この記事では、決算整理において行われる手続のひとつである商品評価損の処理について見ていきます。
かつて企業会計では、期末商品棚卸高の評価について、商品評価損を認識しない原価法と、商品評価損を認識する低価法の2つから選択することが認められていました。しかし、現在では、低価法が強制適用となり、原則として、原価法を選択することはできません(ただし、税法上は、原価法と低価法の選択が認められています)。
商品評価損とは
期末に保有する商品の正味売却価額(見積売却価額から見積販売費用〈商品の販売に直接要する金額に限る〉を差し引いた金額)がその商品の帳簿価額を下回った場合、企業は、商品の帳簿価額を正味売却価額まで引き下げなければなりません(「棚卸資産の評価に関する会計基準」第7項)。この商品の帳簿価額の引き下げにともなう純資産の減少額を商品評価損といいます。
企業は、利益を稼ぐことを目的として活動しています。商品売買取引を通じて利益をあげるためには、商品の仕入れにあたって支払う金額(取得原価)よりも高い金額で売却する必要があります。保有する商品について、帳簿価額(基本的に取得原価)が正味売却価額を下回っているという状況は、その商品を販売しても利益が得られず(損失が生じ)、本来、商品に期待される役割を果たせない状況にあることを意味します。
貸借対照表の利用者は、貸借対照表に商品が計上されている場合、その企業がその商品を売却して利益をあげるであろうと考えます。貸借対照表利用者は、売却しても利益が得られないものが「商品」として貸借対照表に計上されていることは基本的に考えていないので、このような商品が貸借対照表に計上されていると、利用者に「予想外の損失」を与えてしまう可能性があります。
そこで、帳簿価額が正味売却価額を下回っている商品については、正味売却価額まで帳簿価額を引き下げることで、貸借対照表に計上される商品の額を、最低限、損失が出ないレベル(貸借対照表の利用者に「予想外の損失」を与えないレベル)にまでもっていくわけです(「棚卸資産の評価に関する会計基準」第36項・第37項)。
なお、商品評価損は、商品の時価を貸借対照表に示そうとするものではありませんから、商品の正味売却価額が帳簿価額を上回っていたとしても、商品の帳簿価額を正味売却価額まで引き上げることはしません。
商品評価損の処理
商品評価損の処理を行うタイミング
商品売買取引の仕訳を売上原価対立法で行っている場合
売上原価対立法では、商品を仕入れたときも、売り上げたときも、商品の取得原価ベースで商品勘定に記録が行われます。このため、商品勘定の残高は、常にその時点で保有している商品の取得原価(帳簿棚卸高)を表しています。
このような場合は、まず棚卸減耗損の処理を行ってから、商品評価損の処理を行います。これらはどちらも商品勘定の帳簿価額を引き下げる処理となります。
商品売買取引の仕訳を三分法、総記法などで行っている場合
商品売買取引の仕訳を三分法や総記法で行っている場合は、繰越商品勘定または商品勘定の残高が、期末に保有している商品の取得原価を表していませんので、先に繰越商品勘定や商品勘定の残高が期末に保有する商品の取得原価(帳簿棚卸高)となるように必要な調整を行います。三分法の場合は、売上原価の計算(帳簿棚卸高で行う)、総記法の場合は、商品売買益の振替えです。
その後は、売上原価対立法の場合と同じで、棚卸減耗損の処理、商品評価損の処理という順に行っていきます。
参考 棚卸減耗損の処理
商品評価損の処理
商品評価損を計上する仕訳には、切放法と洗替法の2つがあります。企業は、どちらか1つの方法を選択して会計処理を行います。一度選択した方法は、合理的な理由がないかぎり、その後も使い続けなければなりません(「棚卸資産の評価に関する会計基準」第14項)。
切放法
切放法とは、決算にあたって引き下げた帳簿価額を次期以降もそのまま継続して使用する方法をいいます。帳簿価額を引き下げた後に、取得原価が再び使用されることはありません。
【設例1】決算にあたり、期末に保有する商品の評価替えを行う。商品の期末帳簿価額は200,000円、正味売却価額は180,000円であった。なお、当社では、商品売買取引の仕訳を三分法で、商品評価損の仕訳を切放法で行っている。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
商品評価損 | 20,000 | 繰越商品 | 20,000 |
商品売買取引の仕訳が三分法で行われているため、貸方は繰越商品勘定となります。これがたとえば売上原価対立法であれば、貸方は商品勘定になります。商品売買取引の仕訳の方法によって使用される勘定も異なりますから注意してください。
洗替法
洗替法とは、決算にあたって引き下げた帳簿価額を翌期首付で元の金額(取得価額)に戻す方法をいいます。もともと帳簿価額を引き下げる目的が貸借対照表に表示される商品の額を正味売却価額にすることにありましたから、貸借対照表が作成された後は元の状況に戻しても問題ありません。このようにすることで、商品売買益の額を純粋に売価と原価の差額として求めることができるようになります。
【設例2】決算にあたり、期末に保有する商品の評価替えを行う。商品の期末帳簿価額は200,000円、正味売却価額は180,000円であった。なお、当社では、商品売買取引の仕訳を三分法で、商品評価損の仕訳を洗替法で行っている。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
商品評価損 | 20,000 | 繰越商品 | 20,000 |
この場合、翌期首付で行われる仕訳は次のようになります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
繰越商品 | 20,000 | 商品評価損戻入益 | 20,000 |
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