税法における定率法の考え方(償却率・保証率・改定償却率)

簿記の考え方簿記事業用資産
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減価償却費の計算は,本来,有形固定資産を使用して活動を行う企業自身が耐用年数,残存価額を見積もって行うことが原則となります。このため,企業がどのように耐用年数,残存価額を見積もったかによって,同じ資産であっても減価償却費として計上される金額は企業によって異なります。企業の業績は,企業がベストと考える前提条件をもとに測定されるということです。

しかし,このような企業の自由な意思が認められない場面もあります。そのひとつが税額が計算される場面です。税金は,すべての企業に対して公平に課されるものでなければなりません。同じ資産を使っているならば,どの企業も同じように税金を課すということが大前提となります。

このため,税法上は,このような企業の自由意思による減価償却は認めず,耐用年数も残存価額も決めてしまうこととされています。この耐用年数及び残存価額について決めているのが「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」です。この記事では,この省令のもとで行われる定率法の減価償却について,その基本的な考え方をみていきましょう。

「省令」に規定される定率法

耐用年数

通常,有形固定資産の耐用年数は,企業がその有形固定資産の性質や用途,稼働状況などを総合的に判断して決定されます。しかし,税法では,課税の公平性を期するため,このような企業独自の見積もりを認めていません。

税法では,有形固定資産の耐用年数について,「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第1〜別表第6に指定されているものを使用することが原則とされています。「省令」上の耐用年数については,有形固定資産の種類だけではなく,構造や用途,使用目的ごとに細かく決められていますので,有形固定資産を取得するたびにこれらの別表を確認して耐用年数を調べなければなりません。

残存価額

残存価額についても,企業が独自に見積もった金額を使用することは認められていません。税法では,平成19年(2007年)3月31日以前に取得した有形固定資産については取得価額の10%,平成19年(2007年)4月1日以後に取得した有形固定資産についてはゼロを残存価額とすることとされています。

ただし,定率法では,減価償却費の計算に直接残存価額が使用されることはありません。定率法では,原則として,残存価額が定率法償却率のなかに織り込まれてしまうからです。「省令」では,残存価額が織り込まれた(計算後の)定率法償却率が与えられていますので,企業がこれらの残存価額を考慮して定率法償却率を計算する必要はありません。

平成19年(2007年)4月1日以後に取得した有形固定資産については,残存価額をゼロとしていますので,公式法によって定率法償却率を求めることができません。このため,250%定率法,200%定率法として与えられている定率法償却率は,後述するように,理論的な意味での償却率とは別の方法で定められています。
  参考 残存価額が変わると公式法による定率法償却率・未償却残高はどのように変わるのか

3つの定率法

「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」では,旧定率法,250%定率法および200%定率法という3つの方法が規定されています。これらの方法のうち,どの方法によって減価償却を行うかは,有形固定資産を取得した日によって,次のように変わります。

  • 旧定率法……平成19年(2007年)3月31日以前に取得した有形固定資産
  • 250%定率法……平成19年(2007年)4月1日〜平成24年(2012年)3月31日に取得した有形固定資産
  • 200%定率法……平成24年(2012年)4月1日以後に取得した有形固定資産

旧定率法も250%定率法も古い規定だからといって失効しているわけではありません。それぞれに該当する期間中に取得したものを保有しているならば,現在でもこれらの方法にしたがって減価償却費の計算が行われることとなります。

定率法による減価償却の実践

平成19年3月31日以前に取得した有形固定資産の償却

平成19年3月31日以前に取得した有形固定資産については,旧定率法によって減価償却を行います。旧定率法では,残存価額を取得価額の10%として計算した定率法償却率が使用されます(小数点以下第3位未満四捨五入)。旧定率法による償却率は,次のようになります(別表第7では耐用年数2年から耐用年数100年までの償却率が並んでいますが,ここではその一部のみを抜粋します)。

耐用年数15年20年25年30年
定率法償却率(旧定率法)0.1420.1090.0880.074

公式によって計算された償却率を使用するので,耐用年数終了後の未償却残高は取得価額の10%(当初予定していた残存価額)に近い金額になりますが,定率法償却率を四捨五入で求めているため,最終年度については,端数の調整が必要になります(最終年度は,未償却残高が取得価額の10%になるように,未償却残高から取得価額の10%を差し引いて減価償却費を求めます)。

平成19年4月1日以後に取得した有形固定資産の償却

平成19年4月1日以後に取得した有形固定資産については,残存価額をゼロとして減価償却を行うことになりました。公式法によって定率法償却率を求める場合,残存価額がゼロだと償却率は1.000となってしまいます。しかし,これでは,取得価額をその耐用年数にわたって配分するという減価償却の本来の目的を果たすことができなくなってしまいます(初年度に全額が償却費とされてしまいます)。

そこで,平成19年4月1日以後に取得した有形固定資産については,「定率法」という名前こそついていますが,実際には,①定額法償却率をもとに計算された定率法償却率をもとに償却を行い,②未償却残高が一定の水準を下回ったタイミングで定額法に切り替えるという2つの方法をミックスした方法で減価償却を行うこととされています。

定額法償却率をもとに計算された定率法償却率

新しい定率法では,定額法償却率をもとに計算された定率法償却率を使って減価償却費の計算が行われます。250%定率法と200%定率法は,どちらも定額法に対する倍率を表したもので,250%定率法では定額法償却率の2.5倍(250%),200%定率法では定額法償却率の2倍(200%)が定率法償却率とされます。

