企業が保有する債券(国債・社債等)のうち、その満期(償還日)まで継続して保有する目的で保有されるものについては、貸借対照表上、その取得原価ではなく、償却原価法という方法を使って修正された帳簿価額をもって計上しなければなりません。
償却原価法による具体的な帳簿価額の調整方法は、原則的な方法である利息法と、簡便な方法である定額法の2つのものがあります。この記事では、簡便な方法である定額法を使って行われる満期保有目的債券の帳簿価額の修正について見ていきます。
償却原価法の前提
債券とは
償却原価法の具体的な処理方法に入る前に、まず、そもそも債券がどのようなものであるかについて振り返っておきましょう。
債券は、その発行主体(国・地方自治体・企業)が一時的な資金の借入れのために発行するものです。このため、債券には、銀行などの金融機関から資金を借り入れたときと同じように利息が発生するのが一般的です。
債券の利息には、①額面金額に対して一定の割合でつけられるもの(クーポン利息)と、②債券の発行価額と額面金額の差(社債発行差金)の2つのものがあります。クーポン利息は毎期一定のタイミングで支払われるのに対して、社債発行差金は償還日に額面金額の一部として支払われます。

割引発行と打歩発行
社債発行差金は、クーポン利息に対する調整として設けられますので、プラスになるときもあればマイナスになるときもあります。
図にあるように、債券を額面金額よりも低い金額で発行することを割引発行といいます。割引発行の場合、債券の発行主体はその発行金額よりも多くの金額を償還日に支払わなければなりませんので、発行主体にとっては、クーポン利息に加えて社債発行差金も支払うという意味合いになります(利息の追加)。割引発行は、毎期安定して利息(クーポン利息)を支払っていけるほどの余裕が見込めない場合に、ある程度成果が出てから不足する利息をまとめて支払うといった目的のために行われます。
逆に、債券を額面金額よりも高い金額で発行することを打歩発行といいます。打歩発行の場合、債券の発行主体はもともと発行時に受け取った金額よりも少ない金額を償還日に支払うことになりますから、発行主体にとっては、払いすぎたクーポン利息を最後に取り返すという意味合いになります(利息の減額)。打歩発行は、将来に貨幣の価値が上がっていくこと(デフレーション)が予想されている場合などに、将来に支払われる利息の名目額をその時点の価値に応じて減じるといった目的のために行われます。
債券については、このような割引発行や打歩発行が行われることが多く、その結果、債券が取引される金額と、最終的にその発行主体から償還される(支払われる)金額との間にズレが生じることがあります。このズレを調整するために行われるのが償却原価法です。
償却原価法の考え方
償却原価法とは、債券の取得原価と額面金額の差額を、その取得日から満期(償還日)までの会計期間にわたって毎期一定の方法でその債券の取得原価に加減していく方法のことをいいます(「金融商品に関する会計基準」注5)。債券を額面金額より低い価額で取得した場合も、額面金額より高い価額で取得した場合も、どちらも債券の帳簿価額を額面金額に近づけていくことがポイントになります。

定額法とは、債券の保有期間に比例して債券の帳簿価額を増減させていく方法をいいます。各期の保有期間が等しければ、帳簿価額の増減額は一定になります。
償却原価法による帳簿価額の修正
取得原価<額面金額の場合
【取引1】満期保有目的により、当期首に、甲社社債(額面金額1,000,000円)を980,000円で取得した。なお、当社の会計期間は4月1日から翌3月31日までの1年間であり、この社債の償還期日は取得日から4年後である。
当期分の修正額を計算する
債券の取得原価が額面金額よりも小さい場合は、決算において、その差額のうち当期に対応する部分を債券の帳簿価額に加えることが必要になります。
償却原価法において、債券の帳簿価額に加える金額は、次の計算式によって計算されます。
帳簿価額に加算する金額=(額面金額ー取得原価)÷(取得日から償還日までの月数)×(当期中の保有月数)
まず、額面金額から取得原価を差し引くことで、債券を保有する企業が、その債券の償還日までに修正すべき金額の総額が求められます。これを取得日から償還日までの月数で割ると1月あたりの修正額が求められます。最後にこの1月あたりの修正額に当期中の保有月数を掛ければ、当期に修正すべき金額を求めることができます。取得日からの保有月数ではなく、当期中の保有月数であるというところに注意してください。
なお、簿記検定などの資格試験では、端数調整の関係から掛け算と割り算を逆にして次のように計算した方がよいでしょう。
帳簿価額に加算する金額=(額面金額ー取得原価)×(当期中の保有月数)÷(取得日から償還日までの月数)
