損益計算書の様式(フォーマット)には,①勘定式,②報告式という2つのタイプのものがあります。はじめて簿記を学ぶ人向けに作成された教材では,勘定記入の法則や損益勘定との関係を意識させるために,費用を借方,収益を貸方にそれぞれ並べる勘定式という方法で損益計算書が作成されますが,実際の企業が有価証券報告書に掲載したり,公告のために作成する損益計算書は報告式という方法で作成されます。
企業の財務分析を行うにあたっては,その前提として,実際に企業から公表される様式で情報を読み取ることができることが重要になります。報告式の損益計算書に表示されるさまざまな利益(段階利益)の意味を正しく理解しておくことで,損益計算書の情報をこれまで以上に活用できるように成ります。
報告式による損益計算書の様式
報告式の損益計算書では,企業がどのような活動から損益を生み出したかを分かりやすく表示するために,当期純損益(当期純利益または当期純損失)を,①営業損益計算,②経常損益計算,③純損益計算という3つのステップに分けて,段階的に計算・表示していくことになっています。
報告式による損益計算書の全体像は,次のようになっています。①営業利益から上の部分が営業損益計算,②経常利益から上の部分が経常損益計算,そして,③全体(当期純利益から上の部分)が純損益計算です。
損 益 計 算 書 | |||
自 20X1年4月1日 至 20X2年3月31日 | |||
Ⅰ 売 上 高 | ××× | ||
Ⅱ 売 上 原 価 | ××× | ||
売 上 総 利 益 | ××× | ||
Ⅲ 販売費及び一般管理費 | ××× | ||
営 業 利 益 | ××× | ||
Ⅳ 営 業 外 収 益 | ××× | ||
Ⅴ 営 業 外 費 用 | ××× | ||
経 常 利 益 | ××× | ||
Ⅵ 特 別 利 益 | ××× | ||
Ⅶ 特 別 損 失 | ××× | ||
税引前当期純利益 | ××× | ||
法人税,住民税及び事業税 | ××× | ||
当 期 純 利 益 | ××× |
営業損益計算
営業損益計算では,企業の営業活動から生じる損益が計算されます。本業からどれだけの利益を稼ぐことができているか(本業の成果)を知りたいときは,この営業損益計算をみることによってわかります。
商品・製品の販売を目的とする企業の場合(小売業・卸売業など)
他社から仕入れてきた商品や,自社で製造した製品を販売している企業では,この営業損益計算の部が,①売上総利益を計算する部分と,②営業損益全体を計算する部分とに分けられます。
①売上総利益は,商品の売上高から売上原価(売り上げた商品・製品の原価)を差し引いたもので,どれだけの商品・製品の売買からどれだけの利益を稼ぐことができたかを表します。売上総利益は,企業において生じるさまざまな費用や,最終的に株主に対して分配される配当を行うための原資となる金額です。この金額に対しては,その企業に対して関心をもつ人々(利害関係者)も強く興味を持っているため,彼らへの情報提供の観点から営業損益と分けて表示することになっています。
②営業損益は,この売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引くことで求められます。販売費及び一般管理費とは,本業において発生した費用で売上原価以外のものをいい,商品を販売するための費用(発送費・広告宣伝費等),人件費(給料・法定福利費・福利厚生費等),営業活動に使用したものに対する費用(減価償却費・消耗品費等),その他の経費(通信費・旅費交通費・水道光熱費等)などさまざまなものがあります。
商品・製品の販売を目的とする企業以外の場合(サービス業など)
サービス業のように,商品・製品の販売を行っていない企業の場合は,売上原価が存在しないため,売上総利益の計算は行われません。この場合,売上高は営業収益,その他の費用(販売費及び一般管理費)は営業費用として表示されることが一般的です。この場合も,営業収益から営業費用を差し引くことで,営業損益が計算されます。
経常損益計算
経常損益計算では,経常的に行われる活動(毎期,同じように発生する事項)から生じる損益が計算されます。本業たる営業活動以外の部分も含めて,企業がどれだけの利益を稼ぐ力があるかをみたいときに利用されます。
営業外収益・営業外費用
経常的に行われる活動から生じる収益・費用のうち,営業損益計算に含まれないものを営業外収益・営業外費用といいます。営業外収益・営業外費用は,利息的性格をもつもの(受取利息・有価証券利息・支払利息・仕入割引・売上割引・手形売却損など)が中心となりますが,その他にも受取配当金などの資金運用の成果や,棚卸減耗費(売上原価に算入しなかったもの)なども含まれます。
経常損益の計算
経常損益は,営業損益に営業外収益を加え,ここから営業外費用を差し引くことで計算されます。営業外収益と営業外費用だけで計算するのではなく,営業損益計算の結果(営業損益)から出発して計算が行われることに注意が必要です。
純損益計算
純損益計算では,会計期間中に生じたすべての活動から生じる損益が計算されます。経常的に行われる活動から生じる損益(経常損益)に,臨時的・偶発的に生じた損益を加減し,そこから利益に対して課される税金を差し引くことで,企業が会計期間中にどれだけの財産を増やすことができたか(財産を減らしてしまったか)が表示されます。
利害関係者は,その企業についての将来の予測を行うために財務諸表を利用しますが,純損益計算は,このような将来予測のための利用には向きません。純損益には,災害による損失や,固定資産の処分によって生じた利益・損失のように,将来,必ずしも同じように起こるとはかぎらない(起こる可能性のほうが低い)ものが含まれているからです。
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