有形固定資産を除却したときの処理

簿記事業用資産
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有形固定資産は,その耐用年数が経過するまで使用しつづける場合もありますが,耐用年数の経過を待たずに中古品として売却してしまうこともあります。すぐに売却相手が見つかればいいのですが,固定資産の場合は,金額が大きいことや中古品を購入しようとする人がそもそも多くないことから,売却相手がすぐに見つからないことも珍しくありません。

このような場合は,売却を予定している資産であることが明確になるように,売却時の仕訳に準じて除却(じょきゃく)とよばれる処理が行われます。有形固定資産を除却する場合は,次の4つのステップで仕訳を行っていきます。

  1. 当期首から売却日までの期間(当期中にその有形固定資産が使用された期間)に相当する減価償却費を計上する。
  2. その有形固定資産について,有形固定資産の勘定(間接法で減価償却を行っている場合は,これに加えて減価償却累計額勘定)に計上されていた金額をすべて取り崩す。
  3. 将来,その有形固定資産を売却したときに受け取ると見込まれる金額(正味売却価額)を貯蔵品勘定に計上する。
  4. 2.と3.の差額を固定資産除却損益として計上する。

この記事では,次の設例を使って,有形固定資産を除却したときの仕訳について考えていきます。

2021年6月30日,当社が保有する備品を除却した。この備品は2018年4月1日に450,000円で取得したものであり,定額法(耐用年数5年,残存価額ゼロ)で減価償却を行っている(仕訳は間接法)。なお,この備品の正味売却価額は30,000円と見積もられている。当社の会計期間は,毎期4月1日から翌3月31日までの1年間であり,当期分の減価償却費は月割計算によって求める。

有形固定資産を除却したときの仕訳

当期分の減価償却費を計上する

有形固定資産については,原則として,企業が使用した期間に応じて費用の額(減価償却費)を計上しなければなりません。この備品については,当期も4月1日から6月30日までの3ヶ月間使用していますから,この3ヶ月分の減価償却費を計上することが必要になります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
減価償却費22,500減価償却累計額22,500
  • 減価償却費(3ヶ月分):(取得原価450,000円−残存価額0円)÷耐用年数5年÷12ヶ月×3ヶ月=22,500円

有形固定資産の帳簿価額を取り崩す

次に,売却した有形固定資産に関して行われていた記録をすべて取り崩します。有形固定資産は,除却により企業からなくなってしまいましたから,記録もすべてなくす必要があります。

この設例では,減価償却費の仕訳が間接法によって行われています。間接法では,各期の減価償却費が減価償却累計額に累計されていくので,備品勘定に計上されている金額はその取得価額450,000円のままです。そこで,まずはこの備品勘定の記録されている450,000円を取り崩します。備品勘定は資産の勘定ですから,その記録を取り崩すときは貸方に記録を行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
  備品450,000

次に,減価償却累計額勘定の記録を取り崩します。今回,問題文には,減価償却累計額勘定に計上されている金額が書かれていませんので,その金額は自分で計算する必要があります。減価償却は,毎期,決算時に行われますから,有形固定資産を取得してから除却日までの間の決算の数だけ減価償却費の計算を行う必要があります。

  • 2019年3月31日
    • 減価償却費:(取得原価450,000円−残存価額0円)÷耐用年数5年=90,000円
  • 2020年3月31日
    • 減価償却費:(取得原価450,000円−残存価額0円)÷耐用年数5年=90,000円
  • 2021年3月31日
    • 減価償却費:(取得原価450,000円−残存価額0円)÷耐用年数5年=90,000円

さきほど当期分の減価償却費として22,500円も減価償却累計額勘定に記録が行われていますから,この備品の除却にあたって減価償却累計額勘定から取り除かなければならない金額は,合計292,500円(=90,000円+90,000円+90,000円+22,500円)となります。減価償却累計額勘定は,有形固定資産の評価勘定(資産のマイナス勘定)ですから,これを取り崩すときは借方に記録を行います(マイナスのマイナスはプラスなので,資産が増加したときと同じ側に記録を行う)。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
減価償却累計額292,500備品450,000

除却によって受け取ると見込まれる金額(正味売却価額)を計上する

続いて除却によって受け取ると見込まれる金額(正味売却価額)を計上します。正味売却価額とは,売却によって売却相手から受け取る金額から売却のための費用(取り外し,梱包,配送等の費用)を差し引いた金額になります。