この計算式を使って、【取引1】の甲社社債について、具体的に当期の決算にあたって修正すべき金額を計算してみましょう(社債は期首に取得しているので、当期中の保有月数は12か月になります)。
- (額面金額1,000,000円-取得原価980,000円)×当期中の保有月数12か月÷取得日から償還日までの月数48か月=5,000円
今回は、取得原価の方が小さいので、この金額を額面金額に近づけていくためには、債券の帳簿価額を増やさなければなりません。この債券は、資産の勘定である満期保有目的債券勘定に計上されていますから、金額を増やすときは借方に計上します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
満期保有目的債券 | 5,000 |
満期保有目的債券の相手勘定は、有価証券利息勘定となります。社債発行差金はもともと利息の調整として設けられるものですので、これを原因として生じた取得原価と額面金額のズレも、原則として利息として取り扱うことになります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
満期保有目的債券 | 5,000 | 有価証券利息 | 5,000 |
この結果、貸借対照表に計上される満期保有目的債券の帳簿価額と、損益計算書に計上される有価証券利息の金額は次のようになります。
帳簿価額 | 有価証券利息 | |
---|---|---|
取得時 | 980,000 | |
1年後 | 985,000 | 5,000 |
2年後 | 990,000 | 5,000 |
3年後 | 995,000 | 5,000 |
4年後 | 1,000,000 | 5,000 |
取得原価>額面金額の場合
【取引2】満期保有目的により、当期首に、甲社社債(額面金額1,000,000円)を1,010,000円で取得した。なお、当社の会計期間は4月1日から翌3月31日までの1年間であり、この社債の償還期日は取得日から4年後である。
当期分の修正額を計算する
債券の取得原価が額面金額よりも大きい場合は、決算において、その差額のうち当期に対応する部分を債券の帳簿価額から減らすことが必要になります。
償却原価法において、債券の帳簿価額から減らす金額も、さきほど同じ次の計算式によって計算できます。
帳簿価額に加減する金額=(額面金額ー取得原価)÷(取得日から償還日までの月数)×(当期中の保有月数)
この場合、額面金額から取得原価を差し引いた結果がマイナスになりますから、そのマイナスの金額を帳簿価額から減らしてください。また、簿記検定などの資格試験では、さきほどと同じように掛け算と割り算を逆にして次のように計算した方がよいでしょう。
帳簿価額に加減する金額=(額面金額ー取得原価)×(当期中の保有月数)÷(取得日から償還日までの月数)
この計算式を使って、【取引2】の甲社社債について、具体的に当期の決算にあたって修正すべき金額を計算してみましょう(社債は期首に取得しているので、当期中の保有月数は12か月になります)。
- (額面金額1,000,000円-取得原価1,010,000円)×当期中の保有月数12か月÷取得日から償還日までの月数48か月=△2,500円
このように、【取引2】では、債券の帳簿価額を2,500円減らす必要があります。債券は、資産の勘定である満期保有目的債券勘定に計上されていますから、金額を減らすときは貸方に計上します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
満期保有目的債券 | 2,500 |
この場合も、満期保有目的債券の相手勘定は、有価証券利息勘定となります。貸付金・借入金の処理とは違って、利息を受け取ったか、支払ったかによって、受取利息勘定・支払利息勘定を使い分けるといったことはしないので注意してください。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
有価証券利息 | 2,500 | 満期保有目的債券 | 2,500 |
この結果、貸借対照表に計上される満期保有目的債券の帳簿価額と、損益計算書に計上される有価証券利息の金額は次のようになります。
帳簿価額 | 有価証券利息 | |
---|---|---|
取得時 | 1,010,000 | |
1年後 | 1,007,500 | △2,500 |
2年後 | 1,005,000 | △2,500 |
3年後 | 1,002,500 | △2,500 |
4年後 | 1,000,000 | △2,500 |
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