はじめに
このブログも開設から1年半ほどを経過してきました。簿記学習のためのコンテンツをいろいろと出していますが、そのねらいとしては、社会に出てから簿記の必要性を実感することになった人に対して素材を提供すること、学生が講義で学んだ内容を復習するのに役立ててもらうことなどいくつかのものがありますが、「どの領域のコンテンツが最も読まれるか=うまく説明されていないかを私が把握したい」というのもそのひとつです。
アクセス解析の結果、これまでのところ商品有高帳について説明している記事に対するアクセスが群を抜いて多いことが分かりました。時間的制約のある講義などでは商品有高帳だけのために多くの時間を割くことができないこと、他の補助簿と違って考えなければならないことが多いこと(単純作業として済ませてしまうことができないこと)、典型的なひっかけとして売価情報が問題文に示されていることなど、さまざまな要因があるのだろうと思います(まだこのブログでは記事を書いていないのですが、同様の理由から、精算表についても多くのアクセスが集まるのだろうなあと思っています)。
簿記の学習では、仕訳の学習がどうしても中心になってしまいます。とりわけ、現在のように、実務において会計ソフトや経理システムなどが普通に活用されている状況のもとでは、適切に入力することさえできてしまえば、記帳や集計についてはコンピュータ任せで問題ないという見方もできてしまいますから、その入力=仕訳以外の部分が相対的に重視されなくなるのも仕方のないことかなとも思います。
「書いてみる」ことが必要な理由
しかし、学校の試験や、簿記検定などの資格試験では、依然として手計算で商品有高帳を作成させるといった問題が出題されますし、実務上、商品有高帳について最低限の知識を持っておかなければならない(コンピュータが出力した結果を読み、理解できる力が求められる)といったこともあるでしょう。
商品有高帳の勉強をするときには、タイトルにもあるように、教科書等の説明を読みながら、実際に手を動かして書いてみるのが一番手っ取り早いです。簿記の学習にあたっては、「手で覚える」といったことをよく説明されると思うのですが、なかなか理解が進まなかったり、同じところで同じように間違え続ける学生というのは、おおむね(試験直前に)教科書や資料を斜め読みするだけで手を動かしていないという共通の特徴があります。他の科目ではそれでも試験に対応できてしまうのかもしれませんが、簿記、しかも商品有高帳のような大きな表を作成させる問題ではかなり難しいと思います。
教科書などを見るのと、実際に書いてみるのとでは、「見える範囲」が大きく違います。
教科書などでは、紙という限界があることもあり、たくさんの数字が入った完成図が掲載されることになります。このたくさんの数字が一気に見えてしまうというのは、自然と「どこに注目したらいいかわからない」「何がどうなっているのかわからない」という印象につながりがちです。
ブログでは紙幅の制限がないので、このブログの記事では、少しずつ記録を完成させていくといったアプローチで説明をしていますが、それでも文字情報である以上、他の部分(すでに記入が終わっている部分)も見えてしまうという意味では限界があります(最近、GIFアニメーションが作れるようになりましたので、近いうちにこれらの記事もGIFアニメーションを使う形で改善するつもりです)。
一方、書くという作業をすると「今はこのマスをうめなければ」といったように、注目すべき場所を自らの意思で(おそらく自然にでしょうが)限定することができます。たくさんのマスが並んでいる状況では迷子になってしまう人も、「このマスを埋める」とターゲットが明確に限定されているのであれば、そのような迷いは生じません。その先の部分はまだ白紙ですから、当然、気になることもありません。
「実際には見えているものを見なかったことにする」というのは簡単なことではありません。しかし、実際に白紙の状態から少しずつ書いていくということをやれば、本来見なくていいものははじめから目にしなくて済むのです。
商品有高帳への記帳を行うにあたって意識すべきこと
最後に、商品有高帳を書いていくときのコツを3つほど書いておきます。
第1に、商品有高帳は商品の原価を記録していくものだということを何度でも繰り返し理解することです。慣れないうちは、解答用紙の上の方に「原価」と書いておいてもいいかもしれません(提出前に消してください)。私は、講義中では、「商品有高帳は、倉庫の管理者が記録するものだと思いなさい。倉庫の管理者は、商品が倉庫から出荷されたときに、その事実を商品有高帳に記録する。その商品がいくらで売れたか(売価)は、倉庫の管理者には関係のない話だ」といったように説明しています。これが事実かどうかは別にして、払出(出荷)の話と売上の話は別ということをイメージさせるために使っているネタです。
第2に、先入先出法では、取得日・取得単価の異なる商品をそれぞれ別のものとして考えるということです。商品有高帳の記録は商品ごとに行われますから、実際には取得日・取得単価が異なっていたとしても、同じページに行われる記録は同じ商品の記録なのですが、「同じ商品」というイメージが強すぎると、取得日・取得単価が異なるものを書き分けることを忘れて合算してしまいがちです。講義でも、10日に仕入れたものは○、15日に仕入れたものは△といったように、形を変えた図を書いて説明をするようにしています。
第3に、移動平均法では、単価を最後に書くことを徹底することです。商品有高帳では、各記入欄が数量・単価・金額と並べられており、ついつい左から順番に埋めていってしまいたくなるのですが、ここはぐっと堪えてください。移動平均法によって記帳をする場合は、数量・金額を先に埋めてしまって、最後に金額を数量で割ることによって単価を計算します。なお、平均単価の変更が必要となる、商品の仕入れや値引・割戻のときだけではなく、商品を売り上げたときも、同じように記録していくことをおすすめします。○○のときはAという方法、△△のときはBという方法といった複雑な覚え方をすると忘れてしまいがちです。
このような点を意識しながら、繰り返し記帳を行ってみてください。何度かやれば、「このようにすればいいんだ」といったものが見えてくるはずです。
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