剰余金の配当と処分

簿記純資産
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投資者からの出資を元手として活動が行われる株式会社では,その見返りとして,稼いだ利益の一部が投資者[*1]に分配されます(これを配当といいます)。企業が稼いだ利益は,決算振替仕訳を経て繰越利益剰余金勘定に蓄積されていますから,配当は基本的にこの繰越利益剰余金勘定に記録されている金額のなかから行われることになります。

なお,この剰余金の配当と処分の仕訳については,各期の収益・費用の額が損益振替仕訳,資本振替仕訳を経て繰越利益剰余金勘定に集められてくるまでの流れとあわせて理解するようにすると,会計上慕情の記録のつながりをイメージしやすくなります。

剰余金の配当

株式会社がどれだけの金額を配当するかは,原則として,株式会社の最高意思決定機関である株主総会の決議によって決められます(「会社法」第454条第1項)[*2]。株式会社側で原案を作成しますが,あくまでも最終決定をするのは株主総会です。

株主総会決議時

株主総会で配当の額が決まった場合は,その金額を未払配当金勘定に計上します。総会決議によって近い将来に配当金を支払う義務が確定したので,その金額を負債(未払配当金)として計上しておくのです。

未払配当金勘定の相手勘定は繰越利益剰余金勘定となります。純資産は,資産から負債を差し引いたものですから,資産は変わらず(まだ配当を行っていない),負債が増えた(未払配当金)以上,純資産の額を減らさなければなりません。今回,過去に稼いだ利益のなかから配当を行うのですから,その過去の利益が蓄積されている繰越利益剰余金勘定の金額を減らすのです。

【取引】株主総会において,配当金6,000,000円を支払うことが決議された。

未払配当金勘定は負債の勘定ですから,新たに負債が発生したときは貸方に記録を行います。また,繰越利益剰余金勘定は純資産の勘定ですから,これを減らすときは借方に記録を行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
繰越利益剰余金6,000,000未払配当金6,000,000

配当時

株主総会終了後,企業はそこで決議された配当金の額を支払うことになります。支払いによって債務は消滅しますから,未払配当金勘定の記録を消去します。

【取引】配当6,000,000円を当座預金口座から支払った。

未払配当金勘定は負債の勘定ですから,この記録を消去するときは借方に記録を行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
未払配当金6,000,000当座預金6,000,000

利益準備金の積み立て

「会社法」上,株主に対して配当を支払う場合は,原則として,その金額の10分の1を繰越利益剰余金勘定から利益準備金勘定に振り替えることが求められます(「会社法」第445条第4項)。

利益準備金は,「会社法」上で求められている準備金のひとつで,企業が稼いだ利益(繰越利益剰余金)を原資とするものをいいます。準備金とは,金融機関,取引先などの債権者を守るために設けられているものであり,原則として,経営者が自由に処分することはできません(株主総会の同意を経て,債権者からの異議にも対応する必要がある。「会社法」第448条・第449条)。「株主に対して配当するのであれば,債権者のためにもお金をとっておきなさい」というのが準備金を積み立てさせることのねらいになります。

なお,配当にともなって積み立てるべき準備金の額(資本準備金の額と利益準備金の額の合計額)には,資本金の額の4分の1(基準資本金額)までという上限があり,利益準備金の積み立てはこの金額を超えて行うことができません(「会社計算規則」第22条第2項)。したがって,この規定も踏まえたうえでの利益準備金の積立額を示せば,次のようになります。

次のうちいずれか少ない額

  • 配当額の10分の1
  • 資本金の額の4分の1から資本準備金と利益準備金の合計額を差し引いた残額

なお,債権者のために,資本金の額の4分の1を超える金額の財産を積み立てておきたいという場合は,利益準備金ではなく,別途積立金として積み立てることになります。別途積立金として積み立てておけば,利益準備金のときと同じように,株主総会の決議なしに取り崩すことができなくなります。債権者からの異議申し立ての機会についても,株主総会の決議に付帯する形でルールを決めれば設けることができます。

株主総会決議時

【取引】株主総会において,配当金6,000,000円を支払うことが決議された。なお,同日における資本金の額,資本準備金の額および利益準備金の額はそれぞれ40,000,000円,5,000,000円,4,500,000円である。

利益準備金として積み立てる額を求めるため,配当額の10分の1と,基準資本金額から準備金の額を差し引いた残額をそれぞれ計算してみましょう。

  • 配当額の10分の1:6,000,000円÷10=600,000円
  • 基準資本金額から準備金の額を差し引いた残額:(40,000,000円÷4)−(5,000,000円+4,500,000円)=500,000円

配当の額の10分の1よりも,基準資本金額から準備金の額を差し引いた残額の方が小さいですから,利益準備金の積立額は500,000円(少ない方)となります。この金額は,配当金と同じように,繰越利益剰余金勘定から振り替えます。このため,繰越利益剰余金の減少額は,配当額と利益準備金の積立額を合計したものになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
繰越利益剰余金6,500,000未払配当金6,000,000
利益準備金500,000


*1 株式会社に対して出資をした者としての権利は,出資を行ったときにその株式会社から発行された株式を売却することによって,他人に譲渡することができます(「会社法」第127条)。配当は,この出資者としての権利(株式)を保有している者(株主)に対して支払われるので,もともとその株式会社に対して投資をした者が必ず配当を受け取ることになるとは限りません(株式を売却したら配当を受け取る権利も失う)。
*2 ただし,取締役会を設置している株式会社は,年度中1回にかぎり,株主総会ではなく,取締役会の決議で配当を行うことができます(「会社法」第454条第5項)。

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