この記事では、決算において行われる手続のひとつである棚卸減耗損の処理について見ていきます。
棚卸減耗損とは、商品をはじめとする棚卸資産の実地棚卸数量が帳簿棚卸数量よりも少ない場合に、その減少分に相当する金額を当期の損失として認識したものをいいます。なお、棚卸減耗損の処理を行うにあたっては、会計帳簿上の記録が存在することが前提となりますから、会計期間中の棚卸資産の動きについて記録を残していない場合は棚卸減耗損を認識することはできません。
棚卸減耗損とは
棚卸資産とは、期末に在庫の状況を確認し、その結果をもって、当期の費用とする金額と次期以降に繰り越す金額が確定される資産のことをいいます。
棚卸資産は、会計期間中に頻繁に増加(購入)、減少(使用、売却)する資産であるため、会計帳簿上に記録された数量(帳簿棚卸数量)が実際の数量(実地棚卸数量)とズレてしまうことが珍しくありません。ただし、会計帳簿への記録が正しく行われているかぎり、実地棚卸数量が帳簿棚卸数量よりも大きくなることはありません。棚卸資産は、盗難等により意図せず減少することはあっても、勝手に増えることはないからです。
棚卸減耗損とは、決算にあたって、この棚卸資産数量の意図せぬ減少分に相当する金額のことをいい、決算にあたっては、この金額を当期の費用(損失)として計上します。
棚卸減耗損を認識できるとき、できないとき
棚卸資産の動きが会計帳簿上に記録されていないとき
棚卸減耗損は、帳簿棚卸数量と帳簿棚卸数量のズレをもとに計算されるものなので、会計帳簿上で棚卸資産の数量の動きが記録されていない場合は、そもそも棚卸減耗損が生じているかどうかを確認することができないため、棚卸減耗損の額を個別に求めることはできません。
この場合は、本来、会計帳簿上に数量が記録されていれば認識されていたかもしれない棚卸減耗損の金額は、自動的に売上原価に含まれる形で当期の費用として処理されます。
棚卸資産の数量だけが会計帳簿上に記録されているとき
会計帳簿への記録は、数量ではなく、金額(貨幣額)によって行わなければなりません。会計帳簿への記録が棚卸資産の数量についてしか行われていない場合は、棚卸減耗損の額を計算するに先立って、これを金額に直す作業が必要となります。
期末棚卸高の計算は、帳簿棚卸数量に棚卸資産1単位あたりの価格(単価)を乗じることで求められますから、帳簿棚卸数量の記録が行われているのであれば、後は単価を決めるだけです。この単価の決め方としては、総平均法、最終仕入原価法などの方法があります。
棚卸資産の数量、金額の動きを常に把握しているとき
個別法、先入先出法、移動平均法のように、棚卸資産を購入、消費・売却するごとに、金額ベースで会計帳簿への記録を行っている場合は、期末の帳簿棚卸高(記録の誤り等を修正した後の最終残高)を使うことで、棚卸減耗損の額を直接求めることができます。
棚卸減耗損の処理
棚卸減耗損の処理を行うタイミング
商品売買取引の仕訳を売上原価対立法で行っている場合
売上原価対立法では、商品を仕入れたときも、売り上げたときも、商品の取得原価ベースで商品勘定に記録が行われます。このため、商品勘定の残高は、常にその時点で保有している商品の取得原価(帳簿棚卸高)を表しています。
このような場合は、決算にあたって、この商品勘定に計上されている金額から、直接、棚卸減耗損の額を控除します。なお、商品評価損がある場合は、棚卸減耗損を計上した後に商品評価損の処理を行います。
商品売買取引の仕訳を三分法、総記法などで行っている場合
商品売買取引の仕訳を三分法や総記法で行っている場合は、繰越商品勘定または商品勘定の残高が、期末に保有している商品の取得原価を表していませんので、先に繰越商品勘定や商品勘定の残高が期末に保有する商品の取得原価(帳簿棚卸高)となるように必要な調整を行います。三分法の場合は、売上原価の計算(帳簿棚卸高で行う)、総記法の場合は、商品売買益の振替えです。
その後は、売上原価対立法の場合と同じで、棚卸減耗損の処理、商品評価損の処理の順に処理を行っていきます。
参考 商品評価損の処理
棚卸減耗損の計上
【設例】決算にあたり、商品について棚卸減耗損を認識する。商品の帳簿棚卸数量は300個、実地棚卸数量は290個、商品1個あたりの金額(単価)は500円であった。なお、当社では、商品売買取引の仕訳を三分法で行っている。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
棚卸減耗損 | 5,000 | 繰越商品 | 5,000 |
※ 棚卸減耗損の額:(帳簿棚卸数量300個-実地棚卸数量290個)×500円=5,000円
なお、棚卸減耗損は、棚卸資産が失われたという現実を記録したものになりますから、商品評価損のように洗替法で翌期に損失額を棚卸減耗損を計上する前の状態に戻すといったことは行いません。
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