除却した有形固定資産の正味売却価額は,貯蔵品勘定に計上します。貯蔵品勘定は,現在,企業のなかで使用されておらず,いつでも売却することができるものを記録しておく勘定です(商品・製品を除く)。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
減価償却累計額292,500備品450,000
貯蔵品30,000  

固定資産除却損益を計上する

最後に,固定資産の除却損益を計上します。有形固定資産の場合,購入価額の一部は,すでに減価償却を通じて,各期の費用として計上されてしまっていますから,除却損益を計算する対象となる金額は,まだ減価償却費とされていない未償却残高のみとなります。ただし,除却の場合は,将来に有形固定資産を売却したときに得られる金額(正味売却価額)がありますから,この金額は除却損益の額から取り除かなければなりません。

この設例の場合,有形固定資産の除却損益は,有形固定資産の未償却残高157,500円(=450,000円−292,500円)から,貯蔵品の正味売却価額30,000円を差し引いた127,500円(=157,500円−30,000円)の損失となります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
減価償却累計額292,500備品450,000
現金30,000  
固定資産売却損127,500  

なお,理論的には,有形固定資産の未償却残高から貯蔵品の正味売却価額を差し引くことで除却損益を求めることになりますが,直前の仕訳の借方と貸方の差額として固定資産除却損127,500円を求めることもできます(貸方合計450,000円−借方合計(292,500+30,000円)=127,500円)。

簿記検定などでの解答方法

以上のように,有形固定資産を除却したときは,先に当期分の減価償却費を計上する仕訳をしてから(1.),除却の仕訳(2.〜4.)を行うという2つの作業が必要になりますが,簿記検定などの資格試験では解答欄がひとつしかない場合があります。このような場合は,これら2つの仕訳を1つにまとめて,次のように仕訳を行うことが一般的です。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
減価償却累計額270,000備品450,000
減価償却費22,500  
現金30,000  
固定資産売却損127,500  

この1つにまとめた仕訳では,減価償却累計額勘定の金額が当期分の減価償却費を含まない金額になっていることに注意してください(当期分の減価償却費は,これとは別に減価償却費勘定に計上されています)。

貯蔵品を売却したときの仕訳

減価償却は,企業の活動に使用していること(費用が発生していること)を前提として行うものですので,売却を予定している貯蔵品については,減価償却は行われません。したがって,貯蔵品を売却したときは,有形固定資産を売却するときのように減価償却費の処理を考える必要はありません。

貯蔵品(帳簿価額30,000円)を25,000円で売却し,代金は現金で受け取った。なお,売却にあたり,発送費として2,000円を現金で支払った。

貯蔵品の帳簿価額を取り崩す

売却により,貯蔵品は企業のなかからなくなりますので,この貯蔵品に関する記録もすべて取り崩します。貯蔵品勘定は資産の勘定ですから,この記録を取り崩すときは貸方に記録を行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
  貯蔵品30,000

受け取った対価の額を計上する

今回は,売却により現金25,000円を受け取っていますから,この現金の増加についての記録を続けて行います。売却の対価を後日受け取る場合には,現金勘定ではなく未収金勘定を使って処理します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金25,000貯蔵品30,000

処分費用を計上する

次に,売却にあたって負担した費用の額についての記録を行います。今回は,発送費として現金2,000円を支払っているので,この現金の減少について記録を行います。費用を後払いにしている場合には,現金勘定ではなく未払金勘定を使って処理します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金25,000貯蔵品30,000
  現金2,000

貯蔵品売却損益を計上する

最後に,この貯蔵品の売却に伴って生じた損益を計上します。この設例では,売却に際して5,000円の損失(帳簿価額30,000円―売却価額25,000円)が生じていますが,さらに2,000円の発送費を負担していますので,この金額を損失に加えて合計7,000円が貯蔵品の売却による損失額となります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金25,000貯蔵品30,000
貯蔵品売却損7,000現金2,000

今回は,借方にも貸方にも現金勘定の記録が行われていますので,次のように現金勘定同士を相殺して,現金の純増額のみを計上することもで可能です。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金23,000貯蔵品30,000
貯蔵品売却損7,000  

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