期間損益計算の意義とその特徴

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今日の簿記では、企業の活動期間を一定期間ごとに区切って、その区切られたひとつひとつの期間ごとに会計帳簿上の記録をとりまとめ、財務諸表とよばれる報告書を作成することが原則とされています。この人為的に区切られたひとつひとつの期間のことをそれぞれ会計期間といいます。

企業活動の成果を表す代表的な金額のひとつに「利益」とよばれるものがあります。みなさんも一度は聞いたことがある言葉でしょう。この利益の額も、会計期間ごとに計算されます。期間損益計算とは、この会計期間ごとに行われる利益の計算のことをいいます(マイナスの利益を損失といい、期間損益計算の「損益」とはこの損失という言葉と利益という言葉をひとつにまとめたものです)。

この記事では、期間損益計算について、それがなぜ必要なのか、そして、期間損益計算を通じて算定される利益の額にどのような特徴があるのかについて見ていきます。

期間損益計算の意義

そもそも企業はなぜビジネスを行うのでしょうか。それはお金を稼ぐためです。私達が生きていくためにはお金が必要であり、そのお金を稼ぐためにビジネスは行われます。自分で事業を興すのではなく、就職して、その就職先から給料をもらうというのも、自分の時間とスキルを提供する対価としてお金をもらっているという点に着目すれば、これもビジネスのひとつの形態と考えてしまってよいでしょう(ビジネスに伴う責任の一端を就職先に委ねているだけで、やっていること(働くこと)自体は個人事業主と変わりませんので)。

お金は、企業が他の人々や組織と取引をするにあたって必ず必要になるものです。このため、お金は、企業のいたるところで活発にやりとりされています。企業がどれだけのお金を稼げたかは、本来であれば、実際に手持ちのお金を数えて、そのお金がはじめの状態からどれだけ増えたかを計算することによって求められますが、これは現実的に不可能です。企業が活動を止めない限り、お金は常に出入りしているため、「手持ちの金額を数える」という作業ができないからです。

しかし、これであきらめてしまっては、企業が経営活動を行っている最中に、その企業の経営がうまくいっているかどうかを判断できるような情報を得ることができなくなってしまいます。経営者は自らの率いる企業がうまくいっているかどうかを判断するため、金融機関は融資先の企業が返済前に倒産してしまうことがないかを判断するため、投資家はその企業が投資を行うに足る営業成果を上げているかを確認するため、従業員はその企業に自分の身を預けてしまって問題ないかを判断するため、現在、活動中の企業の経営状況をタイムリーに把握したいと考えています。多くの人々にとっては、すでに廃業し、活動を停止してしまった企業の情報などどうでもいいからです。

これが今日の簿記において期間損益計算が採用されている理由です。ただ、企業の活動が続いているなかで、お金の量を数えることはできません。そこで、期間損益計算では、お金ではなく、利益という概念を用いることで、その企業がどれだけ儲けているか、稼げているかを計算することにしています。実際にお金の額を数えているわけではないので、利益として計算された金額がお金の増加額を表しているわけではありません。しかし、企業の状況についてまったく情報を得られないよりは圧倒的にマシなので、期間損益計算によって企業の稼ぎを明らかにするという方法が広く採用されています。

発生主義による収益・費用の認識

発生主義とは何か

会計期間ごとの利益(期間損益)は、その会計期間の収益の額から、その会計期間の費用の額を差し引くことによって計算されます(これを損益法による利益計算といいます)。

会計期間ごとの収益、費用の額は、発生主義という考え方に基づいて決定されます。発生主義とは、企業の純資産(≒将来的に第三者に弁済する必要がない金額)を増加または減少させる原因となる出来事が発生したときに、その金額を収益、費用として認識(計上)しようとする考え方です。ここで重要なポイントは、「原因となる出来事が発生」という部分です。実際にお金を受け取ったり、お金を支払ったりしていなくても、企業の純資産を増加または減少させる原因が発生すれば、それだけで期間損益計算のもととなる収益、費用とされるのです。

発生主義が採用されている理由

現在では、商品等の売買にあたって、その場で対価をやりとりする代わりに、さまざまな形で前払いしたり、後払いしたりといったことが行われています。このような前払いや後払いは、相手のことを信用していなければ行うことができません。信用していない相手に前払いするのは、「お金を持ち逃げされてしまうのではないか」という不安を感じることでしょう。逆に、信用していない相手に後払いを認めるのは、「このままお金を支払わないで逃げてしまうのではないか」と感じるのではないでしょうか。

今日では、このような不当な行為に対して罰が与えられるようになっていますし、信販会社や保証機関のように「逃げられる」リスクを負担してくれる業者もいます。このような社会的、組織的仕組みを利用しながら、安心して貸し借りのある取引ができる状況、これを信用経済といいます。信用経済のもとでは、商品等のモノやサービスのやりとりが行われるタイミングと、対価のやりとり(現金収支)が行われるタイミングにずれが生じます。

期間損益計算では、企業の活動期間を強制的に区切って、会計期間ごとに損益計算を行いますから、モノやサービスのやりとりが行われるタイミングと、対価のやりとりが行われるタイミングが、別々の会計期間に割り当てられてしまう可能性があります。それでは、このどちらを収益・費用を認識するタイミングとすればよいのでしょうか。

発生主義では、モノやサービスのやりとりが行われるタイミングを、収益・費用を認識するタイミングとすることにしています。それは、このタイミングの方が、企業活動の成果がより期間損益に反映されると考えられるからです。企業の経営状況に関心を持っている人達は、その企業がどれだけ稼げているか、その経営がどれだけうまくいっているかを知りたいと思っています。知りたいのは、その企業の力です。対価がやりとりされるタイミングは、相手の都合によっても左右されます。お金がある企業は対価をすぐにでもまとめて支払ってくれると思いますが、そうでない企業は分割払いにして支払いのタイミングを先に延ばしてもらおうとするでしょう。このような取引相手の都合は、企業の業績を測るのに直接関係するものではありません。このため、今日の簿記では、モノやサービスがやりとりされるタイミングの方が採用されているわけです。

発生主義に基づく期間損益の特徴

このように、発生主義によって計算された収益、費用の額をもとに計算される期間損益計算では、利益の額が実際のお金の動きと連動しているわけではありません。したがって、「当期の利益が100万円だった=当期中に現金が100万円増えた」といった関係性は成り立ちません。

また、販売した商品が返品されたり、後払いの約束を無視して相手が逃げてしまったりといったこともあります。発生主義のもとでは、どちらのケースでも商品を引き渡したときに収益が認識されますが、返品の場合は取引自体がなくなってしまいますし、相手が逃げてしまった場合は対価をもらえないだけでなく、販売時に引き渡した商品まであきらめなければなりません。このように収益として認識されている金額のなかには、後の会計期間の出来事によって取り消されてしまうものもでてきます(これは収益だけでなく、費用の場合も同じです)

2021年4月から全面的に適用されることになった「収益認識に関する会計基準」では、あらかじめこのようなリスクを割り引いたうえで収益の額を認識しなければならないこととされていますが、「期間損益計算の考え方を理解する」というこの記事の目的からすると少し細かな話になりますので、ここでは無視してしまって構いません。

繰り返しになりますが、これは期間損益計算を行ううえでは避けられないことです。現在、活動している企業の経営状況についてまったく情報を得られないよりは圧倒的にマシなので、期間損益計算自体を否定する人はほとんどいません。これらは、期間損益計算の弱点ではなく、期間損益計算の特徴です。「そのようなもの」として受け入れて会計情報を利用するようにしましょう。

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