企業が保有する債券(国債・社債等)のうち、その満期(償還日)まで継続して保有する目的で保有されるものについては、貸借対照表上、その取得原価ではなく、償却原価法という方法を使って修正された帳簿価額をもって計上しなければなりません。
償却原価法による具体的な帳簿価額の調整方法は、原則的な方法である利息法と、簡便な方法である定額法の2つのものがあります。この記事では、原則的な方法である利息法を使って行われる満期保有目的債券の帳簿価額の修正について見ていきます。
償却原価法(利息法)のプロセス
利息法による満期保有目的債券の帳簿価額の修正は、利払日と決算日の2つのタイミングで行われます(ただし、利払日と決算日が同日になる場合は、決算整理事項として帳簿価額の修正が行われることはありません)。定額法の場合は、利払日に満期保有目的債券の帳簿価額の修正が行われることはありませんが、利息法の場合は利払日にも修正が行われます。
利払日に行われる帳簿価額の修正は、次の3つのステップで行われます。
- 直前の帳簿価額に実効利子率を掛けて利息の総額を求める。
- 1.で求めた利息の総額から受け取った利息を計上する。
- 2.を差し引いた残額が満期保有目的債券の帳簿価額の修正額となる。
決算日については未経過分の利息の額を使って同様の処理を行いますが、先に利払日の処理を見てからの方が分かりやすいので、決算日の処理についてはこの記事の後半に回すことにします。
なお、満期保有目的債券の実効利子率の求め方については、次の記事で紹介していますので、そちらを参照してください。
利払日が決算日と同日になる場合
【取引1】当社は、満期保有目的により、20X1年4月1日に、甲社社債(額面金額1,000,000円)を980,000円で取得している。この社債の利払日は毎年3月31日であり、年利率は額面金額に対して1%である。
この社債について、利払日である20X2年3月31日に必要となる仕訳を示しなさい。なお、社債の利息(額面金額に対するもの)は普通預金口座に入金されている。また、当社の会計期間は毎年4月1日から翌3月31日までの1年間であり、この社債の償還期日は20X5年3月31日である。
利息の総額を求める
この社債の実効利子率を計算すると、年1.519%になります。今、仕訳が求められている20X2年3月31日の甲社社債の帳簿価額はその取得原価である980,000円ですから、この社債について発生した当期分の利息は14,886円(980,000円×1.519%)となります。この金額は、収益の勘定である有価証券利息勘定に計上します。収益の勘定ですから、その記録は貸方に行います。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
有価証券利息 | 14,886 |
受け取った利息を計上する
20X2年3月31日は社債の利払日ですので、この日に受け取る利息の額を計上します。利息は社債の額面金額1,000,000円に対して1%ですから、その金額は10,000円(1,000,000円×1%)となります。利払日に支払われる利息の額は、さきほど計算した帳簿価額に実効利子率を掛けた金額とは異なりますので、混同しないように注意してください。
利息は普通預金口座に入金されていますから、この金額を普通預金勘定に計上します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 10,000 | 有価証券利息 | 14,886 |
残りの金額を債券の帳簿価額に加減する
この借方(受け取った利息の額)と貸方(利息の総額)の差額が満期保有目的債券の帳簿価額の修正額となります。この取引例の場合は、利息の総額である14,886円から受け取った利息10,000円を差し引いた4,886円となります。
差額は、借方と貸方のうち金額が少ない方に計上します。この取引例のように借方に計上されている金額の方が少ない場合は借方にその差額を計上します。満期保有目的債券勘定は資産の勘定ですから、借方に計上された場合は、満期保有目的債券の帳簿価額は増加します。逆に、貸方の方が少ない場合は貸方にその差額を計上します。貸方に計上された場合は、満期保有目的債券の帳簿価額は減少することになります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 10,000 | 有価証券利息 | 14,886 |
満期保有目的債券 | 4,886 |
償却原価法(利息法)における帳簿価額の変化
これと同様に、2年目以降も償却原価法(利息法)でこの社債の帳簿価額を修正していくと、次のようになります。なお、最終年度は、端数調整のため、期首帳簿価額と額面金額の差額が帳簿価額の修正額(④の金額)になるようにしています(期首帳簿価額に実効利子率を掛けることはしません)。
期首帳簿価額 | 利息の総額 | 受け取った利息の額 | 帳簿価額の修正額 | 期末帳簿価額 | |
---|---|---|---|---|---|
①(前期の⑤) | ②=①×1.519% | ③ | ④=②ー③ | ⑤=①+④ | |
