株式を売却したときの処理

簿記有価証券
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株式を売却した場合は、その株式の取得原価と売却によって得られる金額との差額を有価証券売却損勘定または有価証券売却益勘定に計上します。この記事では、同じ銘柄の株式を複数回にわたって取得した場合の払出単価の決定方法や、売却にあたって証券会社等に対して支払う手数料の処理まで含めて説明します

株式の払出単価の決定

市場価格のある株式については、その価格(株価)が常に変動しているため、たとえ同じ銘柄の株式であっても、その取得のタイミングによって1株当たりの原価の額が変わってきます。このような複数回にわたって取得した株式を売却したときは、その売却にともなう損益の額を算定するために、いくらで取得した株式を売却したか(譲渡原価)を確定する必要があります。

譲渡原価を確定する方法として、「法人税法」では、移動平均法と総平均法の2つの方法が認められていますが、特に届出を行っていない場合は、移動平均法を使って1株当たりの譲渡原価を計算することとされています(「法人税法施行令」第119条の2第1項、第119条の7)。

たとえば、ある銘柄の株式を次のように売買していたとしましょう。

  • 4/10 【購入】取得原価5,000,000円、取得株数200株(1株当たり25,000円)
  • 6/15 【購入】取得原価7,800,000円、取得株数300株(1株当たり26,000円)
  • 7/20 【売却】売却株数200株
  • 9/25 【購入】取得原価12,600,000円、取得株数500株(1株当たり25,200円)

移動平均法の場合

移動平均法では、有価証券を取得するたびに、1株当たりの原価を計算しなおしていく方法です。有価証券を取得した後の新しい原価は、次の計算式によって計算されます。

$$1単位当たりの原価=\frac{取得直前の原価総額+新しく取得した株式の取得原価}{取得直前の保有株数+新しく取得した株式の株数}$$

それでは、さきほどの取引例を使って、実際に1株当たりの原価を計算してみましょう。

日付摘要取得売却残高
数量単価金額数量単価金額数量単価金額
4/10購入20025,0005,000,000   20025,0005,000,000
6/15購入30026,0007,800,000   50025,60012,800,000
7/20売却   20025,6005,120,00030025,6007,680,000
9/25購入50025,20012,600,000   80025,35020,280,000

6月15日は、新たに株式を取得したので1株当たりの原価を計算しなおす必要があります。取得原価の総額が12,800,000円(5,000,000円+7,800,000円)、株式の総数が500株(200株+300株)ですから、1株当たりの原価は25,600円(12,800,000円÷500円)となります。

7月20日は、株式の取得ではありませんので1株当たりの原価を計算しなおす必要はありません。ただし、売却によって保有している株式の原価の総額は減っていますから、その減少額5,120,000円(200株×25,600円)を減らしておきます。

9月25日は、再び新たな株思惟を取得したので1株当たりの原価を計算しなおす必要があります。syと組原価の総額が20,280,000円(7,680,000円+12,600,000円)、株式の総数が800株(300株+500株)ですから、1株当たりの原価は25,350円(20,280,000円÷800株)となります。

このように、新たに株式を取得するたびに1株当たりの原価を計算しなおす方法が移動平均法です。

総平均法の場合

総平均法では、会計期間の終わりに1単位当たりの原価をまとめて計算してしまいます。移動平均法のように、取得のたびに原価を計算しなおす必要はありませんが、期末に1単位当たりの原価を計算するまで有価証券の売買損益は分からないといったデメリットもあります。

さきほどの取引例の場合、1単位当たりの原価は、次のように計算できます。

$$\frac{\text{5,000,000円}+\text{7,800,000円}+\text{12,600,000円}}{\text{200株}+\text{300株}+\text{500株}}=\text{25,400円}$$

1単位当たりの原価は、7月20日の売却分は無視して、取得(購入)した日だけのデータを使って計算します。なお、期首に株式がある場合(前期以前から繰り越されてきた株式がある場合)は、その金額も加えて1単位当たりの原価を計算します。

