商品を掛けで仕入れた際に、仕入先が掛代金の回収を早期に行うために、「掛代金を早く支払った場合は掛代金の支払いを一部免除する」という条件をつけてくることがあります。この掛代金(買掛金)を早期に支払うことにより免除される金額のことを仕入割引といます。
仕入割引は、企業の「掛代金を早く支払う」という行動の結果として得られるものであり、仕入れた商品に問題があったわけではありません。このため、仕入割引は、商品仕入とはまったく別の取引として処理します。このため、返品や値引のケースとは違って、仕入勘定や商品勘定に記録されている商品の取得原価の修正は行わないというところに注意が必要です。
商品を仕入れたときの仕訳
仕入割引は、掛代金(買掛金)に対して発生するものですから、まずは、この掛代金を発生させる取引から見ていきましょう。
【設例1】商品100,000円を仕入れ、代金は掛けとした。買掛金は仕入日から30日以内に支払うこととなっているが、7日以内に支払った場合には1%の割引を受けられることとされている。
さて、この問題文では商品の仕入れについての説明と、買掛金の支払条件(割引を含む)についての説明が行われていますが、この日に仕訳しなければならないのは前半部分(商品の仕入れ)のみとなります。商品を仕入れたタイミングでは、買掛金の支払いはまだ行われておらず、仕入割引が発生するかどうかも決まっていません。期中の取引の仕訳は、あくまでも実際に起こったことベースで行っていきます。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
仕入 | 100,000 | 買掛金 | 100,000 |
割引を受けたときの仕訳
【設例2】設例1の買掛金100,000円について、仕入日から7日後に、割引料1,000円を差し引いた残額99,000円を小切手を振り出して支払った。
仕入先から提示された条件を満たした場合(さきほどの設例の場合は「仕入日から7日以内に支払うこと」)は、
- 本来支払うべき買掛金の額を全額取り崩すとともに、
- 1.から割引額を差し引いた、実際の支払額を記録し、
- 割引額(1.と2.の差額)を仕入割引勘定に計上する
という3つのプロセスで記録を行っていきます。
本来支払うべき買掛金の額を全額取り崩す
まず、商品を仕入れた際に発生した買掛金100,000円のすべてを取り崩します。実際には割引料を差し引いた99,000円しか支払っていませんが、この金額は関係ありません。買掛金勘定は、企業が将来支払わなければならない義務が記録される勘定であることを思い出してください。実際に支払った99,000円と支払が免除された1,000円(=100,000円×1%)の合計100,000円が、【設例2】の取引によって、今後、支払う必要がなくなった(義務が解消された)金額になります。
買掛金勘定は負債の勘定ですので、その金額を取り崩す(減らす)ときは借方に記録を行います。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
買掛金 | 100,000 |
実際の支払額を記録する
次に、仕入先に行った支払いについての記録を行います。この取引では、小切手99,000円を振り出していますから、当座預金勘定の金額を減らします。当座預金勘定は資産の勘定ですから、その金額を減らすときは貸方に記録を行います。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
買掛金 | 100,000 | 当座預金 | 99,000 |
割引額を仕入割引勘定に記録する
支払いが免除された金額(割引額)は、仕入割引勘定に記録をします。「仕入」「割引」とお金が減りそうな言葉並んでいて、間違ってしまいやすいところですが、仕入割引勘定は収益の勘定です。支払いが免除されるのですから、企業の財産にはプラスの効果があります(マイナスのマイナスはプラス)。収益の勘定ですから、仕入割引勘定の記録は貸方に行います。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
買掛金 | 100,000 | 当座預金 | 99,000 |
仕入割引 | 1,000 |
なぜ早く支払うと割引を受けられるのか
銀行でお金を借りたときは利息を支払わなければなりません。それは、あなたにお金を貸すことによって、銀行はそのお金を自由に使うことができなくなるからです。
仕入割引についてもこれと同じことが言えます。本来30日以内に支払えばよかったお金を7日で支払うことによって、買い手は23日分(=30日-7日)、そのお金を自由に使える機会を失いました。そのお金があったら、また新しい商品を仕入れて、さらに売り上げを伸ばす機会もあったかもしれないのですが、その機会を放棄して支払いをするという選択をしたわけです。この「機会の放棄」に対して与えられるのが仕入割引です。
別の言い方をすれば、買掛金を通常よりも早く支払うというのは、仕入先に23日間お金を貸していると考えることもできます。この場合、仕入割引はまさしく利息の性格を有することになります。実際の取引とは異なりますが、仕訳の形で書いてみれば、このような形になります。
仕入日
商品を仕入れ、買掛金が発生したときの仕訳は、通常のケースと同じです。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
仕入 | 100,000 | 買掛金 | 100,000 |
支払日(仕入日から7日後)
ここで実際に支払いを行った日に、お金を貸しつけたと考えましょう。買掛金勘定には手をつけず、貸付金勘定を使って記録をします。この場合、仕入割引の額は、返済前に受け取った利息の額と考えることができます。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
貸付金 | 100,000 | 当座預金 | 99,000 |
受取利息(仕入割引) | 1,000 |
返済日(仕入日から30日後)
そして、本来の支払日に貸付金の返済を受け、そのお金を使って買掛金の決済を行ったとしましょう。
返済を受けた額と買掛金の支払額が同額になっていることに注目してください。現金は100,000円の増加と100,000円の減少ですので、トータルで考えればプラスマイナスゼロとなります。また、さきほど無理やり作った貸付金勘定の記録がこの仕訳により相殺され、商品を仕入れたときに発生した買掛金勘定の記録もこの仕訳により相殺されます。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 100,000 | 貸付金 | 100,000 |
買掛金 | 100,000 | 現金 | 100,000 |
仮のシナリオで行われた一連の仕訳ですが、現金勘定の記録と貸付金勘定の記録が消滅し、買掛金も無事決済されたので、結果的には本来の仕訳と同じになります。この結果から、掛代金を前倒しで支払う行為は、仕入先に対して本来の支払日までお金を貸すことと同じであるということが可能になります。
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