為替手形の処理

簿記債権債務
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為替手形とは,将来の一定の期日(支払期日)に一定の金額(手形金額)を振出人が指定する第三者に支払わせることを約束する手形のことをいいます。約束手形の場合は,振出人(手形を振り出した企業)自身が手形金額を支払うことになりますが,為替手形の場合は,手形金額を振出人ではなく振出人以外の企業に支払わせることになります。

為替手形を処理するにあたっては,自分が振出人,支払人(引受人),受取人のどの立場にあるかを明確に意識することが大事になります。どの立場にあるかによって,行われるべき仕訳がまったく違いますので,どの立場かを曖昧にしておくと,適切に仕訳を行うことができなくなります。

為替手形の振出しにあたって行われる仕訳

為替手形(振出時)

為替手形の場合も,約束手形の場合と同じように,代金を支払いたい側の企業から代金を支払いたい相手(代金を受け取る企業)に対して手形を振り出すことが必要になります。

この為替手形の振り出しは,次の3つのステップで行われます。①まず,代金を支払いたい側の企業(振出人)は,手形金額を自分の代わりに支払ってもらいたい相手(支払人)に対して為替手形を引き渡し,代金の支払いを依頼します(引受の呈示)。②次に,振出人から引受の呈示を受けた支払人は,その手形金額の支払いに同意する場合,引き渡された為替手形に署名をしたうえで,振出人に為替手形を戻します(引受)。③最後に,振出人が,この支払人から署名をもらった為替手形を,代金を支払いたい相手(受取人)に対して引き渡せば,為替手形の振り出しは完結します。

それでは,次の取引を使って,為替手形を振り出したときの仕訳を見ていきましょう。

【取引】X社は,Y社から商品50,000円を仕入れ,代金はZ社からの引受けを得て,為替手形で支払った。X社は,為替手形の引受けの見返りとして,Z社に対するY社における売掛金50,000円の支払いを免除している。また,Y社の収益認識にあたっては,商品の引き渡し以外の履行義務はなく,変動対価(値引・返品・割戻)についても考える必要はない。

受取人(Y社)の仕訳

受取人(Y社)は,この取引によって,為替手形の振出人(X社)と,為替手形の支払人(Z社)との間で,それぞれ次のような事実関係が生じることになります。

  • 振出人(X社)……商品50,000円の売上
  • 支払人(Z社)……将来に50,000円を受け取る権利(金銭債権)の発生

そこで,受取人は,この振出人と支払人との間で生じた事実関係を次のように記録していきます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
受取手形50,000売上50,000

手形金額を受け取る権利は,資産の勘定である受取手形勘定に記録します。「現在,手形を受け取ったこと」ではなく,「将来に手形金額を受け取る権利」が記録されることに注意してください。手形自体は,将来に金銭を受け取るための「引換券」でしかありません。

貸方には,振出人に対する商品の売上についての収益を計上します。「他の履行義務はなく,変動対価について考える必要がない」とされているので,引き渡した商品の販売価格50,000円をそのまま収益の額として計上します。

  参考 商品の売上に係る仕訳②(返品権つきの販売)

支払人(Z社)の仕訳

支払人(Z社)は,この取引によって,為替手形の振出人(X社)と,為替手形の受取人(Y社)との間で,それぞれ次のような事実関係が生じることになります。

  • 振出人(X社)……買掛金50,000円の免除
  • 受取人(Y社)……将来に50,000円を支払う義務(金銭債務)の発生

そこで,支払人は,この振出人と受取人との間で生じた事実関係を次のように記録していきます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
買掛金50,000支払手形50,000

手形金額を支払う義務は,負債の勘定である支払手形勘定に記録します。支払手形勘定は,「手形を振り出した」という行為が記録される勘定ではなく,将来の支払義務(金銭債務)を記録する勘定であることに注意しましょう。

また,支払人(Z社)は,手形金額を支払う見返りとして,振出人(X社)に対する掛代金の支払いを免除されています。このため,かつて商品を仕入れたときに計上した債務である買掛金を取り崩す記録を行います。これが借方の買掛金勘定です。

振出人(X社)の仕訳

振出人(X社)は,この取引によって,為替手形の振出人(X社)と,為替手形の受取人(Y社)との間で,それぞれ次のような事実関係が生じることになります。

  • 受取人(Y社)……商品50,000円の仕入れ
  • 支払人(Z社)……売掛金50,000円の免除

そこで,振出人は,この受取人と支払人との間で生じた事実関係を次のように記録していきます。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
仕入50,000売掛金50,000

仕入勘定は費用の勘定なので借方に,売掛金勘定は資産の勘定なので支払いを免除したときは貸方に記録を行うことになります。

以上のように,為替手形が振り出されたときの仕訳は,振出人,支払人,受取人の3者ともに,他の2者との間で生じた事実関係を借方,貸方にそれぞれ記録していくことになります。上の3つの仕訳では,事実関係が生じた相手の違いによって文字の色を塗り分けていますので,それぞれどの部分がどの相手との関係についてのものかをよく確認するようにしてください。

なお,支払人が支払期日に当初の約束通りに支払いを行わなかった場合,そのような「約束を守れない」企業を支払人とした責任を受取人から追求される可能性があります。

手形代金の決済にあたって行われる仕訳

為替手形(支払時)

為替手形の支払期日が到来したら,支払人から受取人に対して,支払人の当座預金口座経由で支払いが行われます。

もともと為替手形を振り出した振出人の側では,何も取引関係が生じないことに注意してください。振出人は,引受の呈示を行ったときに,支払人に対して掛代金の支払いを免除するということをすでに行っているため,手形金額の支払いには関与しません。

受取人(Y社)の仕訳

受取人(Y社)は,手形金額が預金口座に入金されたタイミングで,預金の増加を記録するとともに,為替手形を受け取ったときに計上した受取手形勘定の記録を取り崩します。なお,手形金額を取り立てるにあたって支払った手数料については,費用の勘定である支払手数料勘定を使って処理します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
普通預金49,000受取手形50,000
支払手数料1,000  

支払人(Z社)の仕訳

支払人(Z社)は,当座預金口座から支払いが行われたタイミングで,当座預金の減少を記録するとともに,為替手形を引き受けたときに計上した支払手形勘定の記録を取り崩します。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
支払手形50,000当座預金50,000

振出人(X社)

振出人(X社)については,手形代金が決済されたときの会計処理は必要ありません。なお,為替手形を振り出したことについて,何らかの備忘記録を行っている場合には,その記録に無事に決済が行われたこと(顛末)を書き添えておきます。

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