この記事では、移動平均法による商品有高帳の記録のうち、値引きや割戻しがあったときに行う記録について見ていきます。
値引きとは、いったん商品売買が行われた後、商品の汚損・破損といった問題などが生じた場合に、事後的にその商品の販売代金を減額することをいいます。バーゲンセールやタイムセールや事前交渉(値切りなど)によって、売買が成立する前に販売価格が切り下げられている場合は該当しません。また、割戻しとは、一定期間中に一定の数量または金額を購入した買手に対して、売手が販売奨励・買手との関係強化等のために、事後的に代金の支払いを免除したり、金銭等を交付したりすることをいいます。どちらも、事後的に販売代金が減額される点で共通しています。
値引きや割戻しがあった場合、買手は商品有高帳への記録を行うことが必要ですが、売手は商品有高帳への記録を行う必要がありません。立場によって記録を行うかどうかが変わる点に注意が必要です。
設例
次の甲商品について4月中に行われた一連の取引について、移動平均法により商品有高帳への記録を行いなさい。なお、甲商品の前月繰越高は15,000円(30個×@500円)である。
4月4日 | 売上 | 20個 | 商品1個あたりの販売価格@800円 |
5日 | 売上値引 | 4日売上分。値引額2,000円 | |
10日 | 仕入 | 30個 | 商品1個あたりの購入価格@480円、付随費用300円 |
11日 | 仕入値引 | 10日仕入分。値引額500円 | |
17日 | 売上 | 15個 | 商品1個あたりの販売価格@800円 |
20日 | 売上 | 10個 | 商品1個あたりの販売価格@800円 |
25日 | 仕入 | 30個 | 商品1個あたりの購入価格@485円、付随費用300円 |
30日 | 仕入割戻 | 4月中の仕入れに対して900円の割戻しを受けた |
商 品 有 高 帳 | |||||||||||
甲 商 品 | |||||||||||
月 | 日 | 摘要 | 受入 | 払出 | 残高 | ||||||
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | |||
4 | 1 | 前月繰越 | 30 | 500 | 15,000 | 30 | 500 | 15,000 | |||
4 | 売上 | 20 | 500 | 10,000 | 10 | 500 | 5,000 | ||||
10 | 仕入 | 30 | 490 | 14,700 | 40 | 492.5 | 19,700 | ||||
11 | 仕入値引 | △500 | 40 | 480 | 19,200 | ||||||
17 | 売上 | 15 | 480 | 7,200 | 25 | 480 | 12,000 | ||||
20 | 売上 | 10 | 480 | 4,800 | 15 | 480 | 7,200 | ||||
25 | 仕入 | 30 | 495 | 14,850 | 45 | 490 | 22,050 | ||||
30 | 仕入割戻 | △900 | 45 | 470 | 21,150 |
売上値引・売上割戻を行ったときの記録
売手がいったん売り上げた商品について値引きを行ったり、割戻しを行ったりしたときは、商品有高帳への記録を行う必要はありません。商品有高帳は商品の取得原価の動きを記録していく会計帳簿なので、売上金額を減額する売上値引や売上割引は、そもそも記録の対象になりません。
仕入値引・仕入割戻を受けたときの記録
値引きも割戻しも、商品を仕入れた後、事後的に代金(買手にとっての取得原価)が減額される取引であることに変わりはありません。このため、どちらの場合も同じように記録を行うことができます。
受入欄
買手が仕入れた商品について、値引きや割戻しを受けたときは、商品有高帳の受入欄のうち金額欄に、値引や割戻を受けた金額を記録します。
値引きも割引きも仕入れた商品を返品する取引ではありませんから、値引きや割戻しを受けても商品の数量に変化はありません。また、単価は、金額を数量で割って計算されますが、数量がゼロですから、単価の計算を行うことができません。したがって、数量欄、単価欄は空欄となります。
月 | 日 | 摘要 | 受入 | 払出 | 残高 | ||||||
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | |||
25 | 仕入 | 30 | 495 | 14,850 | 45 | 490 | 22,050 | ||||
30 | 仕入割戻 | △900 | 45 | 470 | 21,150 |
なお、値引きも割戻しも商品の取得原価を減少させる取引ですから、その金額はマイナスになります。そこで、マイナスの金額であることが分かるように、その記入を赤字で行ったり、金額の前にマイナスを意味する△をつけたりします。このとき、一般にマイナスを表すときに使われる「-」は使用しません。見間違えやコピー等で判別しにくくなってしまうことを避けるためです。
残高欄
残高欄には、次の3つのものを記録します。
- 商品の数量(在庫数量)【直前の在庫数量と同じ】
- 平均単位取得単価【最後に求める】
- 値引・割戻後の残高金額
値引きや割戻しがあったときも、商品を仕入れたときと同じように、平均単位取得原価を計算しなおすことが必要になります。これは、値引きや割戻しによって、平均単位取得原価を計算するための1つの要素である残高金額が変化(減少)するからです。
値引きや割戻しによって商品の在庫数量が変わることはありませんから、数量は値引・割戻直前前の数量を書き写します。一方、商品の残高金額は、値引・割戻直前の残高欄に記録されていた金額から、その値引きや割戻しを受けた金額を差し引いて計算します。 平均単位取得原価は、ここで残高欄に記録した残高金額を在庫数量で割って計算します。下の例において、平均取得単価は、次のように求められます。
- 合計数量:45(直前の数量と同じ)
- 値引・割戻後の金額:22,050-900=21,150
- 平均単位取得原価:21,150÷45=470
月 | 日 | 摘要 | 受入 | 払出 | 残高 | ||||||
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | |||
25 | 仕入 | 30 | 495 | 14,850 | 45 | 490 | 22,050 | ||||
30 | 仕入割戻 | △900 | 45 | 470 | 21,150 |
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