この記事では、仮払金の処理について見ていきます。仮払金勘定は、現金や預金の支払いはあったもののそれが具体的に何に、いくら使われるかはまだ分からないといった状況で使用される勘定で、具体的には、交通系ICカードにチャージをしたとき、出張等に先立ってその概算額を前払いしたときなどに使用されます。
仮払金勘定の意義
現金・預金を支払ったときは、現金・預金の減少を会計帳簿に記録しなければなりません。その際、現金勘定や預金の勘定の相手勘定としては、現金・預金が減少した理由を書くのが普通です。
しかし、現金・預金を支払った時点では、それが具体的に何に、いくら使われるかが分からないケースがあります。
たとえば、交通系ICカードに現金5,000円をチャージしたとしましょう。そのチャージした金額は、電車代やバス代として使われることもあれば、売店や自動販売機で何かを購入することに使われることもあります。チャージ後、その金額が何に使われるのかは、その時になってみなければ分かりません。
もうひとつ例をあげましょう。ある企業では、出張に先立って、現地での交通費や宿泊費、取引先に持参する手土産代など、出張中にかかる費用の概算額を前払いしているとしましょう。事前にある程度の金額を調べることはできますが、実際にその通りになるかは分かりません。電車が止まっていて、予定にはなかったタクシーを使うこともあるでしょうし、狙っていた手土産が売り切れていたということもあるでしょう。
このような何に、いくら使われるか分からないといった状況で、現金・預金の支払いを行ったときに勝手にそれらを予想して仕訳を行うことは認められません。記録のなかに実際に起こった出来事と予想を混ぜてしまうと、何が事実で何が事実でないのかが分からなくなってしまうからです。
そこで、このような何に、いくら使われるか分からない状況では、それらが分かるまでの間、仮払金勘定を使って、「まだどうなるかが分からない金額」であることを明示することになっています。
現金・預金を支払ったときの仕訳
現金・預金を支払ったときは、まず、現金・預金を減少させる記録を行い、その反対側に仮払金勘定の記録を行います。現金勘定も預金の勘定も資産の勘定ですから、これらの金額を減少させるときは貸方に記録が行われます。仮払金勘定はその反対側ですから、借方に記録をすればよいことになります。
【設例1】出張に先立って、旅費交通費の概算額として現金10,000円を前渡しした。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
仮払金 | 10,000 | 現金 | 10,000 |
問題文の「旅費交通費」という言葉にだまされて、借方を旅費交通費としないようにしてください。まだ出張は行われていませんから、実際の旅費交通費の額がこの通りになるかどうかはまだわかりません。このような状況では、旅費交通費勘定ではなく仮払金勘定を使って仕訳を行います。
実際の使用明細が分かったときの仕訳
現金・預金が実際に何に、いくら使われたかが判明したときは、仮払金勘定の金額を取り崩すとともに、その判明した内容を記録します。仮払金勘定の金額を取り崩すのは、仮払金勘定がもともと「何に、いくら使われるか分からない」金額を記録する勘定だからです。何に、いくら使ったかが判明したのですから、その記録を残しておく必要はありません。
仮払額=使用額の場合
【設例2-1】【設例1】で前払いした10,000円について、旅費交通費として10,000円使用されたことが判明した。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
旅費交通費 | 10,000 | 仮払金 | 10,000 |
事前に支払っていた金額と実際に使用された金額が一致する場合は、仮払金勘定の記録を取り崩すと同時に、判明した使用目的、使用金額を仕訳するだけです。
この一連の記録の流れを勘定連絡図にまとめると次のようになります。実際の旅費交通費の額が判明するまでの間、仮払金勘定がはさまっていますが、結局は、現金の減少額が旅費交通費額勘定に移動していくという全体の流れに変わりはありません。

仮払額>使用額の場合
【設例2-2】【設例1】で前払いした10,000円について、旅費交通費として9,000円使用されたことが判明した。なお、残額は現金で返金された。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
旅費交通費 | 9,000 | 仮払金 | 10,000 |
現金 | 1,000 |
この場合も、仮払金の減少額が10,000円となっていることに注意してください。旅費交通費として使用されたのは9,000円ですが、残りの1,000円についても現金で返金を受けています。実際に返金を受けている以上、「何に、いくら使われるか分からない」状況ではなくなっていますので、仮払金勘定にこの金額を残しておくわけにはいきません。
さきほどと同じように勘定連絡図で見てみましょう。多すぎた仮払金が、いったん旅費交通費勘定に移された後、あまった1,000円が現金勘定に戻っていることが分かります。いったん多めにお金を支払って、お釣りが返ってきたと考えてみるとわかりやすいと思います。この場合も、現金の最終的な支払額9,000円(=10,000円-1,000円)と旅費交通費の額9,000円が等しくなります。

仮払額<使用額の場合
【設例2-3】【設例1】で前払いした10,000円について、旅費交通費として12,000円使用されたことが判明した。なお、不足額は現金で支払った。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
旅費交通費 | 12,000 | 仮払金 | 10,000 |
現金 | 2,000 |
この場合も、仮払金の取り崩し額は10,000円です。仮払金勘定にはもともと10,000円しか計上していなかったのですから、たとえ旅費交通費が12,000円だったとしても12,000円を取り崩すことはできません。仮払金の取り崩し額は、その取引についてもともと計上していた金額が上限となります。
これについても勘定連絡図で見てみましょう。事前に支払っていた金額では、実際の旅費交通費には足りませんでしたが、この不足額は最後に追加で支払われています。その結果、企業が旅費交通費として支払った金額の合計12,000円(=10,000円)は、実際の旅費交通費の額12,000円と等しくなります。

仮払金勘定の処理は、現金・預金を支払ったときの仕訳よりも、何に、いくら使ったかが分かったときの仕訳の方が難しく感じることでしょう。ただ、仕訳だけで考えると難しいのですが、
- ピッタリだったら調整なし
- 多すぎたらお釣りを返してもらう
- 足りなかったら不足額を追加する
と、まずは文章で考えてみましょう。そこまで難しい話をしていないことが理解できるはずです。仮払金勘定が現金勘定と他の勘定をつなぐワンクッションになっているように、仮払金の処理を理解しようとするときは、文章をワンクッションとしてはさんで考えるようにしましょう。
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仮払金の処理は、仮受金の処理とセットで見ていくと、効率的に学習を進めることができます。細かいことは後から報告を受けるということは、それほど珍しいことではありませんから、お金が出ていった場合も、入ってきた場合も、同じように処理できるようになりましょう。
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