役員賞与の会計処理

簿記収益・費用
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取締役、執行役、監査役をはじめとする会社の役員に対して支給される賞与については、かつては株主総会で決算が承認された(利益の額が確定した)タイミングで、その利益の一部を報酬として支払われることが一般的でした。会社の所有者としての立場にある株主が、その会社を運営している役員に対して、利益が出たという「成果」に報いるために支払われるもの(成果報酬)が役員賞与であると考えられていたためです。

しかし、2005年の「会社法」の改正により、役員に対する賞与も、他の給与等の報酬と同じように職務執行の対価として位置づけられるようになりました。役員に対する賞与も、利益が出たという「成果」の有無にかかわらず、役員として仕事をしたという「労働実態」に対して与えられるものということで、法律上の位置づけが確立したわけです。

このため、役員報酬については、たとえその支給額や支給時期が株主総会で決議されることとされていたとしても、会計上は、発生時(役員が役員としての仕事をしたとき)に費用として計上することとされています(「役員賞与に関する会計基準」第3項)。

支給額を事前に確定している場合

法人税法では、役員に対して支払う報酬について所定の時期に確定した金額を支払うこととしている場合は、その決議が行われた株主総会から1か月以内、または、期首から原則として4か月以内に届出を行うことが求められています(事前確定届出給与。この届出がない場合、役員賞与の額を損金の額に算入することができません=税額が増えます)。

このように、役員賞与として支給する額が事前に定められている場合は、当期中に役員としての仕事を行っていた期間に相当する金額を費用として計上します。期末時点において、まだ支払われていない金額がある場合は、その金額を未払費用として計上します。

【例1】20X1年7月1日付で新たに取締役として就任したA氏に対して、当社は、12月末と6月末にそれぞれ200万円の賞与を支払うこととしている。なお、当社の会計期間は、毎年4月1日から3月31日までの1年間である。

まず、12月末(12月31日)に支給される賞与ですが、これは当期中に行われた職務(7月~12月)に対して支給される金額ですから、当期の費用として処理しなければなりません。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
役員賞与2,000,000当座預金2,000,000

次に、決算時に必要となる処理です。12月末の賞与の支給後、3か月(1月~3月)にわたって行われた職務に対する賞与は6月末に支給されることになっています。したがって、決算日である3月末(3月31日)には、このまだ支払われていない3か月分の賞与1,000,000円(2,000,000円÷6か月×3か月)を見越計上する(未払費用を計上する)必要があります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
役員賞与1,000,000未払費用1,000,000

この場合、翌期首に再振替仕訳を行って、支給日にその支給額を満額費用として計上することになります。これは、通常の費用の見越しの場合と同じです。

翌期首(20X2年4月1日)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
未払費用1,000,000役員賞与1,000,000

賞与支給日(20X2年6月30日)

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
役員賞与2,000,000当座預金2,000,000

この一連の仕訳により、翌期に役員報酬として費用計上される金額は1,000,000円となります(-1,000,000円+2,000,000円)。

支給額を事後的に確定する場合

現在も、以前のように、役員賞与として支給する額を、実際に成果である利益の額が株主総会において確定してから決定することもできます。株主総会は、会計期間が終わった後、一連の決算手続を終えてから行われるものですから、この場合は、企業のために活動した期間=賞与を費用として計上すべき期間には、賞与として支給する額がまだ決まっていない状態になります。

このような場合は、株主総会において決議されると見込まれる役員賞与の額を、株主総会に先立って引当金として計上することになります(「役員賞与に関する会計基準」第13項)。

【例2】20X1年7月1日付で新たに取締役として就任したA氏に対して、当社は、1年間(20X1年7月1日~20X2年6月30日)の職務について400万円の賞与を支給することを考えている。このA氏に対する賞与の額は、20X2年6月30日に開催される株主総会において決議される見込みである。なお、当社の会計期間は、毎年4月1日から3月31日までの1年間である。

このような状況の場合、20X2年6月30日に決議される役員賞与の額のうち、当期(20X1年4月1日~20X2年3月31日)までの職務に対して支給される予定の3,000,000円(4,000,000円÷12か月×9か月)については引当金を計上しなければなりません。この場合、引当金の計上にともなって計上された借方の役員賞与引当金繰入額が当期の費用の額となります。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
役員賞与引当金繰入3,000,000役員賞与引当金3,000,000

これは費用の見越計上ではありませんから、翌期首の再振替は必要ありません。その代わりに、20X2年6月30日の株主総会において役員賞与の支給が決定されたタイミングで、計上した引当金を取り崩すことになります。支給額と引当金の取崩額との差額1,000,000円(4,000,000円-3,000,000円)は、翌期分(20X2年4月1日~20X2年6月30日)の役員の職務に対する報酬となります(4,000,000円÷12か月×3か月)。

借方科目借方金額貸方科目貸方金額
役員賞与引当金3,000,000未払金4,000,000
役員賞与1,000,000  

企業会計基準第4号「役員賞与に関する会計基準」はとても短い会計基準ですので、会計基準がどのようなものかを知るための第一歩として取り組みやすいものとなります。ぜひ時間に余裕があれば、直接目を通してみてください。

簿記は、会計基準の定めを具体例を使いながら説明していくものですが、その大元となっている会計基準を直接確認できるようになると、自分で仕訳を考えていくといったことも可能になります。企業のなかで実際に行われている取引のなかには、教科書通りにはいかない複雑なものも多数あり、このような会計基準をもとに自分で仕訳を考えていくという作業が実際に必要になってくる場面も出てきます。ある程度、簿記のスキルが身についてきたら、会計基準を読んでみるという「次の」ステップにもすすんでみるとよいでしょう。

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