有形固定資産を取得したときは、その取得の形態に応じて計算された金額をその有形固定資産の取得原価として記録します。取得原価は、貸借対照表に計上される金額となるという意味だけでなく、その後、多くの有形固定資産について行われる減価償却において計算される各期の費用(償却費)の額を決定するという意味でも重要になります。
有形固定資産の取得原価について、会計上は、「原則として当該資産の引取費用等の付随費用を含める」(「企業会計原則」第三、五、D)程度の定めしかありませんが、税法上はもう少し詳細にその計算方法が定められています。すべての企業に対して税金が課されることを考えれば、税法上の規定であっても無視することはできません。
「法人税法」では、会計上、一般的に使用される取得原価ではなく、取得価額という言葉が用いられています。会計上の取得原価と、税法上で取得価額として認められる金額は必ずしも一致しておらず、両者が乖離しているときには税法上も一定の調整が行われます。この記事では、税法上の取得価額の算定方法について整理していきますので、以下では、取得原価ではなく、取得価額という言葉を使って説明していくことにします。
「法人税法施行令」による取得価額の定め
有形固定資産の取得価額については、「法人税法施行令」第54条第1項において、次のように定められています。この記事では、購入(第1号)、自己建設(第2号)、その他(第6号)の3つについて見ていくことにしましょう。
なお、「法人税法」は、企業の所得に対して課される税額(法人税)を計算することを目的としているため、各期の減価償却費の額に影響を与える「減価償却資産」を主語とした規定となっていますが、減価償却が行われない土地等の取得価額についても、基本的には同じように考えて差支えはありません(「法人税法基本通達」7-13-6の2)。
「法人税法施行令」第54条第1項
減価償却資産の第第48条から第50条まで(減価償却資産の償却の方法)に規定する取得価額は、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 購入した減価償却資産 次に掲げる金額の合計額
イ 当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(関税法第2条第1項第4号の2(定義)に規定する附帯税を除く。)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)
ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
二 自己の建設、製作又は製造(以下この項及び次項において「建設等」という。)に係る減価償却資産 次に掲げる金額の合計額
イ 当該資産の建設等のために要した原材料費、労務費及び経費の額
ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
三 自己が生育させた第13条第9号イ(生物)に掲げる生物(以下この号において「牛馬等」という。) 次に掲げる金額の合計額
……中略……
四 自己が成熟させた第13号第9号ロ及びハに掲げる生物(以下この号において「果樹等」という。) 次に掲げる金額の合計額
……中略……
五 適格合併、適格分割、敵勝現物出資又は適格現物分配により移転を受けた減価償却資産 次に掲げる区分に応じそれぞれ次に定める金額
……中略……
六 前各号に規定する方法以外の方法により取得をした減価償却資産 次に掲げる金額の合計額
イ その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額
ロ 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額
購入の場合
有形固定資産を購入した場合は、その購入した有形固定資産の価額(購入代価)に、その購入に要した引取運賃、荷役費などの費用(購入費用)と、据付費、試運転費などの事業の用に供するために直接要した費用を加算した金額を、その有形固定資産の取得価額とします。
なお、購入代価については、基本的に時価相当額となります。時価と比べて不当に高価な額で購入した場合は、実際に支払うこととなった金額ではなく、購入時の時価をもって購入価額とします(「法人税法基本通達」7-3-1)。この場合、実際に購入元に支払った金額と時価との差額は、税法上、その購入元に対する寄付等として取り扱われることとなります。
また、有形固定資産を購入するために借入を行った場合や、割賦払いとした場合の利息相当額は、取得価額に含めないことができます(「法人税法基本通達」7-3-1の2、7-3-2。割賦払いの利息相当額については、利息相当額が契約上明確に区別されている場合に限ります)。
さらに、次のものについても、有形固定資産の取得原価に含めないことができます(「法人税法基本通達」7-3-3の2)。
- 次に掲げるような租税公課等の額
- 不動産取得税又は自動車取得税
- 特別土地保有税のうち土地の取得に対して課されるもの
- 新増設に係る事業所税
- 登録免許税その他当期又は登録のために要する費用
- 建物等の建設等のために行った調査、測量、設計、基礎工事等でその建設計画を変更したことにより不要となったものに係る費用の額
- 一旦締結した固定資産の取得に関する契約を解除して他の固定資産を取得することとした場合に支出する違約金の額
なお、有形固定資産の取得価額に算入しなかった金額は、その有形固定資産を取得した事業年度の損金の額に算入されます。その金額は、有形固定資産の使用期間にわたって配分されることなく、一時で処理されます。
自己建設の場合
有形固定資産を自ら建設、製作または製造した場合は、その建設等のために要した原材料費、労務費及び経費の額に、据付費、試運転費などの事業の用に供するために直接要した費用を加算した金額を、その有形固定資産の取得価額とします。
なお、適正な原価計算に基づいて原価の額を計算している場合は、上の金額(原材料費、労務費および経費の額の合計額に、事業の用に供するために直接要した費用を加算した金額)に代えて、その原価の額を取得価額とすることも認められます(「法人税法施行令」第54条第2項)。
その他の場合
贈与を受けた場合などのように、購入、自己建設以外の方法で有形固定資産を取得した場合は、その取得時の時価に、その有形固定資産を事業の用に供するために直接要した費用を加えた金額を、その有形固定資産の取得価額とします。
取得元に対して特段の支払いがなかったからといって、取得価額をゼロとするということは認められません。有形固定資産の時価と、それを取得するために支払った対価の額(贈与を受けた場合はゼロ)との差額は受贈益として課税がされることになります。
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