない(属人的でない)という特徴をもちます(「時価の算定に関する会計基準」第4項)。

時価は,次の3つのインプットから計算されます。インプットには優先順位が決められており,優先順位の高いもので時価を決定できたら,そこで打ち切りになります(それ以降のインプットは使用しません)(「時価の算定に関する会計基準」第11項)。

  • 第1レベル……活発な市場における相場価格
  • 第2レベル……観察可能なインプット(第1レベルに属するものを除く)
  • 第3レベル……観察できないインプット(時価の推定に利用できる市場データ以外のデータ)

売買目的有価証券は,時価の変動を利用して利益を得ることを目的として保有される有価証券ですから,時価がわからない可能性はあまり考えられません。ただし,店頭市場で取引されている有価証券のように「不特定多数の参加者が存在する」「取引が活発に行われている」といった条件が満たされていないものについては,そこで市場価格ではあっても,第1レベルではなく第2レベルのインプットによる時価として取り扱われる可能性はあります(どちらの場合も評価替えを行うことに変わりはありません)。

有価証券の特例

「時価の算定に関する会計基準」では,時価の見積もりに必要なインプットを市場から入手できない場合にも,その他のインプット(第3レベルのインプット)を用いて時価を見積もることが求められているため,有価証券については,「時価の算定に関する会計基準」にいうところの時価を求めることができないケースはほとんどないと考えられています(「金融商品に関する会計基準」第81−2項)。

しかし,「金融商品に関する会計基準」では,市場取引が行われていない株式,出資金等(市場価格がない株式等)については,たとえ売買目的有価証券として分類されるものであっても,時価による評価替を行わない(市場価格以外の第2レベルのインプット,第3レベルのインプットを使用して時価を見積もることはしない)こととされています(同第19項)。企業会計基準委員会は,その理由について,市場価格以外の金額を時価としては取り扱わないものとする従来の考え方と踏襲したと説明しています(同第81-2項)。


*1 売買目的有価証券の評価差額を当期の損益する理由として,「金融商品に関する会計基準」では,「売買目的有価証券については,売却することについて事業遂行上等の制約がなく,時価の変動にあたる評価差額が企業にとっての財務活動の成果と考えられることから,その評価差額は当期の損益として処理することとした」(第70項)としているが,私はこの理由については懐疑的である。売買目的有価証券は,その売買による利益(キャピタル・ゲイン)の獲得を目的として保有されるものであるから,まだ売却が行われていないものについて,これを「財務活動の成果」と位置づけることには慎重であるべきと考える。

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