定率法による減価償却費の計算②(税法上の方法)

簿記事業用資産決算整理
《広告》

有形固定資産の減価償却を行うためには、取得したすべての減価償却資産について耐用年数と残存価額を見積もる必要があります。しかし、有形固定資産を何年間使用できるか(耐用年数)、使用後に中古品の売却等を通じてどれだけの金額を回収できるか(残存価額)を、企業が独自に見積もることは非常に大変です。

このため、企業のなかには、減価償却にあたって、税法上、各事業年度(会計期間)の損金の額に算入することが認められる上限額(償却限度額)を、そのまま会計上の減価償却費の額としてしまうところも少なくありません。税法では、どの企業にも公平に課税を行えるように、すべての資産について耐用年数と残存価額を決めてしまっています。したがって、税法上の定めを利用すれば、企業が独自に耐用年数や残存価額を見積もる必要がなくなるのです。

この記事では、税法上の償却限度額の計算方法のうち、定率法によるものを見ていくことにします。

この記事の内容を理解するために知っておいてほしいこと

原則的な方法と税法上の方法の違い

税法上の方法による減価償却費(税法上の償却限度額)の計算が、原則的な方法による減価償却費(会計上の減価償却費)の計算と異なる点は、次の2点です。

  1. 取得原価、残存価額および耐用年数から計算された理論的な償却率ではなく、(税法上の)定額法償却率を元に求めた償却率を使って償却限度額を計算する
  2. 未償却残高(取得原価から過去に計上した減価償却費の額の合計額を控除した金額)が一定金額を下回った会計期間から償却限度額の計算方法を切り替える(現行定率法のみ)

まず、定率法の償却率は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年大蔵省令第15号)に規定されている別表に、耐用年数ごとの償却率がまとめられていますので、それを使用することになります。この償却率は、定額法の償却率に一定割合を乗じることによって求められたものなので、理論的な償却率とはまったく異なるものになります。なお、定額法のときと同じように、有形固定資産の耐用年数も、この省令に定められていますので、企業自身で見積もる必要はありません。

次に、未償却残高が一定金額を下回った会計期間から償却限度額の計算方法を切り替えます。定率法は、未償却残高に一定割合を掛けた金額を当期の減価償却費の額とする方法ですが、掛け算で計算が行われるため、未償却残高をゼロにすることが永久にできません。そこで、ある段階から定額法に相当する方法に切り替えることで、残存価額がゼロの資産についても、未償却残高をゼロにできるようにしたのです。

なお、平成19年(2007年)3月31日以前に取得した有形固定資産については、残存価額を取得価額の10%とすることが原則となっており、理論的な償却率を使用することで問題なく償却限度額を求めることができるため、このような計算方法の切り替えを行う必要はありません。

200%定率法による償却限度額の計算(平成24年4月1日以後取得)

平成24年(2012年)4月1日以後に取得した有形固定資産については、200%定率法を使って償却限度額の計算を行います。200%定率法とは、定額法償却率の200%(2倍)を定率法償却率として利用することを意味します。なお、この償却率は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表第十に掲載されているため、企業自身で計算する必要はありません。

【設例1】当期首に取得した備品3,000,000円(耐用年数6年)について、定率法により減価償却を行う(当期の長さは12か月間である)。なお、当社では税法上の償却限度額を会計上の減価償却費の額としている。なお、耐用年数6年の資産に係る定率法償却率は0.333、保証率は0.09911、改定償却率は0.334である。仕訳は間接法で行うこと。

償却保証額の計算

定率法では、途中で償却限度額の計算方法を切り替えなければならないため、有形固定資産を取得したタイミングで、どのタイミングで計算方法を切り替えるかの判断基準となる金額を求めておく必要があります。この切り替えの判断基準となる金額を償却保証額といいます。償却保証額は、次の計算式によって求められます。なお、保証率も「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表第十に記載されているため、企業自身で計算する必要はありません。

\[{償却保証額}={取得価額}\times{保証率}\]

したがって、この設例で取得した備品3,000,000円(耐用年数6年)の償却保証額は、次のように計算できます。

\[{償却保証額}={取得価額3,000,000円}\times{0.09911}={297,330円}\]

当期の償却限度額の計算

各期の償却限度額は、次の計算式によって求められます。未償却残高に対して償却率を掛けていくことになるため、償却限度額は会計期間ごとに変化していきます

\[{償却限度額}={未償却残高}\times{定率法償却率}\]

\[{※ 未償却残高}={取得価額}-{それまでに計上された減価償却費の総額}\]

それでは、この備品について、各期の償却限度額を計算してみましょう。なお、円未満の端数が出たときは切り捨てます。

取得第1期末

\[{償却限度額}={取得価額3,000,000円}\times{0.333}={999,000円}\]

取得第2期末

\[{未償却残高}={取得価額3,000,000円}-{第1期償却額999,000円}={2,001,000円}\]

\[{償却限度額}={未償却残高2,001,000円}\times{0.333}={666,333円}\]

取得第3期末

\[{未償却残高}={第2期末未償却残高2,001,000円}-{第2期償却額666,333円}={1,334,667円}\]

\[{償却限度額}={未償却残高1,334,667円}\times{0.333}={444,444円}\]

取得第4期末

\[{未償却残高}={第3期末未償却残高1,334,667円}-{第3期償却額444,444円}={890,223円}\]

\[{償却限度額}={未償却残高890,223円}\times{0.333}={296,444円}\]

