貸付金の利息に係る収益の見越し(収益認識会計基準の例外)

簿記収益・費用決算整理
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企業が半永久的に存続することを前提とする現在の簿記では,企業の活動期間を強制的に区切って,その区切られた期間ごとに利益計算を行うことが原則となっています(期間損益計算)。

参 考 継続事業の前提と期間損益計算

期間損益計算では,複数の会計期間をまたがる事象であっても,それらから生じる収益・費用の額をそれぞれの会計期間に割り当てることが必要になります(たとえば,有形固定資産の減価償却もこの観点から行われる手続のひとつです)。

この記事では,複数の期間にわたって収益を生じさせる取引のうち,その受け取りが次期以降に行われるものについて,当期分の金額を前倒しで収益計上するための手続を学習していきます。

収益の見越しとは

はじめに,収益の見越し(みこし)とはどのようなものかについて説明していきましょう。収益の見越しとは,当期中に企業がサービスを提供したことがらについて,将来,その代金を受け取ることが約束されている場合に,その将来の受取額のうち当期分に相当する金額を当期の収益として前倒しで計上する手続をいいます。それでは,次の例について考えてみましょう。

X社(会計期間は毎期4月1日から翌3月31日までの1年間)は,11月1日,得意先に対して現金1,000,000円を1年間の約束で貸し付けた。この貸付金に対する利息(年1.2%)は,その返済日に貸付金とあわせて支払われることになっている。

貸付時の仕訳

期中の手続の目的は,企業における財産の動きをそのまま記録に残していくことです。この取引のように,現金を貸し付けたときは,次のように記録を行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
貸付金1,000,000現金1,000,000

現金勘定は資産の勘定ですから,減少したときは貸方に記録します。また,貸付金勘定も資産の勘定ですから,増加したときは借方に記録することになります。

ただし,この仕訳は収益の見越しとは関係ありません。現金勘定も貸付金勘定も資産の勘定であり,収益に関する記録はまだ一切生じていないからです。

決算時の仕訳―収益の見越し

決算手続の目的は,当期の状況が財務諸表に適切に反映されるようにすることにあります。X社の会計期間は4月1日から翌3月31日までの1年間なので3月分までの利息を計上したいのですが,現金を貸し付けたときは利息に関する仕訳が何も行われていません。

会計帳簿に記録されている地代(なし)
当期分の地代=損益計算書に計上したい地代⑪⑫①②③

そこで,このまだ計上されていない当期分の金額を,次のように収益の勘定に加えてやります。これが収益の見越しという手続です。今回の設例の状況ならば,5,000円(= 1,000,000円 × 0.012 ÷ 12ヶ月 × 5ヶ月)を受取利息勘定に加えればよいことになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
未収利息5,000受取利息5,000

受取利息勘定は収益の勘定ですので,金額を増加させるときは貸方に記録を行います。受取利息勘定を増やした場合の相手勘定としては,未収利息勘定を使用します。その名のとおり,当期分の利息について未(いま)入がないということを表す勘定です。翌期は,当期に受け取っていない分,当期分の利息も受け取ることになりますから,将来の経済的な利益ということで,未収利息勘定は資産の勘定になります。資産の勘定ですから,その記録は借方に行います。

「利息をまだ受け取っていないのに受取利息勘定を使うのはおかしいのでは?」という人もいるかも知れません。その疑問はもっともだと思います。簿記では,慣習的に,「受取」という言葉を,「(過去に)受け取った」という意味ではなく,「(過去・現在・将来のどこかの段階で)受け取る」という意味で使うということにしています。「受取」という文字面の意味にとらわれていると何をやっているかわからなくなるので,「収益としての利息は受取利息勘定で処理することになっている」と機械的に覚えてしまった方が余計な混乱をせずに済むでしょう。

翌期首の仕訳―再振替仕訳

収益の見越しを行った場合,翌期首(4月1日)付で見越しの仕訳を元の状態に戻す作業を行います。これを再振替仕訳(さいふりかえしわけ)といいます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
受取利息5,000未収利息5,000

仕訳自体は,見越しの仕訳を貸借反対に行うだけです。未収利息勘定は資産の勘定ですから,これを減らすときは貸方に記録します。一方,受取利息勘定は収益の勘定です。見越しの仕訳で収益の金額を増やすという作業を行っていますから,再振替仕訳では逆に収益を減らす仕訳を行います。収益の勘定ですから,その金額を減らすときは借方に記録を行います。

再振替仕訳の目的は,この(当期の)収益が減るというところにあります。10月31日には1年分の利息を支払うことになりますが,このうち5ヶ月分は当期の費用ではなく,前期(11月1日から3月31日まで)の収益です。再振替仕訳を行って前期分の金額をあらかじめマイナスしておくことで,利息の受け取りの仕訳を行った後に収益の勘定に記録されている金額が,自動的に当期分のみの金額になるのです。

受取時の仕訳

最後に,10月31日に貸付金の返済を受けるとともに,1年分の利息を受け取ったときの仕訳は,次のようになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金1,012,000貸付金1,000,000
受取利息12,000

現金勘定は資産の勘定ですから,増加したときは借方に記録します。また,受取利息勘定は収益の勘定ですから,その記録は貸方に行います。

収益の見越し・まとめ

以上の仕訳のうち,収益の見越しに関係する部分をまとめると,次のようになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
決算時未収利息5,000受取利息5,000
翌期首受取利息5,000未収利息5,000
受取時現金12,000受取利息12,000

①決算時,見越しの仕訳を行うときは当期分の金額を前倒しで収益の勘定に計上します。②そして,この前倒しで計上した金額は翌期首付で元の状況に戻すことになります。これら一連の取引を行うことで,①当期分の金額を当期に前倒し計上するとともに,②翌期分の収益の金額から取り除くことができるのです。

練習問題 次の一連の取引を仕訳しなさい。なお,当社の会計期間は4月1日から翌3月31日までの1年間であり,翌期分の費用の金額は月割計算によって求めること。

  1. 3月1日,店舗用の建物を1年間の契約で賃貸した。1年分の家賃1,800,000円は契約満了日に受け取ることになっている。
  2. 決算にあたり,1.の家賃について,当期分を見越計上する。
  3. 翌期首付で,2.の見越しの仕訳について再振替仕訳を行う。
  4. 2月28日,建物の返却を受け,家賃1,800,000円を先方振出の小切手で受け取った。

解答

 借方科目借方金額貸方科目貸方金額
1仕訳なし
2未収家賃150,000受取家賃150,000
3受取家賃150,000未収家賃150,000
4現金1,800,000受取家賃1,800,000

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