この記事では、2016年に公布された「医療法人会計基準」(平成28年厚生労働省令第95号)のうち、貸借対照表の純資産の部に記載されるものについて規定されている第13条から第16条までについて逐条解説を行っていきます。純資産の部の規定については、出資者の持分を認めているか、基金制度を採用しているかといった医療法人の定款または寄附行為の定めに応じて適用される条文が変わりますので注意が必要です。
- 省令「医療法人会計基準」逐条解説①(総則・第1条~第6条)
- 省令「医療法人会計基準」逐条解説②(貸借対照表・第7条~第12条)
- 省令「医療法人会計基準」逐条解説③(貸借対照表・第13条~第16条) この記事
- 省令「医療法人会計基準」逐条解説④(損益計算書・第17条~第21条、注記・第22条)
第13条(出資金)
出資金には、持分の定めのある医療法人に社員その他法人の出資者が出資した金額を計上するものとする。
第13条は、純資産の部に記載される第1の項目である出資金について定めています。
出資金を計上できるのは、持分の定めのある医療法人(経過措置型医療法人)に限ります。2007年3月31日以前に設立された社団医療法人については、定款上、医療法人に対して出資を行った者に対して、医療法人の財産に対する出資者としての持分を認める定めを設けることが認められていました。これらの医療法人についても持分の定めのない医療法人に転換することが求められていますが、現在も経過措置型医療法人の多くの医療法人が、その定款に持分の定めを残しているという現状があります(2019年3月31日現在、社団医療法人54,416法人のうち39,263法人が持分の定めのある社団医療法人となっています)。
このような経過措置型医療法人では、出資者から受け入れた金額を明らかにするため、その金額を出資金として計上しなければならないこととされています。なお、出資者に対して払い戻しをした場合は、その払い戻した金額を出資金の額から取り除かなければなりません(四病院団体協議会会計基準策定小委員会「医療法人会計基準に関する検討報告書」2、(3)、注5)。このため、出資金として計上されている金額は、もともと出資を受けた金額のうち、まだ払い戻しが行われていない部分の金額を意味することになります。
第14条(基金)
基金には、医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第30条の37の規定に基づく基金(同令第30条の38の規定に基づき返還された金額を除く。)の金額を計上するものとする。
第14条は、純資産の部に記載される第2の項目である基金について定めています。
基金は、出資者に対して一定の条件のもとで返還することが認められる金額のことをいいます。定款に持分の定めを設けることが認められなくなった2007年4月1日以降に新たに設立された医療法人、および、経過措置型医療法人が持分の定めのない法人に転換した医療法人においては、定款に基金についての定めを設けることが認められています。このような基金についての定めのある医療法人を基金拠出型医療法人といいます(「医療法」平成18年6月21日改正附則第10条の3)。
経過措置型医療法人の出資者が出資割合等に応じて医療法人の財産を受け取る権利を有しているのに対して、基金の拠出者に対しては、原則として基金として拠出した金額のみが返還されます。たとえば、5人で500万円ずつを出資して医療法人を設立したとしましょう。その医療法人の財産は2500万円(500万円×5人)からのスタートとなりますが、10年経って、医療法人の財産が1億円になっていたとします。ある出資者が医療法人から離れることになった場合、その出資者が受け取ることのできる金額は、経過措置型医療法人のケースでは2000万円(1億円÷5人)となりますが、基金拠出型医療法人の場合は元々の拠出額である500万円のみとなります。
基金拠出型医療法人では、資金の拠出者から受け入れた金額を明らかにするため、その金額を基金として計上しなければならないこととされています。なお、資金拠出者に対して払い戻しをした場合は、その払い戻した金額を基金の額から取り除かなければなりません。
第15条(積立金)
積立金には、当該会計年度以前の損益を積み立てた純資産の額を計上するものとする。
2 積立金は、設立等積立金、代替基金及び繰越利益積立金その他積立金の性質を示す適当な名称を付した科目をもって計上しなければならない。
第15条は、純資産の部に記載される第3の項目である積立金について定めています。第2項にあるように、医療法人の積立金には、設立等積立金、代替基金、繰越利益積立金などがあり、それぞれを分けて記載しなければなりません。
設立等積立金とは、設立にあたって寄贈を受けたとされる金額(経過措置型医療法人が持分のない医療法人に移行した場合の移行時の純資産の額、出資者持分のない社団医療法人において返済義務を負う基金以外の金額、財団医療法人における設立時の財産の額)のことをいいます。設立時または組織改編時の純資産のうち出資金または基金以外の金額が、設立等積立金として計上されます。
代替基金とは、基金拠出型医療法人が、資金拠出者に対して基金の返還を行った際に、その基金の額に代替する金額として計上される金額のことをいいます(「医療法施行規則」第30条の38第3項)。繰越利益積立金から振り替えた金額のことをいいます。繰越利益積立金とは違い、代替基金として計上した金額は取り崩すことはできません(「医療法施行規則」第30条の38第4項)。
繰越利益積立金とは、医療法人の活動を通じて生み出された利益の額のことをいいます。利益(黒字)が出たときは金額が増え、損失(赤字)が出たときは金額が減ります。損失が続いているような場合は、繰越利益積立金の額がマイナスになることもあります。
その他、病棟の新設に向けた新築積立金など、特定の目的のために積立金を積んでおくことも可能です。
第16条(評価・換算差額等)
評価・換算差額等は、次に掲げる項目の区分に従い、当該項目を示す名称を付した科目をもって掲記しなければならない。
一 その他有価証券評価差額金(純資産の部に計上されるその他有価証券の評価差額をいう。)
二 繰延ヘッジ損益(ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べられるヘッジ手段に係る損益又は時価差額をいう。)
第16条は、純資産の部に記載されるその他の項目である評価・換算差額等について定めています。
市場価格のある有価証券については、その時価をもって貸借対照表価額としなければなりません(「医療法人会計基準」第11条)。この場合の帳簿価額と時価との差額について、通常はその会計年度の損益として損益計算書に計上されることになるのですが、有価証券が「その他有価証券」に該当する場合は、損益計算書ではなく、この評価・換算差額のところに計上しなければならないこととされています。「その他有価証券」とは、売買目的有価証券、満期保有目的債券、子会社株式・関連会社株式以外の有価証券(株式・債券)のことをいいます。
繰延ヘッジ損益とは、外国から備品や機材を輸入する場合に、契約日から決済日までの為替変動による損失(ヘッジ対象)をカバーするために為替予約など(ヘッジ手段)をしているケースにおいて、そのヘッジ手段たる為替予約について決算時に生じている損益のことをいいます。ヘッジ手段について生じている損益については、将来にヘッジ対象から生じる損失の穴埋めとして使えるように、陶器の損益計算書ではなく、貸借対照表上においておくこととされています。
もちろんその他有価証券を保有していなかったり、為替ヘッジをしていなかったりした場合は、その他有価証券評価差額金も繰延ヘッジ損益も生じませんから純資産の部への記載は必要ありません。
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