残存価額が変わると公式法による定率法償却率・未償却残高はどのように変わるのか

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有形固定資産の減価償却を定率法で行うにあたって,「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によらない場合は,まず,次の計算式によって定率法償却率を求める必要があります。

$$ 定率法償却率=1-\sqrt[耐用年数]{\frac{残存価額}{取得原価}} $$

しかし,残存価額がゼロである場合,または,ゼロではなくとも,その取得原価に比べてその金額が著しく小さい場合,この方法では適切な償却率を求めることができません。適切でない償却率で減価償却を行うことはできませんから,そのような場合は,そもそも定率法を使うこと自体が誤っていたということになります(このような場合は,定額法をはじめとする他の方法を定率法の代わりに選択します)。

なお,残存価額が取得価額と等しい(その有形固定資産について,使用に伴う価値の減少がまったくない)場合,その有形固定資産はそもそも減価償却の対象となりません。これにはたとえば骨董品や芸術品などがあります。これらもその時々の社会環境によって価値の変動はありますが,それは備品や車両のように「使用に伴う」価値の減少ではありません。

残存価額の違いによる定率法償却率の変化

定率法償却率に対しては,取得原価・耐用年数だけでなく,残存価額が大きな影響を与えます。具体的な数字を見たほうがイメージしやすいと思いますので,取得原価1,000,000円,耐用年数10年の有形固定資産について,次のようにさまざまに残存価額を変えて定率法償却率を求めてみましょう。

残存価額(円・取得原価に対する割合)公式法による定率法償却率
0円(0%)1.000*
100円(0.01%)0.602
500円(0.05%)0.532
1,000円(0.1%)0.499
5,000円(0.5%)0.411
10,000円(1%)0.369
50,000円(5%)0.259
100,000円(10%)0.206
500,000円(50%)0.067
1,000,000円(100%)0.000**
* 償却率1の場合,取得初年度に取得価額の全額が減価償却費として計上されてしまい,有形固定資産にかかる費用をその使用期間にわたって配分するという減価償却の趣旨を達成できません。
** 償却率0の場合,減価償却費として1円も計上することができないので,いつまで経っても減価償却を終えることができません。

このように,定率法償却率は,残存価額によって0から1までの値をとります。残存価額が0に近づくほど定率法償却率は1に近づき(各期の減価償却費の額が大きくなる),残存価額が取得価額に近づくほど定率法償却率は0に近づきます(各期の減価償却費の額が小さくなる)。

残存価額の違いによる未償却残高(帳簿価額)の変化

上で計算した定率法償却率を使って減価償却費の計算を行った場合,この1,000,000円で取得した有形固定資産の未償却残高(取得原価から減価償却の累計額を控除した金額。帳簿価額と同じ)はどのように推移していくのでしょうか。この残存価額ごとの帳簿価額の推移をまとめたものが下のグラフになります。

残存価額の違いによる未償却残高の変化

残存価額が小さくなればなるほど,有形固定資産の帳簿価額が急激に下がっている(初期に多額の減価償却費が計上されている)ことが見てとれるでしょう。たとえば,残存価額100円(取得原価の0.01%)のときは,取得初年度に602,000円(=1,000,000円×0.602)の減価償却費が計上され,その帳簿価額は398,000円と取得原価の半額以下となってしまいます。

極端な償却率はなぜ「適切でない」のか

減価償却は,有形固定資産の取得原価をそれが使用される会計期間にわたって配分していくための手続です。企業がその有形固定資産を使って活動している以上,その有形固定資産に係る費用は,その有形固定資産が使用されている間,何らかの形で計上されているべきという考え方がその背景にあります(発生主義)。

しかし,定率法償却率が極端な数値となってしまう場合,この取得原価をその使用期間にわたって配分するという減価償却本来の考え方にそぐわない結果が生み出されてしまいます。残存価額をゼロにしたときに定率法償却率が1.000になってしまうということが問題であることは,すでに償却率の表の注記(*)に示しましたが,そうでなくても,定率法償却率が大きすぎる場合はやはり問題です。

具体的に数字を使ってみていきましょう。たとえば,残存価額100円の場合の各期の減価償却費および帳簿価額は次のようになります。

 減価償却費帳簿価額
取得時 1,000,000
1年後602,000398,000
2年後239,596158,404
3年後95,35963,045
4年後37,95325,092
5年後15,1059,987
6年後6,0123,975
7年後2,3921,583
8年後952631
9年後379252
10年後152100

2年後には帳簿価額が取得原価の15.8%,3年後には6.3%と,そのほとんどが3年以内に償却されてしまっていることがわかります。そこから先は,取得原価1,000,000円の有形固定資産の減価償却費とは思えないほど,減価償却費の額が微々たるものになっています。

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