商品の売上に係る仕訳(返品が認められている場合)

簿記商品売買
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企業は,商品を販売するにあたって,顧客に対して一定の条件のもとで,販売した商品の返品を認めることがあります(返品権つきの販売)。従来の会計基準では,商品の販売時にその全額を収益(売上)として認識したうえで,もし返品があったら,そのつど収益の認識を取り消していくという会計処理が行われていました。

しかし,2021年4月1日以後開始される会計期間より全面施行される「収益認識に関する会計基準」では,このようにあとから収益の額を取り消すのではなく,返品によるリスクを販売時から評価しておき,前倒しで情報開示を行っていこうとする考え方が採用されています。この記事では,この「収益認識に関する会計基準」のもとで行われる返品権つきの販売の処理について見ていきます。

返品権つきの販売において収益とされる金額

変動対価とは

変動対価とは,企業が顧客から受け取る対価の金額のうち,将来,一定の条件が発動することによって,実際に受け取ることのできる金額が変化する部分のことをいいます。返品権つきの販売では,返品がなければ顧客から受け取る金額をそのまま企業のものにすることができますが,返品があった場合はその金額を返さなければなりません(1円も受け取ることができません)。返金があるかどうかによって企業が受け取る金額が変わるので,返品権つきの販売における対価は変動対価ということになります。

「企業が権利を得ることとなる対価の額」と返金負債

「収益認識に関する会計基準」では,このような変動対価の処理方法について,次のように定めています。

51. 変動対価の額の見積もりにあたっては,発生し得ると考えられる対価の額における最も可能性の高い単一の金額(最頻値)による方法又は発生し得ると考えられる対価の額を確率で加重平均した金額(期待値)による方法のいずれかのうち,企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法を用いる。(以下略)

53. 顧客から受け取った又は受け取る対価の一部あるいは全部を顧客に返金すると見込む場合,受け取った又は受け取る対価の額のうち,企業が権利を得ると見込まない額について,返金負債を認識する。(以下略)

企業会計審議会「収益認識に関する会計基準」抜粋

すなわち,さきに「企業が権利を得ることとなる金額」を予測したうえで(第51項),それ以外の金額を(収益(売上)ではなく)返金負債とするということである。

以下,次の取引を例に返品権つきの販売の仕訳を考えていこう。

商品10,000円を売り上げ,代金は現金で受け取った。なお,この商品については,販売後1週間を条件として返品することが認められている(その他の事情について考慮する必要はない)。

「企業が権利を得ることとなる対価の額」の見積もり

「企業が権利を得ることとなる対価の額」は,最頻値(さいひんち)または期待値を使って算定されます。たとえば,過去の経験から商品が返品される割合が1%と見込まれていたとしましょう。この場合,最頻値または期待値による「企業が権利を得ることとなる対価の額」は,次のようになります。

最頻値による場合

最頻値とは,最も発生する可能性が高い金額のことをいいます。今回の取引では,

  • 返品されない可能性 99%(=100%−1%)
  • 返品される可能性 1%

ですから,最頻値は商品が返品されなかった場合に企業が受け取ることのできる金額10,000円ということになります。この場合,企業が権利を得ると見込まない金額はゼロ(=10,000円−10,000円)になるので,返金負債を計上する必要はありません。

期待値による場合

期待値とは,それぞれの場合において企業が受け取る金額にその発生割合を掛けた金額を合計したものをいいます。今回の取引における期待値を計算すると,次のようになります。

  • 返品されない場合  受領額10,000円×99%=9,900円……①
  • 返品される場合   受領額0円×1%=0円……②
  • 合計(①+②)   9,900円+0円=9,900円

したがって,期待値は9,900円ということになります。この場合,企業が権利を得ると見込まない金額は100円(=10,000円−9,900円)となるので,この金額が返金負債の金額になります。

返品権つきの販売の仕訳

「企業が権利を得ることになる対価の額」を最頻値で算定した場合

企業が権利を得ることになる対価の額は10,000円ですから,「商品を引き渡す」という履行義務が充足されたタイミングでこの10,000円を収益(売上)として認識することになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金10,000売上10,000

「企業が権利を得ることになる対価の額」を期待値で算定した場合

企業が権利を得ることになる対価の額は9,900円ですから,「商品を引き渡す」という履行義務が充足されたタイミングでこの9,900円を収益(売上)として認識することになります。残りの100円については返金負債勘定に計上します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
現金10,000売上9,900
  返金負債100

なお,返金負債勘定は,借入金勘定のように,将来支払わなければならない金額(債権額)を表すものではないことに注意してください。実際に返品があったときは,当然,受け取った10,000円すべてを返金しなければなりません。返金負債勘定に計上される金額は,あくまでも計算上の金額(期待値計算の結果)でしかありません。

販売後の仕訳

商品を引き渡した後の仕訳は,「企業が権利を得ることになる対価の額」の算定方法によって変わります。

返品されたケース

「企業が権利を得ることになる対価の額」を最頻値で算定していた場合

「企業が権利を得ることになる対価の額」を最頻値で算定していた場合は,商品の販売にあたって認識した収益の額を全額取り崩します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
売上10,000現金10,000

「企業が権利を得ることになる対価の額」を期待値で算定していた場合

「企業が権利を得ることになる対価の額」を期待値で算定していた場合は,さきに返金負債として計上されていた金額を減らします。返金負債として計上されていた金額よりも返金額の方が多い(返金負債が足りなかったとき)は,その差額に相当する金額だけ,収益の額を減らします。

さきほどの販売時の仕訳では返金負債100円を計上しましたが,返金負債勘定の残高がこの100円しかなかったとすれば,返品時の仕訳は次のようになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
返金負債100現金10,000
売上9,900  

しかし,企業が行う販売取引が1個だけといったことは通常ありません。また,もし,他の取引も含めて,返金負債勘定の残高が7,000円になっていたとしたら,この金額を全額取り崩すとともに,不足する3,000円ぶんだけ収益の金額を減らします。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
返金負債7,000現金10,000
売上3,000  

また,他の取引も含めて,返金負債勘定の残高が50,000円になっていたとしましょう。この場合,返金負債の額の方が返金額よりも多くなっていますから,次のように,収益の額を減らさずに返金の処理を行うことができます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
返金負債10,000現金10,000

返品されなかったケース

返品がなかった場合は,特に処理を行う必要はありません。はじめに商品を販売したときに計上した収益(売上)の額10,000円が,そのままこの取引による企業の収益の額となります。

これは,販売時に返金負債を計上しているときも同様です(他の商品の返品のときに使われるかもしれないので,そのままにしておきます)。なお,返金負債勘定に計上した金額は,決算のたびに,その見直しを行う必要があり(「収益認識に関する会計基準」第53項),その金額が過大(予想よりも返品が少なかった場合)または過小(予想よりも返品が多かった場合)であれば,適宜,その金額を見直さなければなりません。

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