有形固定資産(土地等を除く。以下同じ)について、毎期、減価償却費として計上される金額は、原則として、企業自身が見積もった残存価額や耐用年数をもとに計算されます。このため、ある有形固定資産について、毎期、どれだけの金額が減価償却費とされるかについては、企業によって異なります。
決算にあたり、企業が納付すべき法人税等の額は、企業がそれぞれ行った決算に基づいて計算されることになりますが、このような見積もりをもとに計算される減価償却費については、課税の公平性を図るため、所得計算上、損金の額に算入できる金額に制限を設けています。この所得計算に算入できる償却限度額といい、企業が自身で計算した減価償却費の額がこの金額を超えるときは、その超える金額は、損金の額に算入されず、結果として、所得の金額が増えてしまいます。
この記事では、減価償却費の計算を定額法、旧定額法によることにした場合の償却限度額の計算方法について説明します。
税法上の償却限度額の計算
計算の特徴
税法上の償却限度額は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に定められた残存価額、耐用年数を用いて計算されます。
税法上の償却限度額の計算には会計上の減価償却費とは違い、償却限度額の計算に、企業自体の見積もりは一切使用されません。取得した有形固定資産ひとつひとつについて、それがどの程度の期間にわたって使用できるか、使用後にどれだけの金額を回収できるかを客観的に見積もることは非常に困難です。
このため、自ら残存価額や耐用年数を見積もるだけのノウハウがない企業や、そもそも自身で見積もりを行うつもりがない企業では、はじめからこの「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に定められた残存価額や耐用年数を使って減価償却を行ってしまうことも行われているようです。このようにすることで、会計上の減価償却費と税務上の償却限度額を比較して、調整を行う手間を省略することができるからです。
掛け算による計算
会計上、減価償却費の額は、取得価額から残存価額を差し引いた金額として定義される未償却残高を耐用年数で割ることで計算されますが、税法上は、耐用年数で割る代わりに、耐用年数の逆数を掛けることによって減価償却費の額を計算します。ここで使用される耐用年数の逆数のことを定額法償却率といいいます。
定額法と旧定額法
税法上、定額法による償却限度額の計算方法は、その有形固定資産を取得した時点によって2つに分けられます(「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」第4条第1項)。
- 平成19年(2007年)4月1日以後に取得した有形固定資産……定額法
- 平成19年(2007年)3月31日以前に取得した有形固定資産……旧定額法
定額法と旧定額法とでは、残存価額、耐用年数の両方に違いがあります。
定額法
計算方法の特徴
定額法は、平成19年4月1日以後に取得した有形固定資産に対して使用される方法です。具体的に、1年分の減価償却費の額は、次の計算式によって求められます。
減価償却費(1年分):取得価額×定額法償却率(小数第4位以下切上)
定額法による計算の特徴は、次の2点にあります。
- 残存価額はゼロとする
- 耐用年数の逆数が小数第3位以内に割り切れない場合、小数第4位以下を切り上げる
なお、償却限度額の計算上、残存価額はゼロとされていますが、帳簿価額がゼロになってしまうと、会計帳簿上、その有形固定資産がないものと同じになってしまうため、耐用年数の最終年度では帳簿価額を1円(備忘価額)残さなければならないことになっています。したがって、最終年度については、最終年度の期首帳簿価額から1円を差し引いた残額がその会計期間の減価償却費の額となります。
設例による説明
【設例】次の資料に基づいて、仕訳を示しなさい。なお、減価償却費の計算は定額法で、減価償却の仕訳は間接法で行うこと。会計期間は、毎年4月1日から翌3月31日までの1年間である。
- 20X1年4月1日、オートバイを600,000円で購入し、代金は後日支払うことにした。当社は、このオートバイの残存価額を30,000円、耐用年数を3年であると見積もった。
- 20X2年3月31日、決算にあたり、減価償却を行う。
- 20X3年3月31日、決算にあたり、減価償却を行う。
- 20X4年3月31日、決算にあたり、減価償却を行う。
20X1年度
取得時の処理
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
車両運搬具 | 600,000 | 未払金 | 600,000 |
決算時の処理
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
減価償却費 | 200,400 | 車両運搬具 | 200,400 |
※減価償却費(1年分):600,000円×0.334=200,400
オートバイを取得した4月1日から期末まで1年間使用しているため、1年分の減価償却費の額をそのまま20X1年度の減価償却費とすればよい。
財務諸表に計上される金額
貸借対照表 | 損益計算書 | ||
車両運搬具 | 399,600 | 減価償却費 | 200,400 |
減価償却を直接法で行っているため、車両運搬具勘定の金額は取得原価(600,000円)から減価償却費(200,400円)を差し引いた残額となる。
20X2年度
決算時の処理
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
減価償却費 | 200,400 | 車両運搬具 | 200,400 |
※減価償却費(1年分):600,000円×0.334=200,400
期首からから期末まで1年間使用しているため、1年分の減価償却費の額をそのまま20X2年度の減価償却費とすればよい。
財務諸表に計上される金額
貸借対照表 | 損益計算書 | ||
車両運搬具 | 199,200 | 減価償却費 | 200,400 |
減価償却を直接法で行っているため、車両運搬具勘定の金額は取得原価(399,600円)から減価償却費(200,400円)を差し引いた残額となる。
20X3年度
決算時の処理
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
減価償却費 | 199,199 | 車両運搬具 | 199,199 |
※減価償却費(最終年度):期首帳簿価額199,200円-1円=199,199円
最終年度であるため、車両運搬具の期首帳簿価額(前期末の帳簿価額)から1円を差し引いた残額が20X3年度の減価償却費となる。
財務諸表に計上される金額
貸借対照表 | 損益計算書 | ||
車両運搬具 | 1 | 減価償却費 | 199,199 |
車両運搬具の備忘価額として1円を残しているため、車両運搬具勘定に1円が残る。この金額は、オートバイを廃棄等するまで記録上残される。
旧定額法
計算方法の特徴
定額法は、平成19年3月31日以前に取得した有形固定資産に対して使用される方法です。具体的に、1年分の減価償却費の額は、次の計算式によって求められます。
減価償却費(1年分):(取得価額×0.9)×定額法償却率(小数第4位以下切捨)
旧定額法による計算の特徴は、次の2つの点にあります。
- 残存価額は取得価額の10%(要償却額は取得価額の90%)とする
- 耐用年数の逆数が小数第3位以内に割り切れない場合、小数第4位以下を切り捨てる
旧定額法では、耐用年数終了後10%の残存価額が残ります。その後もその有形固定資産を使用し続ける場合は、次の手順で各期の減価償却費を計算します。
- 耐用年数が終了した翌期に有形固定資産の帳簿価額が取得価額の5%になるまで減価償却費を計上する。
- 1.の翌年度以後は、(取得価額の5%-1円)÷5の金額を毎期減価償却費として計上する。
耐用年数が終了した後6年を経過すると、有形固定資産の帳簿価額が1円となりますので、その金額を有形固定資産を売却等するまで維持することになります。
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