株式会社における設立時・設立後の出資の処理

純資産
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株式会社は、不特定多数の出資者から資金を集めて活動を行うことが予定されている会社として「会社法」に規定されているものをいいます。

株式会社では、出資者である株主が会社の損失に対して出資額以上の責任を負わないため(有限責任)、金融機関、取引先などの債権者は、株式会社が倒産すると大きな損失を被ってしまう可能性があります。そこで、株式会社に対しては、原則として、株主から出資を受けた金額に相当する財産については、外部に払出しを行うことを禁じています。「会社法」では、この払出しを行うことができない金額を明らかにするため、その金額を貸借対照表上に表示することを求めています。

出資の処理

原則的な処理

出資者から出資を受けたときは、その金額(金銭以外の財産を受けた場合は出資を受けたときの価額)を資本金勘定に計上します(「会社法」第445条第1項)。資本金勘定は、純資産の勘定であるため、新たに出資を受けた金額は貸方に記録されることになります。

株式会社では、出資者から出資を受け入れるにあたって、その出資者に対して株式が発行されます。株式会社が出資を受けた金額は、発行株式数と1株当たりの払込金額という形で表されることもありますが、この場合は、両者を掛けあわせて求めた金額を払込金額とします(すべての株式について株式会社に払込まれる金額は同じです)。

株式は、株主総会において議事に参加したり、剰余金の配当を受けたりする権利を表象するものであり、以前は券面として公布されていましたが、現在ではデータ上で管理されています。このため、「株式の発行」は、今日では、株主として登録されたという意味になります。

株式会社に対して出資を行った出資者(株主)は、株式会社から出資の返還を受けることはできませんが、株式を第三者に譲渡することによって、譲渡代金という形で金銭を回収することができます。

【設例】株式会社を設立するにあたり、株式10株を1株当たり200,000円で発行し、そのすべてについて現金で払い込みを受けた。当社は、払込金額の全額を資本金勘定に計上する。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金2,000,000資本金2,000,000

この払込みによって株式会社が受け取った金額は、発行株式数10株に1株当たりの払込金額200,000円を掛けた2,000,000円となります。

容認される処理

「会社法」では、出資者から受けた出資の額のうち2分の1を超えない金額を資本金としないことが認められています(「会社法」第445条第2項)。この場合、資本金としなかった金額は、資本準備金勘定に記録します(「会社法」第445条第3項)。資本準備金勘定も純資産の勘定なので、その金額は貸方に記録します。

払込金額を資本金勘定にしないことの意味は、大きく2つあります。

第1に、取崩しのために要する手続きが異なることです。払込金額を資本金とする場合も資本準備金とする場合も株主総会の決議と債権者の同意が必要となりますが(「会社法」第447条、第448条、第449条)、株主総会において必要とされる賛成票の数が異なります。資本準備金の場合は議決権の過半数で構いませんが、資本金の場合は議決権の3分の2以上が必要です(特別決議。「会社法」第309条第2項第9号)。資本準備金とした方が、若干ではありますが、取崩し(会社からの流出)が容易になります。

第2に、税制上の特典を受けるためです。「法人税法」などでは、比較的小さな企業に対しては税率を抑えたり、特別な規定を適用したりと、各種の優遇措置が認められています。そして、この「比較的小さな企業」に該当するかどうかは、資本金の額によって判断されるのです。したがって、税制面での優遇措置を受けるために、資本金の額を低く抑えておくという選択がとられることもあります。

【設例】株式会社を設立するにあたり、株式10株を1株当たり200,000円で発行し、そのすべてについて現金で払い込みを受けた。当社は、払込金額のうち100,000円を資本金勘定に計上する。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金2,000,000資本金1,000,000
  資本準備金1,000,000

払い込まれた2,000,000円のうち、資本金としなかった1,000,000円については、必ず資本準備金としなければなりません。

設立前の出資、設立後の出資

株式会社が設立された後、ある程度の期間が経過した後に、追加で出資を受け入れることを増資といいます。増資という特別の言葉が与えられていますが、出資者から出資を受けるという行為については、設立時に行われるものと同じです。また、会計処理についても、設立時の処理と変わりはありません。このため、増資については、設立後に追加的に受ける出資のことを増資ということを頭に入れておけば問題はありません。

株式会社以外の形態で活動する企業の場合

資本金、資本準備金は、簿記・会計の理論から必要とされるものではなく、どちらも「会社法」の定めに基づいて設けられる勘定です。このため、株式会社以外の会社や「会社法」の適用を受けない企業(個人事業、非営利組織の営利部門など)では、資本金、資本準備金以外の勘定が使用される場合もあります。出資者から出資を受けた金額を記録する勘定として、資本金、資本準備金の2つは絶対的なものではなく、その企業が準拠すべき法令によってさまざまです。

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