耐用年数2年3年4年5年
定額法償却率0.5000.3340.2500.200
定率法償却率(250%定率法)1.0000.8330.6250.500
定率法償却率(200%定率法)1.0000.6670.5000.400

平成24年4月1日以後に取得した有形固定資産からは,定額法償却率の250%ではなく,定額法償却率の200%が定率法償却率として使われるようになりました。この年,法人税率の引き下げが行われており,このような償却率の変更には税収の落ち込みを緩和する目的があったと考えられます(償却率が小さくなれば,減価償却費とされる額が小さくなり,それだけ利益が大きくなります。税額は,基本的に利益に対して課せられますので,利益の額が増えれば,その税率の引き下げによる減収額と相殺することができます)。残存価額ゼロを前提とした場合の定率法償却率は,理論的に導き出されるものではないことから,このような「政策目的による調整」が今後も行われる可能性も十分に考えられます。

日商簿記検定では,自分で定率法償却率を計算させる問題が出題されることがあります。理論的な根拠があるわけでもなく,しかも「省令」に記載されている定率法償却率を受験者に自ら計算させる意味はまったくないと思うのですが。簿記検定の受験を考えている人は,一応,次の算式を覚えるようにしてください。なお,これまでの傾向上,端数処理の必要がないような問題になるはずですが(切り上げ・四捨五入等についても根拠があるわけではないので),万が一,端数処理が必要となる問題が出た場合はその方法が指示されるはずですから,必ずその指示に従うようにしてください。
  簿記検定用の定率法償却率=(1÷耐用年数)×250%or200%

定率法から定額法への切り替え

未償却残高をゼロとするためには,その直前の未償却残高の全額を減価償却費としなければなりません。そのためには,未償却残高にかけられる定率法償却率は1.000でなければなりません。平成19年4月1日以後に取得した有形固定資産については,償却率を1.000とすることを放棄して,定額法償却率をもとに定率法償却率を計算しているため,このままではいつまで経っても未償却残高をゼロにすることができません。

そこで,税法では,①未償却残高に定率法償却率をかけた金額(定率法によって計算された金額)と②未償却残高を残りの耐用年数で割った金額(定額法と同じ方法で計算された金額)を比較して,①が②よりも小さくなった会計期間から,定額法による償却に切り替えるという方法を採用しています。定率法は,定額法よりも早期に費用を計上してしまう方法ですから,定額法で求めた金額よりも定率法で求めた金額の方が小さくなったら,もはやその目的を達成できないと考えるのです。

  参考 定理法による減価償却費の計算①(原則的な方法)

たとえば,取得価額1,000,000円の有形固定資産について,耐用年数5年で減価償却を行うとしましょう(200%定率法による償却率は0.400)。その場合,①・②の金額は,それぞれ次のようになります。

 期首未償却残高①定率法償却率をかけた額②残りの耐用年数で割った額
1年目1,000,000400,000200,000
2年目600,000240,000150,000
3年目360,000144,000120,000
4年目216,00086,400108,000
5年目   

4年目に①の金額よりも②の金額の方が大きくなりました。定額法よりも定率法の方が償却額が小さくなってしまったので,これで定率法の役割が終わったと考えます。そこで,4年目以降については,定額法による償却に切り替えて,その時点の未償却残高216,000円を残り2年(4年目・5年目)で償却していきます(1年あたりの減価償却費=108,000円)。

 期首未償却残高①定率法償却率をかけた額②残りの耐用年数で割った額
1年目1,000,000400,000
2年目600,000240,000
3年目360,000144,000
4年目216,000108,000
5年目108,000108,000

結果,この有形固定資産についての各年の減価償却費の額は,上の表のようになります。

保証率

毎年,①未償却残高に定率法償却率を掛けた額と,②未償却残高を残りの耐用年数で割った額の2つの金額を求めることは面倒なので,「省令」では,①よりも②の方が大きくなる年における②の金額(これを償却保証額といいます)を計算する手段が与えられています。それが保証率です。

保証率とは,取得価額に対する償却保証額の割合のことをいい,上の例でいえば0.10800(=108,000円÷1,000,000円)となります。保証率という割合の形にしておくことで,次のように,取得価額がいくらであっても同じように償却保証額を求めることができます。

  • 取得価額が1,000,000円の場合:1,000,000円×0.10800=108,000円
  • 取得価額が2,000,000円の場合:2,000,000円×0.10800=216,000円
  • 取得価額が3,000,000円の場合:3,000,000円×0.10800=324,000円

企業は,有形固定資産を取得したときに,このような形で償却保証額を求めておき,どこかに記録しておきます。その後は,①未償却残高に定率法をかけた額を計算するたびに,はじめに求めた償却保証額と比べていきます(毎期,②の金額を計算する必要はありません)。

①の方が小さくなったら,その年からは定額法に切り替えて減価償却を行っていくことになります。

改定償却率

税法では,定額法の場合も,割り算ではなく,掛け算によって減価償却費の額を計算していきいます。

  参考  定額法による減価償却費の計算②(税法上の方法)

ただし,定率法から切り替えた後の定額法の場合は,取得原価ではなく,①の金額が償却保証額を下回った年の期首未償却残高に償却率をかけることになります。定額法の対象となるのは,それまでの定率法で償却されなかった部分(未償却残高)だけだからです。

定額法に切り替えられた年の期首未償却残高にかけられる償却率のことを改定償却率といいます。改定償却率は,残り年数を耐用年数とした場合の定額法償却率と同じ値になります。改定償却率についても,保証率と同じように「省令」に与えられていますので,企業自身で計算する必要はありません。

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