またしても日商簿記検定がやらかしたようですが―日商簿記検定2級の信頼回復に向けて

簿記
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2021年2月28日に施行された第157回日商簿記検定、またしても2級の問題で会計基準の改定が予定されているリース取引が出題されたり、商業簿記で製造業を前提とした財務諸表の作成問題が出題されたりといったことがあったわけですが。

日本簿記学会・日本会計教育学会はステートメントを発信すべき

昨年あたりから学術会議や社会学がらみの騒ぎで「自浄能力が」と言われることが増えてきていて、昨今の日商簿記検定(特に2級)の進め方には一会計教員として、一会計学者として思うところがあるのですが(以前の記事にも少し所見を述べています……日商簿記検定2020年度・21年度・22年度の変更点について)、日本簿記学会や日本会計教育学会はいい加減見解を出したらいかがでしょうか。共通テスト(旧・センター試験)では所見を出しているのですから。

2級商業簿記の難化と分量の増加は、ここ数年来、試験のたびに言われ続けていることで、この状況を放置しているのはいい加減まずいと思います。日商簿記2級の受験をするのは、税理士・公認会計士の受験を予定している者くらいで、日商簿記3級レベルで簿記の勉強をやめてしまう(あきらめてしまう)という学生も出てきてしまっています。これでは、簿記・会計人材の裾野を狭めてしまうことにもなりかねません。

日商簿記検定2級は、就職に向けて求められる資格としての社会的ステータスも認められている試験ですから、税理士試験や公認会計士試験のように、名前を出して自らの責任を明らかにすべき時期ではないでしょうか。「出題の意図」や「講評」と称して、現場の責任に押しつけるだけで、自ら襟を正すことから逃げ続けていてはいけないと思います。

また、出題者は、税理士や公認会計士の有資格者(もしくはそれらの指導にあたっている人)か比較的若い方であるように思われますが、一度、テスト理論や評価法などを勉強して、テストの作り方や質保証のあり方など検討された方がよいのではないでしょうか。

日本商工会議所は資格のありかたを今一度考えなおすべき

日本商工会議所も資格取得に向けて努力している人を「金づる」にしていてはいけない。調子に乗りすぎている。難易度を高騰させて何度も受験させようとするやり方(そうとしか思えない)が非難されてきたなかで、CBT方式でさらに受験回数を増やさせるというのはいかがなものか。試験のやり方がまったく異なるペーパー試験とCBT試験を混在させ、試験時間も内容も大きく変更するなかで「同じ資格だ」と強弁するのは厚かましささえ覚えるくらいです。

日本商工会議所は、(同じ資格を継続する形式をとりながら)新しい日商簿記検定のコンセプトをいうものを打ち出しています。

1. 資格授与に加えて学習の成果・到達度を測る試験として活用していただけるよう、日々の学習の成果が試験結果に反映される出題内容とします。

2. ビジネスの現場でスピードは不可欠であることから、スピードと正確性を求める出題内容とします。

3. 試験対策にとどまらず真の簿記学習を奨励し、試験範囲すべての理解度を問う出題内容とします。

4. 初級から1級まで、ステップ・バイ・ステップで上位級を目指せる出題内容とします。

第157回簿記検定試験を受験された皆様へ | 商工会議所の検定試験
  2021年2月28日受験者各位  日本商工会議所第157回簿記検定試験を受験いただき、ありがとうございました。1.合否発表等について(1)合否発表の期日や方法は商工…

1・3は昨今の講評にみられる姿勢ですし、2は昨今の試験のえげつない量の出題に反映されているものなので、2021年度になっても従来のやり方が大きく変わることはないのでしょうが、この方針がどのような形で試験に反映されるのかについては、じっくり拝見させてもらいます。

ただ、「真の簿記学習」を謳うのは調子に乗りすぎです。普段の講評から日商が一貫して見せている姿勢ですが、一体何様のつもりなのでしょうか。全方位にケンカを売っていったい何がしたいのか、日商の良識を疑います。そんなことを言うなら、最近の会計基準の動向を踏まえた問題を出せよと。会計基準を無視して出題される試験の勉強をすることのどこが「真の簿記学習」になるのでしょうね。

簿記を勉強しているみなさんは淡々と勉強を続けてください

難しい問題、解ききれない問題が出題されたときに、怒りのぶつけ先を探したくなる気分は非常に分かります。ただ、ひととおり落ち着いたらまた学習を始めてください。上記のように、この数年は、また会計基準がちょくちょくと改定されていることから、簿記上の処理も従来のやり方とは変わってきています。

私にはまだ何が「真の簿記学習」なのかよくわかりませんが、簿記上の処理は、もともと会計基準から導き出されるものですから、簿記の勉強をしたら、少しずつで構わないので関連する会計基準を読んでみるということにチャレンジしてみるとよいでしょう。ASBJのウェブサイトには、会計基準の内容を具体的な取引例や仕訳を使って説明した適用指針というものも掲載されていますから、まずはそちらから手をつけてみると仕訳と会計基準のつながりをイメージしやすくなるのではないかと思います。

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