商品や有価証券を売却したときの利益は、その商品や有価証券の売却価額から、その商品や有価証券の取得価額を差し引くことによって計算されます。取得原価は、取得した商品や有価証券自体の価額(購入代価)に、引取運賃、購入手数料などの各種の費用(付随費用)を加算して計算されますが、購入代価も付随費用も日々変動しているため、商品や有価証券の売却による利益を正確に計算するためには、商品や有価証券の1つ1つについて個別に取得原価を把握しておく必要があります。
しかし、同じ種類の商品が繰り返し、頻繁に売買される小売業や、同じ種類の有価証券を繰り返し、頻繁に売買する証券トレーダーなどに対して、このような厳密な方法によって処理することを求めるのは、非常に大きな負担を与える結果となってしまいます。そこで、簿記では、このような厳密な方法に代えて、売却した商品や有価証券ひとつひとつの取得原価(払出単価)を計算式によって求めてしまうことが認められています。
現在、払出単価の計算の方法としていくつかのものが認められていますが、ここでは移動平均法とよばれる方法について見ていくことにします。
移動平均法の考え方
移動平均法とは、新しく商品や有価証券を購入するたびに、それ以前に保有していた商品や有価証券とあわせて、その商品や有価証券の払出単価となる平均単位取得原価を計算する方法です。
まず、移動平均法では、同じ種類の商品や有価証券であれば、その取得時期にかかわらず、すべて同じ金額で評価すべきという考え方がとられています。商品や有価証券ひとつひとつの取得原価は、厳密にいえば、その取得時期によって変化しますが、移動平均法では、この取得原価の変化をひとつひとつの商品や有価証券に個別に対応させるのではなく、すでに保有していた商品や有価証券全体で受け止めることになります。
次に、移動平均法では、新しく商品や有価証券を仕入れるたびに払出単価の計算を行います。一定期間ごとに平均単位取得原価が計算される総平均法とは違い、移動平均法では同じ平均法でもリアルタイムで商品や有価証券の平均単位取得原価を追跡することができます。
移動平均法による払出単価の計算
払出単価の計算(基本)
移動平均法では、次の計算式によって、商品や有価証券の払出単価を計算します。
払出単価=商品等の合計取得原価÷商品等の合計保有数量
=(購入直前の保有価額+購入した商品等の取得原価)÷(購入直前の保有数量+購入した商品等の数量)
購入直前の保有価額とは、新たに商品や有価証券を購入する直前に保有していた商品や有価証券に係る取得原価の合計額をいいます。ただし、この金額は、移動平均法によって計算された払出単価をもとに計算された金額となりますから、保有する商品や有価証券を購入したときに実際に支払った金額とは基本的に一致しません。
仕入値引・割戻を受けたとき
商品については、それらを引き取った後、代金の値引きが行われたり、割戻し(リベート)を受けたりすることがあります。これらの場合、仕入時に支払った取得原価があとから減額されたことになりますので、払出単価もこれにあわせて修正する必要があります。修正後の払出単価は、次のように計算できます。
払出単価=商品の合計取得原価÷商品の合計保有数量
=(値引き・割戻し直前の保有価額-値引き・割戻しを受けた額)÷値引き・割戻し直前の保有数量
この場合、返品を受けたわけではないので、数量に変化はありません。
仕入戻し(仕入返品)をしたとき
仕入れた商品を返品したときは、次の計算式によって払出単価を計算します。
払出単価=商品の合計取得原価÷商品の合計保有数量
=(購入直前の保有価額-返品にあたり返金される金額)÷(購入直前の保有数量-返品した商品の数量)
取得原価には、引取運賃などの付随費用も含まれていますが、返品の際に仕入先から返品を受ける金額は、通常、商品自体の金額(購入代価)のみであるため、この計算を行った後に、払出単価が返品前の金額に戻るわけではありません。商品の合計取得原価から差し引く金額は、返品した商品の取得原価ではなく、実際に返金される金額となることに注意が必要です。
売上戻り(売上返品)があったとき(戻り商品を別扱いしないケース)
売り上げた商品が後から返品されることがあります。この場合は、商品を売り上げたときに減少させた商品の払出価額(払出単価に売り上げた商品の数量を掛けた金額)を商品の合計取得原価に足し戻します。
払出単価=商品の合計取得原価÷商品の合計保有数量
=(購入直前の保有価額+返品された商品の払出価額)÷(購入直前の保有数量+返品された商品の数量)
なお、一度、他人の手に渡った商品を中古品として別管理するときは、別の種類の商品を仕入れたと考えて計算を行います。このため、このような状況では、元の商品の払出単価を計算しなおすことはしません。
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