簿記上の取引とその分解

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この記事では、簿記上の取引について見ていきます。取引という言葉は日常生活のなかでも使われていますが、簿記の世界では、この言葉を、日常生活上で使われている意味とは異なる意味で使用しています。この記事では、この日常生活上の意味と簿記の世界での意味をしっかりと区別できるようになるとともに、会計帳簿への記録を行うにあたって必要となる取引の分解について理解することを目的とします。

簿記上の取引

簿記上の取引とは、企業における財産の状況に変化をもたらした出来事のことをいいます。財産の変化がその企業の活動によって生じた場合はもちろんのこと、企業が積極的に活動していなかったとしても、企業の財産に変化があれば簿記上の取引に該当します。

企業の積極的な活動によらない財産の変化の例としては、次のようなものがあります。

  • 銀行に預けているお金に利子がついた
  • 今月分の家賃が預金口座から引き落とされた
  • 火事により倉庫に保管していた商品が焼失した
  • 店舗に陳列していた商品が盗まれた
  • 有志による寄付を受け取った
  • 為替相場や市場価格の変動により企業が保有する財産の評価額が変動した など

いずれも日常生活のなかでは取引という言葉で表現されるものではありませんが、企業の財産の状況が変化していますので、簿記では取引として取り扱うことになります。

経営の世界では、「人財」「人材」という言葉があるように、企業で働く人々をその企業の財産として位置づける考え方があります。しかし、簿記の世界では、原則として、人間を簿記の枠組みで捉えるべき財産として考えません。したがって、従業員の雇用や退職、知識や経験を積んだことによるスキルアップや老化による行動力の減退などを簿記上の取引として取り扱うこともありません。

なお、ここでは日常生活の中で使われる意味とは違うということを強調するために「簿記上の取引」という言葉を使っていますが、以後、簿記上の意味で使われていることが自明である場合は、「簿記上の」という枕詞を外して、単に「取引」といいます(このブログを含む簿記の教材では、簿記の話をしていることが自明なので、はじめに「簿記上の取引」の説明をしたら、通常、その後は枕詞を外してしまいます)。

取引の分解

会計帳簿には、財産の動きに加えて、その財産の動きがどのような理由によってもたらされたかを記録することになっています。これは、後々に会計帳簿の記録を見直したときに、どのようなことがあったのかを振り返ることができるようにしたいからです。たとえば、企業の財産が100億円減ってしまったとしましょう。財産の動きだけしか記録していないと、100億円減ったという事実が分かっただけで終わってしまい、「なぜそうなったのか」を知ることはできません。財産が変化した理由を記録しておくことは、後々、この「なぜ」に答えるために必要なのです。

この作業は、慣れるまでは難しいかもしれません。いくつか例を示してみましょう。

  • 電車代として、現金2,000円を支払った。
    • (財産の動き)現金が2,000円減った。
    • (その理由)電車代2,000円を支払うため。
  • 備品を購入し、その代金600,000円を現金で支払った。
    • (財産の動き)現金が600,000円減った。
    • (その理由)備品600,000円を購入するため。
  • 銀行から現金2,000,000円を借り入れた。
    • (財産の動き)現金が2,000,000円増えた。
    • (その理由)2,000,000円を借り入れたため。
  • 普通預金口座から現金50,000円を引き出した。
    • (財産の動き)現金が50,000円増えた。
    • (その理由)預金を50,000円引き出したため。

慣れるまでの間は、現金の動きに着目するとわかりやすいでしょう。財産の動きとその理由を分けるという作業に慣れてくると、現金以外の財産に着目して取引を分解することも自然にできるようになります。普段から、買い物をしたり、サービスにお金を支払ったりといったときに、「この取引を分解したらどうなるだろう」と考えるようにしてみると、この取引の分解の考え方をスピーディーに身につけることができるでしょう。

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