履行義務の充足に伴う収益の認識

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企業の営業活動から生じる収益の額は、原則として、履行義務が充足されたタイミングで認識しなければなりません。この記事では、この収益の認識について理解するために必要となる、①履行義務とは何か、②履行義務の充足とはどのようなことをいうかについて説明したうえで、履行義務の充足に伴う収益の認識に係る基本的な仕訳について見ていきます。

履行義務とは何か

履行義務とは、企業(売手)が顧客(買手)に対して約束した、財(商品等)またはサービスを提供する義務のことをいいます(「収益認識に関する会計基準」第7項)。契約は、売手と買手との間で結ばれ、売手も買手も、どちらも自らに課せられた約束を果たさなければなりませんが、履行義務はあくまでも収益を認識する売手側の立場から考えます(買手が代金を支払う義務は履行義務とはなりません)。

契約とは

契約とは、売手と買手の間で行われた取り決めのことをいいます。買手も売手も、契約に反した場合は法的にペナルティが課せられる(裁判に負ける)可能性があるものをいいます(法的拘束力)。具体的には、買手は提供を受けた財またはサービスの代金(対価)を支払わなければなりませんし、売手は買手が必要とする財またはサービスを提供しなければなりません。

なお、契約というと正式に契約書が交わされる場面をイメージする人も多いかと思いますが、①口頭での契約(口約束)であっても構いませんし、②商慣習上、契約が行われないことが普通である場合(小売業など)は、たとえ実際に契約書を交わしていなくても、常識の範囲内で契約が結ばれたとみなして、契約書が交わされたときと同様に、「収益認識に関する会計基準」に定められた処理を行います。

1つの契約には複数の履行義務が含まれることもある

1つの契約のなかに、複数の履行義務が盛り込まれることがあります。たとえば、商品を販売するという契約に、次のような履行義務が盛り込まれることもあるでしょう。

  • 顧客が欲しい商品をその顧客に引き渡す
  • 販売した商品を顧客のところまで届ける
  • 販売した商品を設置・取付する
  • 販売した商品に問題があったときに返品を受け付ける
  • 販売した商品について、定期的に点検する(メンテナンス)
  • 販売した商品が故障した場合に、無償または安価で修理・交換する
  • ポイントカード、スタンプカードなどを介して、次回以降の来店時に便宜を与える

このように、1つの契約のなかに複数の履行義務が盛り込まれている場合は、原則として、会計処理を行う前にこれらを1つ1つ識別しておく必要があります(「収益認識に関する会計基準」第32項)。

履行義務の充足

履行義務の充足とは、契約のなかで顧客に約束したこと(履行義務)を約束通りに果たしたことをいいます。履行義務は、①一定の期間にわたり充足されるものと、②一時点で充足されるものの2つのタイプに分けられます。どちらのタイプの履行義務に該当するかによって、収益を認識する方法(仕訳の方法)が変わりますので、間違えなく区別する必要があります。

一定の期間にわたり充足される履行義務

一定の期間にわたり充足される履行義務には、継続的に顧客にサービスを提供し続けるようなものが該当します。住居や事務所、車両、土地など賃貸する履行義務であったり、近年、流行っているサブスクリプションサービスなどもこれに該当します。

一時点で充足される履行義務

一定の期間にわたり充足される履行義務以外の履行義務は、すべて一時点で充足される履行義務となります。商品の引き渡し、商品の配送、設置・取付などは、一時点で充足される履行義務の代表例になります。

履行義務の充足に伴う収益の認識に係る基本的な仕訳

一時点で充足される履行義務を充足したことによる収益認識の仕訳

【設例1】20X1年7月1日、商品10,000円を売り上げ、代金は現金で受け取った。

この取引では、商品を引き渡すと同時に代金を受け取っていますが、「収益認識に関する会計基準」に基づく処理を理解するためには、この2つの取引をバラバラに考えると分かりやすくなります。

契約時(対価受取時)の仕訳

まず、代金を受け取ったときの仕訳です。お店で何かを購入するときは、レジで代金を支払わなければ、商品は自分のものになりませんよね。そこで、代金のやりとりから先に考えていくことにしましょう。

代金を受け取ったときは、顧客に対して商品を引き渡さなければならない義務(履行義務)が発生します。このような「お金をもらっているのに、やるべきこと(商品の引き渡し)をやっていない」状況が発生したときは、次のように、将来にやるべきこと(履行義務)を契約負債勘定に計上します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金10,000契約負債10,000

履行義務を充足したときの仕訳

次に、履行義務を充足したときの仕訳です。商品を引き渡した(履行義務を充足した)ときは、代金を受け取ったときに計上した契約負債を取り崩して、これを収益として認識します。今回は、商品の売上げにともなって発生した収益ですので、売上勘定を使って処理します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
契約負債10,000売上10,000

一定の期間にわたり充足される履行義務を充足したことによる収益の認識の仕訳

【設例2】20X1年7月1日、向こう1年間の約束で事務所を賃貸した。1年分の家賃は1,200,000円であり、契約時に全額現金で受け取っている。会計期間は、毎期、4月1日から翌3月31日までの1年間である。

一定の期間にわたり充足される履行義務についても、基本的には一時点で充足される履行義務と同じように処理することができます。ただし、収益を認識するタイミングが異なります。

契約時(対価受取時)の仕訳(20X1年7月1日)

家賃を受け取ったことにより、1年間にわたって事務所を賃貸する義務(履行義務)が発生しました。「お金をもらっているのに、やるべきこと(事務所の賃貸)をやっていない」状況になりましたので、契約負債を認識します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金1,200,000契約負債1,200,000

履行義務を充足したときの仕訳

一定の期間にわたり充足される履行義務については、「商品の引き渡し」のように収益認識のタイミングを決定する特定のイベント(出来事)が発生するわけではありません。このような履行義務は、時間が経過するにつれて、少しずつ充足されていきます。

厳密にいえば、履行義務は毎秒毎秒充足されていますが、1秒ごとに記録を行ったところで何の意味もないため、①契約期間が終了したとき(約束したことをすべて果たしたとき、契約が途中でキャンセルされたときなど)や②決算のタイミングで、それまでに充足した履行義務に相当する金額をまとめて計上してしまいます。

決算日の処理(20X2年3月31日)

この事務所が賃貸される期間は、20X1年7月1日から20X2年6月30日までの1年間であり、その間に決算日(20X2年3月31日)がはさまっていますから、先に決算日の処理から見ていきましょう。

賃貸が始まった日(20X1年7月1日)から決算日(20X2年3月31日)まで、9か月間にわたって事務所が賃貸されていますから、9か月分の履行義務が充足されたと考えて、はじめに契約負債勘定に計上した金額のうち9か月分を収益の勘定(受取家賃)に振り替えます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
契約負債900,000受取家賃900,000

※1年分の家賃1,200,000円÷12か月×9ヶ月=900,000円

残りの3か月分(20X2年4月1日~20X2年6月30日分)については、まだ「事務所を賃貸する」という履行義務が充足されていませんので、契約負債のまま残しておきます。

契約終了日の処理(20X2年6月30日)

この契約負債勘定に残された金額は、20X2年6月30日に、契約が終了したタイミングで収益の勘定(受取家賃)に振り替えます。顧客に対する約束(履行義務)がすべて充足されたので、これに対応する契約負債も会計帳簿から取り除かなければならないのです。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
契約負債300,000受取家賃300,000

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