有形固定資産を売却したときの処理

事業用資産
《広告》

有形固定資産を売却したときは、有形固定資産を手放すことになるので、会計帳簿上も、その有形固定資産について行われてきた記録を抹消しなければなりません。具体的には、備品勘定、車両運搬具勘定をはじめとする資産の勘定に計上されている金額と、減価償却累計額勘定に計上されている金額(後者は、減価償却の仕訳を間接法で行っている場合のみ)が、売却時に記録を抹消する対象となります。

なお、売却したときは、有形固定資産を手放すことによる純資産の減少額と、売却先から受け取る対価の額のどちらが大きいかによって、損失(純資産の純減額)が出るか利益(純資産の純増額)が出るかが変わります。

売却時の仕訳のプロセス

有形固定資産を売却したときは、次のプロセスによってその仕訳を行います。

  1. 売却した有形固定資産について、取得時から前期末までに行われていた記録(資産の勘定、減価償却累計額)を抹消するための処理を行う
  2. 当期首から売却時までの使用期間に相当する減価償却費を計上する
  3. 売却にあたって受け取る現金等の額を記録する
  4. 借方・貸方の差額を固定資産売却損または固定資産売却益とする

簿記の教材などでは、説明の都合上、当期分の減価償却費の計上が省略されることも多いですが、当期分の減価償却費の計上が行われないことは基本的にありません。月割計算では、1月未満の端数が、たとえ1日であったとしても、1月に切り上げられてしまうからです。

なお、減価償却を行わない土地については、1.および2.にあたっても減価償却に関する処理を行う必要はありませんが、それ以外の部分については、土地以外の有形固定資産と同じプロセスで仕訳を行うことができます。

設例

20X5年7月31日、当社が保有する次の備品を150,000円で売却し、売却代金は後日受け取ることにした。この取引を仕訳しなさい。なお、仕訳にあたって必要となる備品に関する情報は次のとおりである。また、当社の会計期間は毎年4月1日から翌3月31日であり、1年未満の期間に対応する減価償却費は月割計算によって求める。

  • 取得日:20X1年4月1日
  • 減価償却費の計算方法:定額法
  • 取得原価:1,800,000円
  • 耐用年数:6年
  • 残存価額:0円
  • 減価償却の仕訳の方法:間接法

前期末までに行われていた記録の抹消

まず、減価償却の仕訳の方法を確認します。直接法と間接法のどちらで仕訳が行われているかによって記録を抹消すべき勘定や金額が変わるからです。

  1. 直接法で仕訳している場合
    • 資産の勘定:取得原価相当額から前期末までに計上された減価償却費の額の合計額を控除した残額
  2. 間接法で仕訳している場合
    • 資産の勘定:取得原価相当額
    • 減価償却累計額勘定:前期末までに計上された減価償却費の額の合計額

この設例では、減価償却の仕訳が間接法で行われていますから、資産の勘定と減価償却累計額勘定の2つの金額を求めます。

資産の勘定である備品勘定に計上されている金額は、取得原価の1,800,000円となります。

減価償却累計額勘定(備品減価償却累計額勘定)に計上されている金額は、問題文に与えられている条件から次のように計算されます。

  1. 1年分の減価償却費の額:(1,800,000円-0円)÷6年=300,000円
  2. 前期末までの使用期間:20X1年4月1日~20X5年3月31日(4年間)
  3. 前期末までに計上された減価償却費の額の合計額」300,000円×4年=1,200,000円

これらの金額を各勘定から取り除くのですから、その仕訳は次のようになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
減価償却累計額1,200,000備品1,800,000

減価償却の仕訳を直接法で行っていた場合、備品勘定から抹消される金額は、取得原価1,800,000円から前期末までに計上した減価償却費の額の合計額1,200,000円を控除した600,000円となります。また、直接法では、減価償却累計額勘定への記録は行われませんから、備品勘定の貸方に600,000円を記録してこのステップは終わりとなります。

当期分の減価償却費の計上

備品を売却した会計期間は20X5年4月1日から始まっていますが、売却をしたのは7月31日ですので、当期中に使用した4か月分(4月分~7月分)の減価償却費については、これまでと同様に計上する必要があります。

ただし、決算にあたって行われる仕訳とは違い、貸方を減価償却累計額とする必要はありません。さきほど減価償却累計額勘定に記録されていた金額を抹消したばかりなのに、またここで記録を追加してしまっては、抹消した意味がなくなってしまいます。

したがって、ここでは、借方に4か月分の減価償却費を計上して終わりとなります。この4か月分の減価償却費は、次のように求められます。

  • 4か月分の減価償却費:300,000円÷12か月×4か月:100,000円

この金額をさきほどの仕訳に追加すると、次のようになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
減価償却累計額1,200,000備品1,800,000
減価償却費100,000  

売却代金の計上

次に、売却にあたって売却先から受け取る金額を計上します。有形固定資産を手放したことにより、企業の純資産は減少しますが、ここで受け取る金額だけ、この純資産の減少額が少なくなります。

この設例では、売却代金として150,000円を受け取ることとされていますから、これをさきほどの仕訳に追加すると次のようになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
減価償却累計額1,200,000備品1,800,000
減価償却費100,000  
未収入金150,000  

固定資産売却損益の計算

借方と貸方の差額は、有形固定資産の売却にともなう損失または利益の額(固定資産売却損または売却益)となります。なぜ借方と貸方の差額が損失または利益の額となるかについては、これまでの処理を1つ1つ分けて考えるとイメージしやすいでしょう。

  1. 前期末までの記録の抹消……抹消した分だけ純資産が減少する
  2. 当期分の減価償却費の計上……売却前に使用していた期間に対応するものなので、売却損からは除外される
  3. 売却費用の計上……受け取った金額だけ売却による損失は減少する

借方と貸方の差額は、1.で認識した純資産の減少額を2.と3.で調整(加減)した結果となります。直前の仕訳では、借方の合計額が1,450,000円、貸方の合計額が1,800,000円となっていますから、合計額が小さい借方にその差額350,000円を追加して売却の仕訳は完成です。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
減価償却累計額1,200,000備品1,800,000
減価償却費100,000  
未収入金150,000  
固定資産売却損350,000  

売却益となる場合

なお、受け取った金額が、抹消した金額から当期の減価償却費の額を差し引いた金額(当期減価償却費控除後の純損失の純減額)よりも大きい場合、借方と貸方の差額は、有形固定資産の売却によって得られた利益の額を表すことになります。損失を打ち消せるだけの代金を受け取ることができたからです。

さきほどの設例において、有形固定資産の売却代金が700,000円であったとしましょう。その場合、仕訳は次のようになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
減価償却累計額1,200,000備品1,800,000
減価償却費100,000固定資産売却益200,000
未収入金700,000  

コメント

タイトルとURLをコピーしました