X1/4/1-X2/3/31 | 980,000 | 14,886 | 10,000 | 4,886 | 984,886 |
X2/4/1-X3/3/31 | 984,886 | 14,960 | 10,000 | 4,960 | 989,846 |
X3/4/1-X4/3/31 | 989,846 | 15,036 | 10,000 | 5,036 | 994,882 |
X4/4/1-X5/3/31 | 994,882 | 15,118 | 10,000 | 5,118 | 1,000,000 |
このように、利息法では、債券の取得価額に加減される金額が時間の経過につれて変化していくところが特徴になります。債券を額面金額よりも低い価額で取得した場合は、上の表のように調整額が次第に大きくなっていき、逆に、債券を額面金額よりも高い価額で取得した場合は、調整額が次第に小さくなっていきます。
利払日と決算日が一致しない場合
【取引2】当社は、満期保有目的により、20X1年7月1日に、乙社社債(額面金額1,000,000円)を980,000円で取得している。この社債の利払日は毎年6月30日であり、年利率は額面金額に対して1%である。
この社債について、決算日である20X2年3月31日に必要となる仕訳を示しなさい。なお、当社の会計期間は毎年4月1日から翌3月31日までの1年間であり、この社債の償還期日は20X5年6月30日である。
利息法では、原則として、利払日に債券の帳簿価額の修正を行いますが、利払日が決算日と一致しない場合は、貸借対照表上の債券の価額の適切に表示するため、例外的に帳簿価額の修正を行うことが必要となります。
この場合は、いったん決算日直後の利払日に計上されるはずの金額を計算してから、その金額を月割計算によって当期分の金額に修正するという順番で処理を行っていきます。
利息の総額を求める
この社債の実効利子率を計算も年1.519%になります。決算日を無視してよければ、次の利払日である20X2年6月30日には、さきほどと同じように乙社社債の取得原価980,000円にこの実効利子率1.519%を掛けた14,886円(980,000円×1.519%)を有価証券利息として計上すればよいことになります。
しかし、この問題では、その前の20X2年3月31日に決算日を迎えることになります。この場合は、さきほど計算した1年分の利息を使って、当期分の収益の額を前倒しで計上します。当社は、債券を20X1年7月1日に取得し、期末である20X2年3月31日まで9か月間保有していますから、当期分の収益の額として計上すべき金額は11,165円(14,886円×9か月÷12か月)となります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
有価証券利息 | 11,165 |
受け取るはずの利息を計上する
次に、額面金額に対して付される利息について、当期分の金額を未収収益として計上します。利払日である20X2年6月30日に、額面金額に対して付される利息の額は10,000円(1,000,000円×1%)ですから、このうち当期分の金額は7,500円(10,000円×9か月÷12か月)になります。未収収益勘定は資産の勘定ですから、その記録は借方に行います。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
未収収益 | 7,500 | 有価証券利息 | 11,165 |
残りの金額を債券の帳簿価額に加減する
この借方(受け取った利息の額)と貸方(利息の総額)の差額が満期保有目的債券の帳簿価額の修正額となります。この取引例の場合は、利息の総額である11,165円から未収収益として計上した利息7,500円を差し引いた3,665円となります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
未収収益 | 7,500 | 有価証券利息 | 11,165 |
満期保有目的債券 | 3,665 |
利払日の処理
ちなみに、利払日である20X2年6月30日の仕訳をあわせてみておきましょう。
有価証券利息勘定には、1年分の利息の総額14,886円(980,000円×1.519%)から決算日に計上した11,165円を差し引いた残りの3,721円(14,886円-11,165円)となります。
これに決算日に計上した未収収益7,500円を取り崩し、受け取った利息10,000円を計上した後の貸借差額1,221円(3,721円+7,500円-10,000円)が満期保有目的債券の帳簿価額の修正額となります。この金額は、1年分の帳簿価額の修正額(【取引1】の4,886円)から決算日に修正した3,665円を差し引いた残りの1,221円(4,886円-3,665円)と一致します(端数の関係でズレが生じる場合もあります)。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 10,000 | 有価証券利息 | 3,721 |
満期保有目的債券 | 1,221 | 未収収益 | 7,500 |
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