先入先出法による商品有高帳の記帳②（値引・割戻時の記録）

この記事では、先入先出法による商品有高帳の記録のうち、値引きや割戻しがあったときに行う記録について見ていきます。

値引きとは、いったん商品売買が行われた後、商品の汚損・破損といった問題などが生じた場合に、事後的にその商品の販売代金を減額することをいいます。バーゲンセールやタイムセールや事前交渉（値切りなど）によって、売買が成立する前に販売価格が切り下げられている場合は該当しません。また、割戻しとは、一定期間中に一定の数量または金額を購入した買手に対して、売手が販売奨励・買手との関係強化等のために、事後的に代金の支払いを免除したり、金銭等を交付したりすることをいいます。どちらも、事後的に販売代金が減額される点で共通しています。

値引きや割戻しがあった場合、買手は商品有高帳への記録を行うことが必要ですが、売手は商品有高帳への記録を行う必要がありません。立場によって記録を行うかどうかが変わる点に注意が必要です。

設例

問題

解答

売上値引・売上割戻を行ったときの記録

売手がいったん売り上げた商品について値引きを行ったり、割戻しを行ったりしたときは、商品有高帳への記録を行う必要はありません。商品有高帳は商品の取得原価の動きを記録していく会計帳簿なので、売上金額を減額する売上値引や売上割引は、そもそも記録の対象になりません。

仕入値引・仕入割戻を受けたときの記録

値引きも割戻しも、商品を仕入れた後、事後的に代金（買手にとっての取得原価）が減額される取引であることに変わりはありませんが、先入先出法では、商品をその受入れのタイミングごとに区別して記録するため、いつ仕入れた商品の取得原価を減額するかに違いが出てくることがあります。

仕入値引の場合

受入欄

買手が仕入れた商品について、値引きを受けたときは、商品有高帳の受入欄のうち金額欄に、値引きを受けた金額を記録します。

値引きは、商品を返品する取引ではありませんから、値引きを受けても、商品の数量に変化はありません。また、単価は、金額を数量で割って計算されますが、数量がゼロですから、単価の計算を行うことができません。したがって、数量欄、単価欄は空欄となります。

なお、値引きも割戻しも商品の取得原価を減少させる取引ですから、その金額はマイナスになります。そこで、マイナスの金額であることが分かるように、その記入を赤字で行ったり、金額の前にマイナスを意味する△をつけたりします。このとき、一般にマイナスを表すときに使われる「－」は使用しません。見間違えやコピー等で判別しにくくなってしまうことを避けるためです。

残高欄

残高欄には、次の3つのものを記録します。

1. 商品の数量（在庫数量）【直前の在庫数量と同じ】
2. 単位取得単価【最後に求める】
3. 値引後の残高金額

値引きがあったときも、商品を仕入れたときと同じように、単位取得原価を計算しなおすことが必要になります。これは、値引きによって、単位取得原価を計算するための1つの要素である残高金額が変化（減少）するからです。

下の例において、値引直前（10日）の残高欄には、単位取得原価500円の商品が10個、単位取得原価490円の商品が30個あります。今回、値引きを受けたのは、10日に仕入れた単位取得原価490円の商品ですから、値引額はこの単位取得原価490円の商品の残高金額から減らします。

• 単位取得原価490円の商品の残高金額：14,700円－値引額600円＝14,100円

次に、この残高金額を使って、単位取得原価490円の商品の単位取得原価を計算しなおします。なお、値引きの場合は商品の数量は変化しませんから、単位取得原価を計算するにあたって必要となる数量は、値引直前（10日）の残高欄の数量をそのまま使います。

• 単位取得原価：14,100円÷30個＝470円

なお、単位取得原価500円の商品については、値引きを受けていませんから、直前の残高欄に書かれていた内容をそのまま書き写すだけです。

仕入割戻の場合

受入欄

買手が仕入れた商品について、割戻しを受けたときは、商品有高帳の受入欄のうち金額欄に、値引き割戻しを受けた金額を記録します。

割戻しも、商品を返品する取引ではありませんから、割戻しを受けても、商品の数量に変化はありません。また、単価は、金額を数量で割って計算されますが、数量がゼロですから、単価の計算を行うことができません。したがって、数量欄、単価欄は空欄となります。

残高欄

残高欄には、次の3つのものを記録します。

1. 商品の数量（在庫数量）【直前の在庫数量と同じ】
2. 単位取得単価【最後に求める】
3. 割戻後の残高金額

割戻しがあったときも、商品を仕入れたときと同じように、単位取得原価を計算しなおすことが必要になります。これは、割戻しによって、単位取得原価を計算するための1つの要素である残高金額が変化（減少）するからです。

下の例において、割戻直前（25日）の残高欄には、単位取得原価470円の商品が15個、単位取得原価495円の商品が30個あります。割戻しを受けたときは、このうち最も早く受け入れた商品（今後、最も早く払い出される商品＝単位取得原価470円の商品）の残高金額から、その割戻額を減らします。割戻しは、当期中の仕入れに対して行われます。このため、当期中の費用（売上原価）のマイナスとして処理してしまうことが望ましいのです。

• 単位取得原価470円の商品の残高金額：7,050円－割戻額900円＝6,150円

次に、この残高金額を使って、単位取得原価470円の商品の単位取得原価を計算しなおします。なお、割戻しの場合は商品の数量は変化しませんから、単位取得原価を計算するにあたって必要となる数量は、割戻直前（25日）の残高欄の数量をそのまま使います。

• 単位取得原価：6,150円÷30個＝410円

なお、単位取得原価495円の商品については、割戻しに関係ありませんので、直前の残高欄に書かれていた内容をそのまま書き写すだけです。