株式を売却したときの仕訳

株式を売却したときは、さきほど計算した1単位当たりの原価に売却した株式数をかけた金額(譲渡原価)と、売却によって得られた収入金額との差額を、その株式の売却による損失または利益とします。なお、売却にあたって、証券会社等に手数料を支払う場合には、その手数料を売却損益に含めるかどうかによって2つの処理方法があります。

以下では、次の取引を使って、それぞれの方法による仕訳を見ていきましょう。

【取引】売買目的で保有している株式300株(1株当たりの原価25,600円)を1株当たり26,000円で売却した。売却にあたって証券会社に対して支払う手数料1,000円を差し引いた残額は後日受けとることにした。

手数料を無視して売却損益を計算する場合

まず、手数料を無視して、譲渡原価と売却金額との差額として売却損益を計上する方法から見ていきましょう。「所得税法」上の株式の譲渡損益に係る明細書では、売却金額と手数料を別に記入することとされているため、個人事業などでは、売却金額と手数料がそれぞれ計上されるこの方法で仕訳をしておくと、後の申告が楽になります。

有価証券売却損益の計上

それでは、売却損益を計上する仕訳からみていきましょう。

この株式は、売買目的で保有されていますので、その金額は売買目的有価証券勘定に記録されているはずです。株式の譲渡原価の額は7,680,000円(25,600円×300株)ですから、この金額を売買目的有価証券勘定から取り除けばよいことになります。売買目的有価証券勘定は資産の勘定ですので、その記録は貸方に行います。

次に、売却によって受け取る金額を計上します。今回は、300株を1株当たり26,000円で売却したのですから、受け取る金額は7,800,000円(25,600円×300株)となります。代金は後日受けとることとされているので、この金額は未収入金勘定に計上します。未収入金勘定には、将来に受け取ることのできる金額が記録されますので、これは資産の勘定です。資産の勘定ですから、その記録は借方に行います。

株式の売却による利益は、この2つの金額の差である120,000円(7,800,000円-7,680,000円)となります。売却によって受け取る金額の方が大きいので、この金額は有価証券売却益勘定に計上します。7,680,000円で取得した財産が、売却によって7,800,000円に増えたので、この財産の増加の理由を表す有価証券売却益勘定は収益の勘定になります。収益の勘定ですから、その記録は貸方に行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
未収入金7,800,000売買目的有価証券7,680,000
  有価証券売却益120,000

手数料の計上

しかし、実際には売却代金7,800,000円をすべて受け取れるわけではありません。ここから手数料1,000円が差し引かれた額が実際に受け取る金額になります。そこで、さきほど計上した未収入金勘定の金額から1,000円を取り除きましょう。未収入金勘定は資産の勘定ですから、ここから金額を取り除くときは貸方に記録を行います。

その代わりに借方に計上されるのが支払手数料勘定です。手数料を支払うことによって、企業の財産は減少しますから、支払手数料勘定は費用の勘定になります。費用の勘定ですから、その記録は借方に行います。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
支払手数料1,000未収入金1,000

なお、この2つの仕訳を1つにまとめて、次のように仕訳してしまうことが普通です。この場合、借方・貸方の両方に出てきている未収入金勘定の金額は相殺されて、その差額である7,799,000円(7,800,000円-1,000円)が未収入金勘定に計上される金額となります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
未収入金7,799,000売買目的有価証券7,680,000
支払手数料1,000有価証券売却益120,000

手数料控除後の金額で売却損益を計算する場合

もうひとつの方法は、手数料を控除した後の受取金額をもとに株式の売却損益を計算する方法です。この場合は、さきほどとは違い、支払手数料勘定の記録は行われません。手数料の額は、受取金額を減らすために使われてしまうので、計上できる金額が残っていないのです。

さきほど見たように、売却した株式の譲渡原価は7,680,000円、手数料を控除した後の受取金額は7,799,000円ですから、この場合の有価証券売却益は119,000円(7,799,000円-7,680,000円)となります。手数料を控除した分だけ有価証券売却益も少なくなっていることに注目してください。

この手数料控除後の金額で売却損益を計算する場合の仕訳は、次のようになります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
未収入金7,799,000売買目的有価証券7,680,000
  有価証券売却益119,000

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