ここで償却限度額として求めた金額(296,444円)が償却保証額(297,330円)を下回ってしまいました。ここで計算した296,444円は却下されます

これ(取得第4期)以降は、次の計算式によって求めた金額が償却限度額となります。改定時未償却残高とは、定率法償却率を使って計算した償却限度額が償却保証額をはじめて下回った会計期間の未償却残高のことをいいます(この設例の場合は取得第4期の未償却残高890,223円)。

\[{償却限度額}={改定時未償却残高}\times{改定償却率}\]

以下、各期の償却限度額を計算しましょう。

取得第4期

\[{償却限度額}={改定時未償却残高890,223円}\times{改定償却率0.334}={297,334円}\]

取得第5期

\[{償却限度額}={改定時未償却残高890,223円}\times{改定償却率0.334}={297,334円}\]

計算方法を切り替えた後は、毎期、改定時未償却残高(取得第4期の未償却残高)を使って償却限度額の計算を行うため、各期の償却限度額は変わりません

取得第6期(最終年度)

\[{未償却残高}={改定時未償却残高890,223円}-{第4期・第5期償却額594,668円}={295,555円}\]

\[{償却限度額}={未償却残高295,555円}-{1円}={295,554円}\]

最終年度は、期首の未償却残高を1円を残して償却します。1円を残すのは、実際に企業のなかに有形固定資産があるのに、会計帳簿上の記録がなくなってしまうことを防ぐためです。なお、端数処理の関係で、最終年度の償却限度額は、その直前までの償却限度額とは異なります。

税法上の償却限度額を利用する方法を採用している企業では、以上のように求めた金額をそのまま各期の減価償却費として仕訳することになります。

250%定率法による償却限度額の計算(平成19年4月1日~平成24年3月31日取得)

平成19年(2007年)4月1日から平成24年(2012年)3月31日までに取得した有形固定資産については、250%定率法を使って償却限度額の計算を行います。

250%定率法とは、定額法償却率の250%(2.5倍)の割合を償却率として使用する方法のことをいいます。また、償却率が変わったことから、改定償却率、保証率もこれにあわせて変わります。なお、いずれの割合も「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第九に示されていますので、企業自身が計算する必要はありません。

なお、各期の償却限度額の計算方法は、200%定率法のときと同じですから、説明を省略します。

旧定率法による償却限度額の計算(平成19年3月31日以前取得)

平成19年(2007年)3月31日以前に取得した有形固定資産については、旧定率法によって償却限度額の計算を行います。旧定率法では、途中で償却限度額の計算方法が変わることはありません。その有形固定資産の耐用年数が経過するまで同じ方法で償却限度額の計算を行っていきます。

\[{償却限度額}={未償却残高}\times{定率法償却率}\]

\[{※ 未償却残高}={取得価額}-{それまでに計上された減価償却費の総額}\]

旧定率法の償却率は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表第七にまとめられていますから、企業自身で計算する必要はありません。

以下、さきほどの備品(取得価額3,000,000円、耐用年数6年)について旧定率法で償却限度額の計算を行ってみましょう。耐用年数6年の旧定率法による償却率は0.319です。

取得第1期末

\[{償却限度額}={取得価額3,000,000円}\times{0.319}={957,000円}\]

取得第2期末

\[{未償却残高}={取得価額3,000,000円}-{第1期償却額957,000円}={2,043,000円}\]

\[{償却限度額}={未償却残高2,043,000円}\times{0.319}={651,717円}\]

取得第3期末

\[{未償却残高}={第2期末未償却残高2,043,000円}-{第2期償却額651,717円}={1,391,283円}\]

\[{償却限度額}={未償却残高1,391,283円}\times{0.319}={443,819円}\]

取得第4期末

\[{未償却残高}={第3期末未償却残高1,391,283円}-{第3期償却額443,819円}={947,464円}\]

\[{償却限度額}={取得価額947,464円}\times{0.319}={302,241円}\]

取得第5期末

\[{未償却残高}={第4期末未償却残高947,464円}-{第4期償却額302,241円}={645,223円}\]

\[{償却限度額}={未償却残高645,223円}\times{0.319}={205,826円}\]

取得第6期末

\[{未償却残高}={第5期末未償却残高645,223円}-{第5期償却額205,826円}={439,397円}\]

\[{償却限度額}={未償却残高439,397円}\times{0.319}={140,167円}\]

耐用年数6年の備品について6年分の減価償却を行った結果、この備品の未償却残高は299,230円(=439,397円-140,167円)と、取得価額3,000,000円のほぼ10%になりました。旧定率法では、旧定額法と同じように、残存価額が取得価額の10%になるように償却率が設定されています。

会計期間の中途で取得または売却した場合

会計期間の中途で取得または売却した場合は、会計期間中に使用していた期間に対応する部分だけを当期の償却費として計上します。この場合、会計期間中に使用していた期間に対応する金額は、月割計算によって求めます。月割計算とは、その有形固定資産の使用月数に応じて、1年分の金額を按分する方法です。なお、月割計算では、1月未満の期間は、1か月としてカウントします。

たとえば、当期首から3か月を経過した日(4か月目の月初)に備品を取得し、この備品の1年分の所脚限度額が999,000円であったとすると、当期の償却限度額の額は次のように計算できます。

\[{償却限度額}={1年分の償却限度額999,000円}\times\frac{9か月}{12か月}={749,250円}\]

コメント

タイトルとURLをコピーしました